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ラヴィンティリスの白き魔王ですが、ユリハーレムに龍王や宇宙戦艦がいる件について語りますね。  作者: 烏葉星乃


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第15話 慈愛の勇者アスフィーリンク

 勇者シルヴィアとの戦闘後、満身創痍を装い帰還したのは、城内の敵スパイや売国奴に私の隙を見せる為だ。ついでに「私が目覚めたらアルス王国、四大公爵家を全て吹き飛ばすだろう」と、危機感を煽る情報を流してもらう。スパイ達は既に特定済みだけれど、他にもいる可能性がある。


 アルス王家は潰した。しかし、それぞれが郷魔国の国力を凌駕する四つの公爵家が残っている。既に各公爵家には降伏勧告済みだが、私が半月眠ると知れば、なんらかの動きを見せるはずだ。魔国に併合されれば、財産は没収され貴族の身分を失い平民になる。兵を差し向けてくるか、素直に従うか、海外に逃げるか。彼らはどんな選択肢を選ぶのだろうか。仮に独立宣言して新たな国家を名乗ろうと、クロは赦す事なくヘドロの海に沈めるだろう。


 現在、郷魔国の東隣に位置するセドリック王国の公爵家が、アルスの公爵家との連携の動きを見せている。

 そして北西にある砂漠の小国、チャビール王国。この国は我が国が洪水で分断された際、国境沿いの村々を襲い、国民を誘拐している。国民の返還要求はガン無視だ。本来なら攫われた民を真っ先に救い出したい所ではあるけど、あともう少しだけ我慢してほしい。


 郷魔国に手を出した国はどうなるか。チャビール王国はギルティ。ただし、民を救出するまで制裁はしない。セドリック王国も出兵すれば、クロの制裁対象となる。助ける義理はないのだが、寝ざめも悪いので、何とかするつもりだ。でもマジ勘弁してほしい。


 さて、あれから二日程お休みして体調も万全。

 では、行動開始だ。このまま公爵家が動くまで待っているつもりはないのだ。

 実はアルス王国北部に位置する二つの公爵家だが、一方はシルヴィアの実家。もう一方は、シルヴィアが王家に続く、二度目の嫁ぎ先なのだ。彼女は両家に絶大な発言力を持っているので、二家の説得をお願いした。公爵の身分と財産の安堵。ただし領地は全て接収され魔王のものとなり、その地で代官職に就いてもらう事になる。

 それでもこの条件は破格だ。他の二家は無条件で全てを失うのだから。

 理由としては、シルヴィアの身内というより、領民を守る領地経営を積極的に行っているのが大きい。対照的に国王領や他の二公爵領は重税を課し、困窮した民が内外に逃げ出している。それらが随分前から我が国に難民として不法入国しているのだ。


 私も同行したシルヴィアによる交渉(恫喝)は無事成功し、アルス王国北部の広大な領地を持つ二つの公爵家。ラインマイヤー家、ゲルトナー家の当主が魔王キキョウの臣下となり、そのまま領地を治める代官となった。財産は安堵すると言ったのに、彼らは自主的に財産の大半を国庫に納めてくれた。


 その一週間後、残りの公爵家。ドミンゲス家とガストーネ家。そしてセドリック王国のオレンジ公爵家の領軍が郷魔国へ向け侵攻を開始した。これでセドリック王国もクロの制裁対象となり、私の仕事が増えた事になる。

 お隣がヘドロの海はマジ勘弁なので、私がこれから何とかするつもりだ。


 今回はノエルと分担作業となった。アルス側はノエルが担当する。

 私はオレンジ公爵軍六万を担当する。六万と言っても、内訳は騎士や傭兵が二万程度、他は農具や棒を持つ農民や町人を動員した数だけの集団だ。後方に荷馬車に食料や水を載せた長蛇の列が続いている。そして勇者が三人同行。一人は公爵と契約しており、二人は傭兵勇者だ。



 太陽が昇り切った頃、オレンジ公が乗った馬車を先頭に、公爵軍はまもなく郷魔国の国境を越えます。わたしは戦争なんて絶対嫌だけれど、公爵様の勇者である以上、避けられない事です。拒めば私の育った教会に酷い事をすると公爵様は言いました。だから、わたしに拒否する権利はないの。


