第25話 同盟国の元夫達
前世で狂乱した龍王バハムートと共に戦った元夫達にもみくちゃにされていると、笑顔が怖いそれぞれの奥さん達が引き離しにかかった。さすが美女ぞろいだ。おや、何人か勇者が混じってる感じがする。ちなみに今回、ノノも誘ったが、数日前に館で女子会をしたばかりなので断られた。それに彼らには子供扱いされるので、逢いたくないそうな。
「あらためまして皆様。遠路はるばる、ようこそお越しくださいました。無事転生を果たしました、魔王キキョウにございます」
「千年ぶりのご尊顔を拝し、とても嬉しく存じます。キキョウ陛下」
「ははは、全然はるばるじゃねぇけどな。転生おめでとう、キキョウ殿」
「ききょうぅ~っよかった、本当によかったぁ」
「はい、ありがとうございます」
すると王達、王妃達がクロと私の前にすららと跪き、代表してエルフ王が挨拶した。
「龍王陛下。キキョウ殿。ご婚約、誠に誠におめでとうございます。我ら一同、心よりお祝い申し上げます」
「ん、ありがとう」
「え…あ、はい」
いつのまに私達婚約してたの? と、訝しんでたが、クロが手を回していたらしい。
万が一にも彼らが復縁を迫る事のないようにとの配慮だと思うが、彼らからはそんな感じは全く感じられない。三人とも誠実だ。胸や尻へのエロい視線は感じるけど。
クロは私の利益となる縁には、とことん気を配っているようだ。
普段は素性を隠し、相手を罠にはめて愉しむという、いい趣味してるけど。
一通り挨拶が終わると、ガーデンパーティーを開催した。
丁度お昼なので、郷魔国自慢の料理とお酒を用意し、花々の咲き誇る庭を散策したり、美しい湖でボートに乗ったりと、色々楽しめるように、特に王妃向けに用意した。なのに、それらにまったく見向きもせず、皆さん私の前にずらりと座り込んでる。
「えーと……皆さん、ひょっとしてアレに興味津々?」
「はい、お噂を知り、もう居ても立っても居られず、無礼を承知で伺いました」
うん、やっぱりね。
「はーい、これが美の加護を付与したアクセサリーになります。お好きな品をプレゼントしましょう。現在身に着けてる宝石に付与も出来ますよ」
「「キャーーーーッ!!」」
魔王カリマーと獣王の王妃軍団はハイテンションマックスハートな感じだけど、エルフの王妃だけ妙に反応が薄い。でも視線からノリノリなのを感じる。
美の加護は普段使いが基本なので、比較的シンプルなデザインの品を用意した。ただし王妃様用なので、クオリティは非常に高い。今回は急な上に数も多いので、ドワーフ職人達にはちょっと無理させてしまったよ。
みんな真剣に選んでいるが、こういうのは王妃の序列順に選ぶので、目当ての物が無くなってしまう可能性もある。なので多めに用意した。使用してる宝石は、我が国特産の翡翠を各色と海岸で採取された瑪瑙や琥珀。カベルカ産の各種水晶。それらを指輪やブレスレット、ブローチ、ヘアアクセにして色々用意した。ドワーフの職人も呼んであるので、細部の調整も可能だ。さて、高貴なご婦人方には、どれが人気かな。今後のマーケティングにも役立ちそう。
その後、嬉しそうにブレスレットや指輪を身に着けた王妃達に、美について熱く語られた。
私は正直言って、化粧や着飾る事にすごく疎い。あっちの世界では、ジャージばかり着てたし、メイクも母に教わったが最低限の知識しかない。
魔王になってからも、メイクも着付けも担当のメイド達に任せっきりになっている。なのにこの世界では、この美貌と能力のせいで、美のカリスマ扱いされてるのがもうね。
話題がボディラインの維持に及ぶと、私はノノに作ってもらったジャージを披露した。
伸縮性の高いこの服は着心地もよく部屋着にもいいし、エクササイズにぴったり。
異世界でも人気の服だと力説した。おかげでたっぷり注文が取れたよ。
