第24話 ドラハー?
最近、頻繁に視線を感じる。誰も居ないはずの場所でも感じる。
光の女神のそれとも明らかに違う、もっと暖かい視線だ。
今、その視線をとても強く感じている。それも私の寝室で。
クロとエッチしてるベッドのすぐ横から、思いっきりガン見されている。
ちなみにノエルではない。
あの子はいつも気を利かせ、今頃湖で猫神家の一族ごっこをしながら寝てるはず。
クロは視線に全く気付いておらず、私の体を味わうのに夢中だ。
『ク……クロちゃん、ちょっと念話で話すね。あ、ペロペロは続けながら』
『はい?』
視線の主を捕える策をクロに伝え――実行する。
「あっ、あれは何だーっ!(棒)」
突然天井の隅を指差しながら叫ぶと、視線が私から逸れるのを感じる。
その瞬間を狙って、視線の主の居るであろうベッドのすぐ横に突撃した。全裸で。
薄暗くはっきりは見えないが、畳から生えている何者かの頭にヘッドロックをかまし、がっちり捕らえた。しかし、ものすごい力で逃げようとしたので、思わずキスしてしまった。
だって女の子のいい匂いがしたんだもの。
相手の力が抜けた瞬間を逃さず、床から一気に引っこ抜くと同時に両脚で胴をカニ挟みした。
とったどー!
「クロちゃん、明かり!」
灯りに照らし出されたのは、白磁のような白い肌、黒翡翠のような瞳がとても神秘的な美女だった。長い長い髪は暗闇のように黒く、すらりとしたその身に纏う夜空のドレスは、まるで本物の星空のよう。よく見ると髪が羊角のようにくるりとしている。
「あの、どちら様ですか?」
「…………」
「闇の女神、ネロ様ですよ」
「やっぱり神様だった。あ、女神の加護ありがとうございます」
「……」
こくりと頷くネロ。
そう、この女神様の加護が、私のステータスにあったのだ。
どんな効果があるのかは知らないけれど。
「それで、どうして女神様が私達のイチャラブを覗いてたの?」
「…………」
「あのね、こういう濡れ場で覗きがバレた娘は、エッチな事されても文句言えないんだよ?」
あ、ビクッとした。
「そんなルールがあったのですか?」
「うん、私の生まれ育った異世界にはね(主にエロマンガとかで)」
「ほう。興味深いですね。ではこの女神を混ぜて三人で続けますか?」
「えぇーと……ネロ様、どうします?」
クロ、それ本気で言っているのか? 判断に困る。
ネロも頬を赤らめプルプルしている。
なんとなく気付いてたが、彼女は私より圧倒的に上位の存在だ。
視線は感じるけど、ブロックされてるかのように感情が微塵も伝わってこない。
龍王であるクロよりも格上なのだと思う。うわ、涙目。
「しょうがない。女神様も魔が差したんだよね。じゃあ、あなたに恋人や好きな人が居るなら、開放しましょう。で、恋人はいるの?」
全裸の私にカニ挟みされたまま、顔を左右にプルプルするネロ。
「じゃあ好きな人はいる?」
こくりと一回頷いた。
「そっか、じゃあ開放するね」
私がネロを挟む脚をゆるめると――
「キキョウが好きっ!」
「え」
「すごく好きっ! 愛してるのっ!」
女神様に涙声で愛の告白をされてしまった。
今、私の心臓、すごくドキドキしている。
告白後、子供みたいに泣き出すネロを思わず抱きしめてしまった。
どうしよう、私にはクロがいるのに……彼女が欲しい。
今、知り合ったばかりなのに手放したくない。
『今世は好き勝手に生きなさい。自分の望むまま自由に楽しく生きるのよ』
突然、転移直前のキョウカの言葉が頭をよぎる。いやいやいや。
「キキョウ様……」
あ…。今さっきまでエッチしてたのに、クロの目の前で、別の女性抱きしめてるんだもの、さすがに怒るよ……
あれ……怒って、いない?