 わたしは、慈愛の勇者アスフィーリンク。

 そう呼ばれてるただの子供で、聖女教会の見習いシスターです。


 国境を越えると目の前に身長五十メートルはあろう、驚くほど美しい白い髪の女性が現れました。知ってる。これ魔法の映像です。


『告げる。他国の軍勢が無断で越境するのは宣戦布告と同義。過ちを認め、即転進するなら見逃してもいい。帰ってクソして寝ろ』


 この女性が魔王キキョウ……最後の一言がすごい。ゾクッとしました。


「たっただの魔道具の映像だ。我らが通るのを見越して仕掛けておいたのだろう。今あの魔王は魔力切れでグースカ呑気にデカい尻丸出しで寝てるはずだ。恐れるものなど何もない。進軍せよ!」


『いや、起きてるし。尻も出してないし。そんなに大きくないし。その情報、愚か者を炙り出す為のブラフだから』


「どっどうせ、魔力もろくに回復しておらず何も出来まいっ! 構わん進軍だ!」

『なんで自分に都合のいいようにしか考えないのかなぁ。普通は慎重にならない?』

「うるさいっ! 私の読みに間違いはない!」

『あんたバカでしょ。これから攻め込む国の内情も調べず、そんな大群で進軍って、マジバカだわ。バーカバーカ』

「私を愚弄する気か! バカって言った方がバカなんだぞっ! ただ身目が良いだけの小娘の分際で!」

『じゃあ言うけど、今の郷魔国って大きな河川の橋がほとんど流されて無いのよ。しかも東側は堰をあなた達の侵攻を予測し開放してるから、水かさが戻って、そんな大軍渡れないし、あれがいっぱい泳いでるからムリゲーよ?』


 あれって、むりげーって? 隣でクロイドン将軍が苦々しい顔をしてます。


「うーっうーっ、うるさいぃっ! ならば橋など渡らず、ひたすら町や村を略奪してやるわ。そこから指を咥えて見ておれっ! うひひひぃ!」


『へぇ』


 ぞわり。全身に鳥肌が立ちました。


『じゃあ、死ね』


 ぞぞぞぞ。背筋が凍りつき、おしっこ漏れそうになりました。


 さっきと全然違う……重く低く響く魔王の声。とてもきれいな声だけれど、怖い。

 今すぐ、ここから逃げ出して教会に帰りたい!


 突然、巨大な光の玉が現れ、わたし達の頭上を通り過ぎてゆきます。それは後方で破裂し、大勢の騎士たちが悲鳴ごと光に飲まれ消えてゆきます。光に飲み込まれた騎士達は鎧がどろどろに溶け、体は消し炭になり、声も出せずに死んでゆきます。


「せ……聖女様……我らをお救いください」


 恐ろしい攻撃魔法がどんどん放たれてゆきます。氷の大竜巻に切り刻まれ、降り注ぐ大岩に潰され、稲妻の雨に黒焦げにされ、流星のような無数の光に穴だらけにされ、どんどん騎士たちが殺されてゆきます。もし今、あそこで苦しむ騎士に回復魔法を使ったら、あの恐ろしい魔法がわたしを狙ってくるかもしれない。そう考えると震えて何も出来ませんでした。