そして、誰もが欲するであろう加護についての質問が出た。
「あの……不老長寿、もしくは不老不死の加護は、実在するのでしょうか」
「あっ私も気になります。伝説の加護の一つですよね」
「カリマー様と添い遂げたいのです……」
「不老不死はありませんが、不老長寿の加護はありますよ。こちらです」
なるほど。若く美しくよりも、長命な夫と添い遂げたいから、か。
私が不老の加護を付与した、ホワイトベリルのルースを見せると、皆が目を丸くしゴクリと唾を飲み込んだ。
「おっお譲りいただく事は、可能なのでしょうか」
「ダメです」
「なっなぜですか! お高いからですか?」
「これね、実質呪いなんです。若さを維持できても、体が弱体化して病人のような暮らしを送る事になりますよ。子も産めませんし、若いけど不健康な体になるんじゃ、皆さんが求める美や長生きには程遠いでしょう?」
「たっ確かに……残念ですわね」
「しかも宝石との相性がシビアで、異様に付与難易度が高いのよ。ここに行き着くまでに、高価で貴重な宝石がいくつも粉々になったの……しかも、やっと完成したら呪いのアイテムなんだもの。トホホ……」
「「うわぁ……」」
しかし、これと何らかの加護と合成すれば、完全なる不老長寿の加護になるかもしれないと考えている。失敗が怖くて挑戦する気にはならないけど。
美しく高価な宝石が粉々になった時の精神的ダメージ大きすぎ。
ちなみに若返りの加護もあるが、要求魔力量が異常すぎて、とてもではないがお薦めできない。魔導師でもないと干からびるわ。
次回、美の加護へ新たに合成する案として、化粧の加護、爪の加護、美脚の加護などの要望が出た。
私が気になっているのは、地味にすごいメイドの加護。手荒れ、爪の痛み防止、髪や服装の乱れを防ぐ、みだしなみの効果があるのだ。ただしメイド服着用が前提なので、美の加護に合成付与した時どうなるのか、まだ不明。まだ二種類しか合成できないので、どんどん数をこなして熟練度を上げないとね。
夕食会が終わると、王達とクロと湖畔で静かにお酒を酌み交わした。
私に前世の記憶は無いけれど、みんな楽しそうに私との思い出を語ってくれる。
「そういえば、妃が大層な物をいただいたそうで、ありがとうございます」
「ああ、しかも健康の加護を家族の分まで……どうお礼したいいんだ?」
「わしんちは三十人も押しかけておいて、本当に申し訳ないかな」
「いいんですよ。それにお祝いの品をいっぱい頂いてしまいましたから」
「それは愛する元妻の転生を祝える、我ら元夫のだけの特権です。お返しなど不要ですよ」
「然り然り」
「男は美しい女性の前では、見栄っ張りのカッコつけになるのは世の常。キキョウが相手なら尚の事かな」
「「本人の前で言うな」」
みんないい男だねぇ。私もお礼目的でアクセサリーや加護を贈ったわけじゃないけれど……あ。
「あの、よろしければ皆さんの国で産出する宝石を優先して売ってください」
「そのような事でよろしいのですか? 我が国は、エメラルドやアクアマリンか」
「俺んところは……確かガーネットか。詳しい事は知らん」
「わしんちだと、ルビーとサファイアかのう」
「やったぁーっ!」
これはめっちゃ嬉しい。鮮やかな宝石のレパートリーが一気に増える。
エルフの国のエメラルドは流通量が少ないレアものだし、鉄板のルビーとサファイアがコンスタントに手に入るのは嬉しいな。ガーネットも色のバリエーションが豊富なので、とても楽しみ。
そうそう、この世界ってどういう訳か、ダイヤモンドが何故か全く流通してないのよね。
「すっごく嬉しいので、皆さんにこれをあげちゃう」
ゴトリとテーブルに置いたのは、姿見水晶に似た魔道具。
「これは……姿見水晶でしょうか」
「はい、すっごい画像が入ってるんですよ」
