第27話 アスラン王国
昨夜9時の更新で、うっかり別の話数をアップしてしまいました。
申し訳ございません。
今回の外遊は、ラプターのような小型竜に騎乗した近衛騎竜隊と十台の竜車での移動だ。転移なら一瞬だけれど、王は移動も仕事のうち。
街道を走り、民に姿を見せ、町に宿泊し、お金を落としながらの旅である。何処までも続く牧歌的な風景は、河川が近付くと突然痛々しいものへと変わる。交通の要である街道と橋は最優先で復旧させたが、町の復興は難しい。住むべき人々が居ないのだから。
国境を越えると、道ゆく人々の服装や建物がアラビアンな雰囲気に変わる。
郷魔国とさほど変わらない緯度だというのに、明らかに気温が高く、湿度も低めだ。王都ランシーザに入る少し手前で、シルヴィアとヴァルバロッテがゴーレムを召喚し、魔法珠より出したオープン馬車に乗り換えた。魔王キキョウ来訪アスラン王都パレードの開始だ。一行は、銀翼の騎馬ゴーレムを駆るシルヴィアを先頭に、大歓声の中をにこやかに手をふりながら、大通りを宮殿に向け、ゆっくりと移動した。
「よくぞ参られた。転生なされたキキョウ陛下にお逢いできた事、心より嬉しく思いますぞ」
「ありがとうございます、ナルサス陛下。こたびの郷魔国への御援助、深くお礼申し上げます」
「いやいや、陛下は遠き時代の我らが母でありますゆえ、母の国をお支えするのは我ら子の務め。お気になさらず」
宮殿に到着後、休息を挟み、ナルサス王との会見の場が設けられた。
恰幅のよいナルサス王と並び、大きなクッションのような椅子に座る。
この国の王の間では、全員が丸い座布団のようなクッションに座るスタイルらしい。
いつものようにクロとノエルが左右に侍り、ヴァルバロッテとシルヴィアが護衛として側に立つ。ナルサス王側にも勇者らしき護衛が二名立っている。
向かって右列にちょこちょこんと、ベルテとアスフィー、そしてセーラも緊張気味に座って……いなかった。
彼女たちの視線は、向かいにの左列に座る白い髪にサファイアの瞳の美少年に注がれていた。
アスラン王国第三王子ティメルである。
ツノはなくとも魔王キキョウの“妹”だと紹介したならば、誰もが信じるであろう。
そんな姫君のように可憐な容姿の王子様だ。
キキョウの血が流れるアスラン王家には、数十年おきに、このような容姿の子が生まれるという。鬼人の子も普通に生まれてくるらしい。
私の前に跪き、王子たちが順に挨拶をしてゆく。緊張する第三王子に順番が回ってきた。
「はっはじめまして、ティメルと申します。キキョウ陛下にお逢いできて光栄で――むぐぐっ」
思わず体が動き、うちの妹達にするみたいに、おっぱいに顔を押し付けながら抱きしめてしまった。
まるで女の子のような彼だが、反応は間違いなく男の子だ。
ごめんね、私の魔王服ってちょっと刺激的だから。え。違う、そうじゃない?
彼はベルテと同じ13歳。先週誕生日を迎えたというので、誕生祝に何か欲しい物がないかと訊ねてみた。
「あの……でしたら、陛下のゴーレムが見たいです!」
想定外の要望にすこし驚いたが、もちろん快諾した。折角なのでシルヴィア達のゴーレムも見せてあげようか。ここには私も含め、四人ものゴーレム使いがいるからね。
ティメル王子の喜ぶ姿は、歳相応の男の子だった。とても微笑ましい。
おやおや、ベルテが彼をギャン見している。もしや……
まさか余の代でキキョウ様が転生されるとはのう。
そして今、余の隣にその玉体が……なんという美しさか。
しかもその衣装は、煽情的すぎて目のやり場に困る。
そして、あの胸。ああっ抱きしめられる息子が羨ましいぃっ!
ああっ、王妃よ睨まんでくれ。
さて、我が王家には、有事の際は郷魔国を支えよと、龍王様のお言葉が千年もの昔から伝わっておる。
此度のアルス王国の蛮行に際し、まず我が国は、国境沿へ騎士団を展開。チャビール王国を牽制した。チャビールはドブネズミのように姑息な小国だ。洪水による混乱に乗じ、郷魔国の村をいくつも襲ったという。その後は郷魔国へ食糧支援を行った。こちらの台所事情も決して良いとは言えぬので、臣下には反対されたがのう。
だが、転生されたキキョウ様が戻られると、瞬く間にアルス王国が滅んだ。
魔導通信具に映る、アルスの王城が吹き飛ぶ様には度肝を抜かれたわ。
今、余の隣に座るキキョウ様は、とても温和で歳相応の美しい娘に見えるが、実は神魔のたぐいではなかろうか。王子達よ、彼女の色香は凄まじいが、くれぐれも早まるなよ。
「これは、心ばかりのお礼です。お納めください」
此度の礼だと渡された目録が読み上げられると、余は仰天し、玉座から転げ落ちそうになった。
まず穀物類を三万トン、十年間無償供与。そして高位付与魔術師の不在により、今やいくら金を積んでも手に入らぬであろう、健康の加護などの貴重な付与を施された宝石や宝飾品が、次々と目の前に並べられてゆく。
健康の加護が二十個? いったいどれ程の価値があろうか。そして王妃や姫達が目を輝かせる、美の加護を付与した腕輪や指輪。更には同盟国とはいえ、おいそれと渡す事などしないであろう、軍事力強化につながる騎士や戦士の加護も大量にある。
あまりの大盤振る舞いに、いやビビったわ。
「こちらのクロちゃんが、陛下に褒美を与えたいそうです」
「ほう、そちらのお嬢さんが余に?」
その言いように余の臣下達が少々気色ばんだ。
この娘、随分前に封印城で見かけたが……全く成長せぬ所を見るに勇者か。
しかもキキョウ様に侍っている娘だ。只者ではあるまい。
「龍王リヴァイアサン様です」
只者じゃなかったーっ!!
