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ラヴィンティリスの白き魔王ですが、ユリハーレムに龍王や宇宙戦艦がいる件について語りますね。  作者: 烏葉星乃


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第17話 女神降臨

「陛下、慈愛の勇者アスフィーリンク嬢をお連れしました」

「ごくろうさま」


 シルヴィアに連れられ現れたのは、まだ十歳程だろうか。澄み切った空色の修道服に身を包んだ、透明感のある金髪碧眼の美少女だ。まさにお人形さんのような、という表現がぴったりの娘である。

 あ~私、滅茶苦茶怖がられてるなぁ。仕方ないか。出会いがあんなだったものね。


「自己紹介してもらえるかしら」

「ひゃっひゃい。せっセドリック王国、オレンジ公爵領出身、聖女教会見習いシスター、アスフィーリンクです。じゅっ十一歳です」


 緊張してて可哀想だけど、とても可愛い。


「今朝の戦いで、彼女を私のものにしたわ」


 臣下一同が感嘆の声を上げる。


「でも、まだオレンジ公爵との契約が切れてないのよね。まぁそこは何とでもするけど。敵国の勇者を捕らえた場合って、本来どんな扱いをするのかしら」

「陛下、発言をよろしいでしょうか」

「どうぞ」


 挙手しながら文官の列から踏み出たのは、モノクルとカイゼル髭の似合う燕尾服の文官だった。彼はアップルヤード財務大臣だとクロが耳打ちしてくれる。

 確か……何度か奇声上げてた人だよね。しかも財務大臣!?


「陛下もご存じの通り、勇者とは何度でも復活する理不尽極まりない存在であります。ですので敵国の勇者を捕えた場合、二度と戦えないよう心を折るのです」

「心を折る?」

「はい、二十年程前の事例を申し上げますと、隣のティリアル大陸の某国に捕らわれた兎人族の女勇者は、大観衆の前で裸に剥かれ、凌辱の限りを尽くされ、更に手足を落とされ、首を吊ったまま凌辱されたと聞きます。その女勇者は心が壊れ、噂では現在も――」


 聞くに堪えない内容を嬉々と話す大臣の姿に眉をひそめていると、恐怖の限界を超えたアスフィーリンクが足元を濡らし、震えながら涙をぽろぽろ溢していた。



 怖い……怖い、怖い、怖い。

 魔王の城も魔王の間も真っ黒で、すごく怖い。

 そんな真っ黒な世界に、白ユリのように咲き誇る魔王様。

 とてもとても綺麗で……めちゃめちゃ怖いけど目が離せない。


 魔王様の事は小さな頃から物語で知っていました。

 聖女ミモリ様と共に邪龍を封印した白き大英雄の物語。

 私は赤子の頃、聖女教会に拾われ、そこが私の家となりました。

 それ以来ずっと聖女様の素晴らしさを学び、十歳で勇者に覚醒しました。

 しかも非常に珍しい、聖魔法使いの勇者です。

 これも聖女様のお導きと、毎日、聖女像に祈りを捧げて暮らしていました。


 突然の領主様の命令で、従軍した今日。

 なんと私は、聖女様のご友人である魔王様の物となったのです。

 これも聖女様のお導きなのでしょうか。

 物語の魔王様と違って、無慈悲で、すごくすごく怖いお方でした。

 でも慈悲深さもあわせ持つお方だと、強く感じました。

 でも、まだ、死んでゆく騎士様方の悲鳴が耳から離れません。


 今、封印城の魔王の間に私はいます。

 幼い頃、シスターディアナに何度も読んでもらった物語の舞台です。

 そう、ここは憧れの場所。聖地巡礼の夢が叶いました。


 変なお髭の男性が、勇者の残酷なお話を嬉しそうにお話しています。

 わたしも裸にされて、酷い事をたくさんされて、手足を……

 必死に我慢したけど、あまりの恐怖に粗相をしてしまいました。

 しかも聖地で。


「男共っ! こっち見んなっっ!! 玉コロ潰すぞっっっ!!」


 いつの間にか、わたしは魔王様に抱きしめられでいました。

 柔らかくって、暖かくて、いい匂い……


「あの……お召し物を汚してしまいます」

「いいのよ。ごめんね、怖かったよね」


 魔王様は、優しく、ぎゅっと抱きしめてくれました。



 うかつだった。配慮が足りなかった。こんな少女に酷な事をしてしまった。


「お前達は、ここで何も見ていない」


「何故なら丁度この時間、お前達は飛行船に乗り、『僕は海賊にはならないよ』と、不安げな女の子を安心させていたのだ。もしくは帆船に乗り、『海賊王に俺はなる!』と、叫んでいたからだ」