「すっごい、画像……」
「「「ゴクリ」」」
「いや、私のエロ画像じゃないから」
三人そろって露骨にガッカリしやがった。男って……。
私が魔道具のスイッチを入れると、空中に翅を広げた蝶の映像が投影された。
それを見た皆が瞬時に王の顔へと変わる。
「こっこれはもしや……」
「まさか、こんな精巧なもんが」
「せっ世界地図かな」
「はい、正解です」
この世界、地図の精度がとても微妙だ。
それぞれの国の地図は道や町の配置、距離などそれなりに正確だが、軍事機密として秘匿されてる場合が基本で、普通に手に入るのは大雑把な地図しかない。それが世界地図となると、どこにどんな国がある、道がどう繋がってるかの目安程度の情報量しかない。まるでマシュマロを並べたような古地図レベルだ。
それが全大陸、全国家が国境線で別けられ、各国の首都や町、それをつなぐ道が緻密に表示された地図が目の前に浮いているのだ。これを見て驚かない為政者は居ないだろう。
「キ……キキョウ殿、このような地図を一体どこで……」
「はい、私が作りました。正確には私の魔装、しらふじの力ですね」
「はーい、ボクがしらふじだよ。よろしくね」
「「「うおっ」」」
「ちなみにこの地図、こうやって触れて、拡大すると更に細かい情報が表示されますよ」
ぐるぐるマップばりの機能を与えられた、この世界では考えられないチート級の地図である。なんと街中の店名や業種まで表示されるのだ。更に大きな建物、例えば城をクリックすると見取り図まで表示される。流石にやりすぎだが、もう今更である。
定期的に数百の水晶星が世界中をチェックしてまわっているのだ。
案の定、みんな絶句している。そんな彼らの前にひとつずつ“世界地図水晶”をゴトリゴトリと置いた。
「みなさま、お納めください。自国の発展に使うもよし。戦争に使うもよし。ただし、この地図の存在は、私達だけの秘密ですよ」
「そうですね。このような地図の存在を他国に知られたら、間違いなく戦争ですよ……って、こんな近所にかの国の砦がいつの間に!」
「うおっ! 首都のこんな近くに未確認ダンジョンがあっただと!?」
「これはいい。公共事業が捗るかも……なっ、潰した闇オークションが復活しとる」
「定期的にボクが世界中を見回って地図内容を更新するから、最低でも半年に一度は起動してね」
「「「よろしくお願いします!」」」
ラヴィンティリス豆知識
この世界には川遊びや海遊びという概念が無い。
そこは水棲魔物のテリトリーだからだ。特に海は大型魔物が多く、漁業も命がけだ。
しかし海岸には良質な宝石の原石が漂着しており、それを専門の宝石ハンターや冒険者が採取し生業にしている。
そして海岸同様に河川にも、海に流れ出る前の原石が転がっている。
三年前、アルス王国の洪水攻撃により、多くの郷魔国の民が犠牲になった。
その中には、水位が下がり魔物の消えた河川に原石を拾いに集まった、多くの民が含まれているのだ。
日本の海岸でも翡翠や瑪瑙、琥珀などを拾える海岸があるが、大波という魔物には是非注意してほしい。
読んでくださり、ありがとうございます。(キキョウ)
まさか前世の夫がまだまだ健在だとは思わなかった。今回の三人の他に、城下の学園の学園長もそうなんだって。さすがにみんな紳士で、復縁を迫るような人がいなくて良かった。ちなみに子供は一番最初に産んだ双子が勇者になったので、今も健在。すぐそばに一人居てくれる。私の五十倍は年上だけれど、ヴァルバロッテちゃんの存在は、とても大きいの。いや、胸の話じゃないから。
彼女は世界最強と謳われるサムライマスターなんだけれど、刀を振るう型が他のサムライと若干異なるらしく、そこにこそ彼女の強さの秘密があるらしいの。
そこで噂の真相を訊ねてみると……
「む……胸が邪魔だから……」