神々しい龍人の御姿へと顕現した龍王様の足元に、余は飛び上がって土下座した。
臣下達も同様に飛び上がって、ぴょんぴょん土下座をしてゆく。
「イルカのショーみたい」え。何ぞそれ。
「アスラン王国、国王ナルサスよ」
「ははぁっ!」
「我の命を守り、我の宝である郷魔国を支えてくれた事、嬉しく思います」
「もっ勿体なきお言葉にござりまする!」
「褒美として、この剣を授けましょう」
「こっ……これはもしや……」
「銘を“獅子丸蒼月”という」
それはまるでアスラン海の鮮やかな青を刀身に焼き付けたような、美しいシャムシールであった。
龍王様が下賜くださったこの剣は、伝説と謳われる龍王七牙剣の一振り。現在、この剣を持つ者は、大英雄と呼ばれし王達。ライアット勇者弓王、商人魔王カリマー、勇者獣王バルガッツォの三名のみ。そこへ新たに余が……?
「彼の時、バハムートに後れを取り、折られた私の牙を大名工のムネが鍛えたうちの一振りです。繁栄の加護が付与されてるゆえ、代々この国の王が身に着けなさい」
「ありがたき幸せ!!」
目的を終えた龍王様は、再び少女の姿に戻り、何事もなかったようにキキョウ様のお側にぺったりと付いた。いやぁビビった。マジでビビった。
無事に顔合わせが終わると、第三王子との約束を果たす為、私達は宮殿に併設された練兵所に向かった。
誕生祝いにゴーレムを披露する為だ。道すがら、彼は楽しそうに、肩掛け鞄から取り出した書物『ヘイワード勇者辞典』を見せながら、自分がいかに勇者やゴーレムが好きかを語ってくれた。
「それは我が国の学園に在籍する勇者が書いた本ですね」
「龍王様、勇者ヘイワードの事をご存じなのですか?」
「クロでいいですよ。ええ、彼は自身のゴーレムを解放する為、日々世界中の勇者を研究し続けていますよ」
「うわぁ、お会いしたいなぁ」
「あーあの人ね。最近、アスフィーがゴーレム開放に成功したので、会わせてくれってうるさかったわね」
「えええっ!? そうなんですか? アスフィー様っ、是非あなたのゴーレムも拝見したいです!」
「え。あ、はい……」
この王子。クロの正体を知っても、全く物おじせず、自分の趣味に邁進してる様子がちょっと子供の頃のシロ君に似ているかも。ふと昔を思い出し、クスリと笑った。
そういえば、ずっとベルテの視線は王子に釘付けだけど、アスフィーは特に興味を引く対象ではないらしい。
そうこうしてるうちに練兵所に着いた。
一番手はアスフィーの武器型ゴーレム“黄金のアウレオラ”だ。
「……魔装」
普段着にしてる聖女教の青いシスター服。それによく似た勇者服をふわりと纏った。
「アウレオラ……降臨」
周囲に現れた四つの金色の魔法陣から大小様々な歯車が現れ、それらが重厚な金属音を響かせながら両手両脚へ装着され、黄金のガントレットとブーツを形成してゆく。
そして仏像の光背のようなリングが背後の魔法陣から現れ、背中に装着されると、まばゆい光を放った。
ガントレットとブーツは、まるで歯車状のドリルで、キュルリキュルキュルと絶えず正転、逆転している。指先に至っては完全にドリルだ。
いつの間にやら訓練中の騎士や宮殿勤めの者達まで集まり、結構な数のギャラリーの中、イマイチやる気なさげな表情のアスフィー。何を見せようかと少し迷い、最近習った武闘術の型を披露する事にしたようだ。
呼吸を整え、美しくふわりふわりと流れるような太極拳に似た動きの中、メリハリのある勇ましいポーズをガキンガキンと決め、サマーソルトな連続バク宙から、鶴の如く両腕を広げ、片足で軽やかに着地すると歓声が上がった。
キュィィィィン――最後に四肢全ての歯車を高速回転させながらドンと右脚を、ズドンと左脚を踏み込みながら右腕を軽く溜めて「フンッ!」ドンと軽く正拳突きを放った。
轟音と共に発生した竜巻状の衝撃波が五十メートル程先までガリガリと地面をえぐってゆく。ちなみに両腕をクロスさせ、本気で溜め込んだパワーだと練兵場の分厚い壁を突き破り、宮殿を半壊させる威力があるのだ。年端もゆかぬ少女の凄まじい拳打にギャラリーが静まり返った。
「すぅ~はぁ~」
技を終え深呼吸し、ギャラリーに向け可愛らしくカーテシーを披露すると、拍手と歓声が沸き起こった。