「もし、この子の不名誉な噂が流れたら、ここにいる全員の竿とタマ袋をゲート魔法でアリゲーの堀に転移させる。食い千切られたら再生してやる。何度も何度もだ」


「いいな?」


 私は、射殺すような視線で男達を睨みつけた。

 皆がそろって股間を押さえながら頷いているので、この子の名誉は守られるはずだ。

 シルヴィア……あなた、今は女でしょう。


「もし犯人が女性だった場合、美肌の加護、返してもらいます」


 女性陣も深く頷いた。


「レディ、申し訳ございません。これをお使いください」


 アップルヤード財務大臣がスマートな所作でハンカチを差し出してくれた。

 紳士だ。


「出来れば、洗わないでお返しください」


 ヘンタイだった。顔を赤らめるな、このヘンタイ紳士!


 私はタオルを用意してくれたメイドと共に、彼へ蔑みの視線を送った。

 そうだ、今日から彼をヘンタイ男爵と呼ぶ事にしよう。


 もう昼を回っているので、彼女の勇者契約をどうするのが一番よいか考えておくようにと宿題を出し、この場は一旦解散となった。私はクロとシルヴィア、そしてアスフィーリンクを連れ露天風呂へ直行。



 はふう。どうしてわたしは、魔王様とお風呂に入ってるのでしょう。

 魔王様はとても優しく、ずっとわたしを気遣ってくれます。

 髪を洗って、背中も流してくれました。

 わたし、孤児ですが、なんだかお姉さんができた感じがします。

 今は全然怖い感じがしません。

 もう人生終わるのだと思ったのに、全然そんな事なかった。


「あのう……わたしはこれから、どうなるのでしょうか」

「ああ、そうよね、不安よね。あなたのご家族は?」

「教会で育った孤児なので、家族は……たぶん、いません」

「そっか……じゃあ提案なんだけれど、私と家族にならない?」

「え……え?」

「年齢的にやっぱり妹よね」

「ええーっ!?」

「ほら、ここにいるクロちゃんも、シルヴィアも、あと今は外に出てるノエルって子がいるけど、みんな私の家族よ。あなたも混ざらない?」

「ちょっと、ボクも忘れないで」

「だっ誰ですか!?」

「私の魔導銃や、この水晶星の中の人。しらふじよ」

「えっ小人族の方ですか?」

「そうきたかー」

「キキョウ様、その説明だと、普通はそう思ますよ」

「姉ぇちん。元異世界人でもないと、そのネタ通じないよ」

「ボク、この子気に入ったわ~」



『あるじ様……そちらから、なにやら楽しそうな波動を感じるです……』

『ごめんごめん、キリのいい所で帰っておいで』

『あい。あ、そっちに上位龍のトントローが行くので、尻尾の治療して欲しいです』

『いいけど、なにその脂の乗ってそうな名前の龍は』

『惚れました……です』

『……マジで!?』

『脂が乗って、とっても美味しそうな肉質なのです』



 露天風呂から上がると、ちょっと遅めの昼食。その後、再び魔王の間に集合した。

 私の左にはノエルの代わりに、不安そうなアスフィーリンクが立っている。

 彼女の契約解除方法についての宿題は、私の武力で脅すという回答が大半を占めた。オレンジ公爵のような愚か者を相手に、下手に出るのは悪手という理由だ。私も同意する。他にセドリック王を介するという真っ当な意見もあったが、あまり時間を掛けたくない。


 実は今、この場で気になる事がある。午前中にも感じていたが、今もそれを感じるので、確認する事にした。もし気のせいだったらメチャ恥ずかしい事だが、これが想像通りなら、案外勇者契約もこの場で何とかなるかもしれない。