のけ反るように真後ろのクロを見た。
「クロちゃん……私、ネロ様欲しい」
「いいですよ」
「えっいいのっ!?」
「あなたの望みが私の望みですから」
「えー…それが本当なら、諸々の件で、もっと楽できたと思うんだけど」
「それはそれ、これはこれです。なんでしたらハーレム作りますか?」
「ハーレムって……」
「それ、わっちも入れて欲しいです」
「ボクもボクも!」
いつの間にか、ちびっ子ノエルとしらふじが横にいた。
ハーレムか。女の子ばかりだから、ユリハーレム……じっくり四人の顔を見回す。しらふじは水晶星だけれど、カメラアイの視線から期待と不安が伝わってくる。彼女は間違いなく女の子なのだ。
少しの間、悩んだ。
とはいえ、ネロが欲しいと言った時点で、気持ちは固まっていた。
「最初に言っておくね。ハーレムを結成するからには、私は分け隔てなくみんなを大切にするつもり。でもね……私にとって、一番はクロちゃんなの。それだけは絶対譲れない。それでもいいかな」
クロは頬を赤らめ、ノエルはペチペチ拍手する。水晶星がくるくる回り、ネロが頷きながら泣いた。どうやらみんな、賛同してくれたようだ。一人ずつぎゅっと抱きしめ、キスをしてゆく。最初にクロ。ノエルは大人の姿になってもらった。倫理的、絵面的に幼女と唇キスは無理。そして見た目がとても神秘的なのに、泣きながらも緊張でぷるぷるしてる可愛いネロにキス。最後にしらふじが要望したキス顔をして見せると、水晶星がもんどり打って、畳に転がった。
ようやく泣き止んだネロに、いくつか質問してみた。
「そういえばネロ様の種族ってなんなの? 雰囲気からして、あきらかに人族じゃないよね」
「わ…私は……フラクタルシープドラゴン。です」
「ドラゴンかぁ。って、このハーレムドラゴン率高すぎじゃない?」
「キキョウちゃん。一応ボクもドラゴンだよ。ルミナスゲイザードラゴン」
「え……しらふじもって、全員ドラゴン!? 何の因果でドラゴンハーレム?」
「偶然ですよ。キキョウ様の事です。すぐ他種族もハーレム入りするでしょう」
「えー私そんなに節操無しじゃないよぉ」
「では賭けましょうか。今年中に一人二人確実に増えると思います」
クロが確信顔で予言すると、心当たりのあるノエルが確信を突く。
「ひょっとして、表彰式に出てた黒銀の娘です?」
「ぐふぅっ」
はい、結構気になってました。
実は二月末にあった、学園の優秀生徒の表彰式に出てたあの子の事が、ずっと気になっている。
「……そっそういえば、ネロ様のフラクタルシープドラゴンって、やはり超位龍なんですかい?」
「キキョウちゃん、話題変えるの下手すぎ」
「え、あの……私、超位龍じゃないです。ドラゴンを名乗ってますが、似て非なる生き物です。強くない、ですよ」
とても興味深いので詳しく話してもらった。
ネロはその昔、十六に分岐した自分の未来から最善を選ぶ能力を持った子羊だった。
最善の未来を一つ選ぶとそれが更に十六分岐する。それを何万年も選び続け、いつのまにか龍の姿となり、やがて宇宙核と呼ばれる、一つの宇宙そのものなってしまった。
そして最後にネロが選んだのは、神様に宇宙核を抜き取ってもらい、このラヴィンティリスで静かに暮らすという選択肢だった。
今はもう未来を選ぶ能力は無い。しかし敵の攻撃は当たらず、自分の攻撃は全てクリティカルという無敵体質のみが残っているそうだ。ちなみにネロは自身を十六人に分割可能で、今ここにいるのもその一人だという。普段は世界神の補佐をしているらしい。
そんな超常の存在である彼女が、どうして私の事を好いてくれているのか知りたいけど、それは二人きりの時でいいよね。とても繊細で、中身は小さな女の子みたいな女性だし。濡れ場をガン見してたけど。
翌日、館三階にネロ様の部屋を用意した。
昨夜の出来事を知らない他の面々やメイド達の驚きようは、クロの正体を告げた時以上のものだった。この世界の信仰の対象だものね。