「おそまつさまでした」
「うわぁーっ! すごく格好良かったです!」
「ども……」
アスフィーは興奮する王子から逃げるように、すすっと私の後ろに隠れてしまった。
「いでよ、朱羅」
次にゴーレムを召喚したのはヴァルバロッテだ。
召喚と同時に彼女の衣装が変化すると、ギャラリーが大きくどよめいた。
ヴァルバロッテのゴーレム搭乗用の真っ赤なパイロットスーツ姿が、むっちりぽってりチッピリ過ぎ、胸やお尻が超ヤバいのが原因だ。すぐ近くでナルサス王が王妃に尻をつねられ、小さく悲鳴をあげた。
跪いた姿で地表の魔法陣より現れ出でた紅の鎧武者『朱羅』の胸部装甲が四方に開口すると、内部は女体を鋳型にしたような形状の空洞があった。
顔を赤らめながらヴァルバロッテが素早く飛び乗り、二つの穴に脚を通し、丸いくぼみにお尻を預け、左右の穴に腕を通すと、その豊満なボディを包み込むように幾重もの装甲が閉じてゆく。
朱羅が立ち上がり、キキョウ達に向け一礼すると、両腰の刃渡り四メートルはあろう鬼神刀『鬼鬼鬼丸』と『牙朱丸』を左右腕をクロスさせながら、ゆっくりと抜刀した。両刀共に刃が真っ赤でおどろおどろしい雰囲気を醸す大太刀だ。
朱羅が双刀術の基本的な動作の真向斬り、袈裟斬り、逆袈裟斬り、右薙、左薙、刺突を流れるように披露してゆく。足さばきも見事だ。
次第に剣速が上がり、やがてヴェイパー現象を発生させた切っ先が雲を引いた。
その様は、まるで空間を斬り裂いているかのよう。
そして、最後に瞬間移動しながらの真向斬りを見せた。縮地という移動術だ。
サムライマスターの称号を持つヴァルバロッテの鬼神刀術は、まさに凄まじいの一言。それを完全トレースし、更なる高みへと導く朱羅も、凄まじい性能のゴーレムと言えよう。さすが世界最強と謳われる鬼神シリーズである。
『ぐんぬぬぬぬ……』
『しらふじ、どしたの?』
『あんな動き、アブリコ王国戦じゃ見せなかった……一体どんな駆動ユニット使ってるの……分解したい…解体したい……ブツブツ』
『落ち着けー、用途の違う白鬼が同じ事をする必要ないでしょう?』
『そうなんだけど、どうせ分解したって再召喚すれば元に戻るんだし』
『ねぇ、誰かに同じ事を白鬼にされたら嫌だと思わない? 私は嫌だな。白鬼すごく気に入ってるもの』
『う……ありがと。うん、ボクもイヤだよ。白鬼はボクのお手製だから、壊れたらボクが修理しなくちゃいけないしね』
『え。どうゆうこと?』
『うんと、魔装もゴーレムも武器の神様の祝福を受けてるから、壊れても再召喚すれば元に戻るけど、ボクの白鬼には祝福がないから、自力で修理しなくちゃ直らないの』
『……どうしてそんな面倒な事になってるのかな』
『それはね、キキョウちゃんの使うはずだったゴーレムを、ボクがキャンセルしたからだよ』
『はぁっ!? ……あ。ひょっとして、しょぼーんなゴーレムだったから?』
『えーと、本来は……鬼神陸番鬼“六花狼”(ロッカロウ)だったね。下半身が狼の鬼神だよ』
『なっ何それ、めっちゃ強そう! ……あ』
『ふーん…………やっぱり鬼神の方がいいんだ』
『いや、まったく、ちっとも、これ~っぽっちも思ってないよ!』
しらふじの視線が痛い。いや、でも鬼神だよ?
私の方だって解せぬのだけれど、なんか藪蛇っぽいので、これ以上の詮索はやめておく。
今、気付いたのですが、アスラン王国って、同名の国がエリア88に登場するのね。
こちらの世界には、外人部隊はおりません。ちなみにトルコ語でライオンという意味です。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。(ベルテ)
私……運命の出会いをしてしまいました。第三王子のティメル様です。
まるでお姉様の妹にしか見えない美少年が、この世に存在するなんて……
彼のお姿をじっと見つめてるだけで、胸の奥と下腹部が熱くなって、さらに鼻血が出そうです。この熱い衝動はいったい……まさかこれが……恋?
ああ、今すぐ彼に抱き着いて、本能のまま、くんくんペロペロしたいです。
ああーっ! 彼を抱きしめるお姉様が羨ましすぎます~っ!