 すぅ~はぁ~。


「神様っ! そこに居ますよね! ちょっと出てきてくれませんか?」


 ここに座ってもう何度目かの「お前は何を…」的な痛い視線を臣下から感じながら宙を指差し、もう一度言った。


「そこにいますよね。たぶん神様だと思うんですよ。なので、是非とも顔を見せてもらえませんか?」


 沈黙が十秒ほど続き、突然、場の空気が変わった。

 臣下達、近衛騎士達までもが青ざめ、ガタガタと震えだす。

 まるで自分の死を予感させる、薄ら寒い、気味の悪い空気がこの場を支配した。

 そして、忽然と宙に大きな黄金の玉が現れると、底からドロドロと黄金が流れ落ち始めるではないか。それはまるで溶鉱炉の底が抜けたかのような光景だった。

 それは目に見えないの人型の容器を満たすかのように、足元から髪の長い全裸の女性像を形どってゆく。

 やがてその場に、高さ四メートルはあろう神々しい黄金の女神像が現れた。


 みなが呆然とする中、誰かがつぶやいた。「光の女神ラミーリュ様だ」


「不思議ねぇ、なんでバレちゃったのぉ~?」


 黄金像が動き出し、しゃべりだした。この場の者達全てが、やうやうしく跪く。

 私も跪こうとすると、クロに肩を強く掴まれ止められた。

 クロの様子も気になるので、スキルの事は教えず、とりあえず挨拶しよう。


「勘ですね。始めまして、ラミーリュ様。私は魔王キキョウです」

「知ってるぅ、最近よく見てたからぁ。はじめましてぇ、キキョウさぁん。ラミーリュよぉ~」


 私は最近、不思議な視線を感じていた。そう、彼女の視線だ。

 この所、キキョウの館でも時々不思議な視線を感じていたが、彼女のとは別の視線だと断言できる。何故ならこの女神の視線は、感情に乏しく、ねっとりとして独特なのだ。先程、クロに視線の正体に心当たりがないか尋ねてみると、とても忌々しそうに光の女神かもしれないと答えてくれた。うわ、彼女の視線の出所は顔じゃなくて胸だわ。その位置に何かがあるように感じる。もし彼女の正体がスライムか何かならば、コアだろうか。


「それでぇ、あたしに何かご用かしらぁ?」

「せっかくなので、挨拶できればいいなと思ってた程度で……あ、この子の勇者契約って解除できません?」

「出来るわよぉ、はいっ」


 ラミーリュがアスフィーリンクに向け、デコピンするような仕草をすると、パリン。あっけなく全身を縛る幾重もの契約魔法陣が砕け消えた。


「うわぁ、さすが女神様。ありがとうございます。手間が省けました」

「んふぅ、なんかいい様に使われちゃったわねぇ。代わりと言ってはなんだけどぁ、あなたにぃ、女神としてお願いがあるのだけどぉ~」

「伺いましょう」

「現在、このラヴィンティリスの総人口は、およそ六千万人程なのぉ。そして理想人口はぁ、一億八千万人という所かしらぁ。あなたにはぁ、この世界の繁栄の為にぃ、手を貸して欲しいのぉ」


 この世界の人口って六千万人なのね。しらふじに計測してもらったティリエル大陸の面積は、およそ三十六万平方キロメートルで、日本の国土に匹敵するサイズだった。ラヴィンティリスはそんな大陸が四つあるようだから、単純に日本の四倍。そこに六千万では確かに少ない。食料自給率も考えると一億八千万人は妥当なのかもしれない。


「わかりました。ん~そうですね。まず我が国の穀物生産量を増やし、全世界に安定供給するあたりから始めてみましょうか」

「それはよい考えですぅ。では頼みましたよぉ~」

「お任せください」


 私の提案に満足したラミーリュは、溶け落ちるように消えてしまった。

 アスフィーリンクもシルヴィアも臣下達も、皆がポカンとしている。

 そんな中、唯一クロだけがムスっとしていた。


「あれは、邪神ですよ」



 ◇ラヴィンティリス豆知識◇


 世界神ラヴィンティリスを筆頭に、多くの神がこの世界には存在している。

 有名なのは人々の信仰の対象となっている、光の女神ラミーリュと闇の女神ネロの二柱だ。一般的に双子神だと思われているが、そのような事実はない。

 他に有名なのは、契約の神や貨幣の神、迷宮の神であろう。

 現在、ノエルを含め五柱存在する龍王も神であるが、積極的に世界や人々に関わる事は少ない。例外は龍王リヴァイアサンであろう。これまで諍いを止める為、多くに国と人々を滅ぼしている。逆に滅びに瀕した種族を滅びから救った事あるようだ。

 全ての神に対し共通して言えるのは「触らぬ神に祟りなし」であろうか。好き好んで関わるものではない。

 えぇ~? あたしにならぁ、好きこのんでぇ、関わっていいのよぉ? 

 いつもぉ読んでくれて、ありがとぉ~。ラミーリュよぉ。

 ちなみにあたしはぁ、自分を光の女神だなんてぇ、名乗った事ないわよぉ?

 え? ネタバレしそうだから、もう話すなって? 

 ネタバレする程、あたしの出番、あるのかしらぁ……

 

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