「ね…姉ぇちん……女神様をハーレムに入れるとか、どんだけなの」
「お姉さまのハーレム……ハーレム……ハーレム……」
「さすがです、お姉様です」
「どうしましょう、ベッキーが気絶しています」
「この母……前世よりも、とんでもないですね」
アスフィーが何やらブツブツ呟いてるし、ベルテから「さすおね」発言が飛び出した。セーラはベッキーを支えおろおろ、年長組の二人には呆れられてしまった。
館の三階は全て個室で構成されており、現在ここに住んでいるのは、シルヴィア、アスフィーリンク、ベルテ、セーラと侍女のベッキー、そして最近引っ越してきたヴァルバロッテだが、ネロが新たな住人になり七名となった。クロとノエルは基本的に私と四階に住んでるけど、ノエルは寝所不定の自由人で、まるで猫のよう。四階だと、クローゼットや掘りごたつの中によく生息している。
基本的にみんな四階への出入り自由だし、私と一緒に寝たければ(性的な意味でなくても)ウエルカム状態だ。
その後、クロと二人きりにさせて欲しいと告げ、露天風呂に行った。
「私、クロちゃんのモノになるって言っておいて、ハーレムとかごめんなさい」
「ハーレムを勧めたのは、私ですよ?」
「それでも、決めたのは私だから……」
「そういうところも昔から変わりませんねぇ」
懐かしそうに笑うクロ。
「それに、私が一番だと言ってくれたので十分ですよ」
「わかった。クロちゃんは私の事、いつでも孕ませていいからね」
耳まで真っ赤なクロがうつむき、そしてこくりと頷いた。
さて、もう戦争の予定はないし、現在五つある同盟国へ楽しい外遊と洒落込みたい。
その同盟国には、前世の夫三人がそれぞれ統治する国があるのだけど、私の来訪を待ちきれず、すぐにでも逢いたいと連絡が来たのだ。アルス王国による嫌がらせ中も食糧援助など、援助してくれてるので、是非お礼をしたい。だが再婚を求められるのは困る……
しかし、そこは大丈夫だとクロが言うので逢う事にした。
日時を決め、今回は内々の来訪なので送迎は私のゲートを使う。まず魔王の間に客人達を招き入れ、キキョウの館の玄関ホールに案内した。
ゲートをくぐり現れたのは――
エルフの国。エルフェイム王国より、ライアット勇者弓王と王妃。
魔族の国。魔王連邦より、商人魔王モリマーカ・カリマーと三十人の王妃。
獣人の国。マギニス王国より、勇者獣王バルガッツォと王妃三人。
更に各国数名の側使え(女性限定)が同行しており、中々の大人数だ。特にどこがとは言わないけれど。
「この館に来るのも、あの日以来か……」
「おお、匂いも全然変わってねぇなぁ」
「キキョウは、前世と変わらぬ美しさだの~」
「うむ」「だな」
細マッチョな美丈夫エルフの王と、屈強なマッチョガイの獣王が懐かしそうにホールを見回し、そして私に優しく微笑む。ちなみに獣人であるバルガッツォは、見た目がタ〇ガーマスクである。
「ききょうぅぅ~っ!」
「むぎゅっ」
このドスドスと歩み寄り、涙目で躊躇なく私に抱きつく肉塊が魔王カリマー様だ。
ずぶずぶと私の体が暖かな肉の海へ沈んでゆく。うわ~なんか新感覚だわ。例えるなら人をダメにするクッション的な? 相手は男性なのに、不思議と不愉快さはない。
「おいっ離れんかっ! うらやま…無礼だぞ! もう妻ではないのだから」
「このデブ、まぁた太っただろ。いい加減にしねぇか!」
「ききょうううううう~っ!」
「もごもご(抱きしめすぎるとツノが危ないですよ)」
「ぎゃーっ! ツノがっツノがぁ~っ!」
「むごむご(ほうら言わんこっちゃない)」
ここまで読んでくださり、ありがとうごいざいます。(アスフィー)
お姉さまのハーレム……ハーレムって事はお姉さまをみんなでシェアできるんですよね。つまり……お姉シェアリングですね。残念な事に、わたしは妹な上に子供です。ですが、成人した暁には絶対に妹を辞めますからね。絶対です!