「あっあれだ! あの空にあいた穴の向こうに魔王がいるぞ。あの中を攻撃しろ! あの生意気な小娘を捕らえてこいっ!」


 ガラの悪い二人組の傭兵勇者が空中の穴に向け突撃しました。しかし、穴の向こうから飛び出した何かに刺し貫かれて、あっけなく光の粒になり消えてしまいました。

 わたし達の前に降り立ったのは、ペガサスの人馬騎士。白銀の勇者シルヴィア様でした。

 孤児院の子供達にも大人気な聖騎士の勇者様です。たしか魔王との一騎打ちで死んだと聞きましたが、それは嘘だったようです。


「はっ白銀の勇者がなぜここにいる! 死んだはずでは……貴様、あの売女に下ったのか。この恥知らずめが!」

「もと弟が最愛の姉に従うのって、おかしいのかな。あと、姉ぇちんへの侮辱は即死刑ね」

「ひぃっ! わっ私が死んだら、このアスフィーリンクがお前を殺すぞっ!」


 公爵様、私を盾にして隠れても無理です。二人そろって串焼きみたいに刺されて終了です。


「へぇ、その子が慈愛の勇者か。おはよう、お嬢さん」

「おっおはよう……ございます」


 シルヴィア様が兜のバイザーを上げ、わたしに挨拶してくださいました。とてもお綺麗です。銀姫の二つ名は伊達じゃありません。


『さて、およそ二万程の騎士を処理しました。もう侵攻は無理でしょう。帰りなさい』

「うっうぐぐぐ……うっ? そうか、これ程の魔法を使ったのだ、もう魔力切れであろう?」

『はぁ?』

「さも赦してやるみたいな態度で、私を謀る気であろう! よし、部隊を整えろ。侵攻を続けるぞ!」

「お待ちください、公爵閣下。我が軍はもはや戦えません。主力が滅んだのですぞ!」

「まだ平民が大量に残っておる。その辺に転がってる騎士共の武器を拾わせろ。町ぐらい襲えるはずだ。このまま逃げ帰れば、由緒正しき我がオレンジ家の恥であろう!」


 この出兵が決まった時、クロイドン将軍が苦笑しながら言ってました。


「戦場で一番恐ろしいのは、強力な勇者ではなく、愚かな味方の指揮官だよ」


 なるほど。その言葉を思い出し、わたしは深くうなずきました。


『せっかく残りは民間人ばかりだから、見逃してあげるつもりだったのに。魔力が無いから下手に出たとか、あとで無い事無い事ベラベラ言い触らされるのは嫌だなぁ』


 え……待ってください。それって、その話の流れだと……


『仕方ない、一人残らず殺そう。対勇者用超攻撃魔法“ヘルズゲート・オブ・ぼんぼやーじゅ”で』


 やっぱりっ! 心臓が警鐘を鳴らすように鼓動し、全身から嫌な汗が噴き出しました。

 シルヴィア様が「ぶふっ」噴き出した気もするけれど、今のわたしは、どうしたら平民たちを救えるか。それしか頭にありません。


「お待ちください!」

『なにかしら。確か、慈愛の勇者アスフィーリンクね』


 魔王様は、わたしの事を知っていた。なだらば好都合。これしか方法はない。わたしは意を決し、聖女様への祈りと同じ所作で、魔王様に跪きました。


「どうか無辜なる民達をお赦しください。代わりにわたしの全てを魔王様に捧げます」

『ダメよ』


 たった一言で一蹴されました。


「な……何故ですか?」

『一国の魔王が口にした事を軽々に覆す訳にはいかないの。それに平民四万の助命に勇者一人の命は軽すぎる。それにあなた、そこのバカと契約済みでしょう? 契約者がいる限り、私のモノにはならないわ』


 そうでした。勇者の契約は主側からでないと契約解除できません。


「公爵様、わたしとの契約を解除してください」

「ダメだダメだっ! お前は私の所有物だっ! 美しく成長したら美味しく頂くのだ!」


 ゾゾゾっと酷い嫌悪感に襲われ、思わず公爵様を連殴連蹴し「スヤリープ」安眠魔法で強制的に眠らせました。公爵様はボコボコのお顔で、すやすやと眠っていま……まずいです。つい地が出て、やらかしました。ちなみに私の魔装は黄金のガントレットとブーツです。


『あっはははっ! 気に入ったわ。私の元へいらっしゃい。民も全員見逃してあげる』

「こっ心より、感謝します。魔王様」


 よかった……教会のみんな。シスターディアナ……さようならです。


「あ、あの、魔王様……」

『いいわ、気が済むまで好きになさい。シルヴィア、その子を頼むわね』

「はい、お任せを」


 魔王様は、私の様子から察してくださり、生き残った怪我人たちの治療を許してくれました。


 アルス王国を襲った無慈悲で残忍な魔王を討伐する。

 それが郷魔国侵攻の目的でした。しかし、実際は違ったようです。

 公爵様は途中から周辺の町や村を襲うと言い出したのですから。

 実は噂でしか知りませんが、アルス王国は、郷魔国に酷い事をしたそうです。

 魔王キキョウ様は確かに恐ろしいけど、それは敵対した相手にだけ。

 なのに敵であるわたしとの、子供じみた取引に応じてくれました。

 本当は慈悲と慈愛の心に満ち溢れた、素晴らしい魔王様なのだと確信します。


 今もおしっこ漏れそうなぐらい怖いですけど。



 ◇ラヴィンティリス豆知識◇


 ラヴィンティリスの世界は蝶の翅の形をした四つの大陸で構成されている。


 左前翅をラヴィエル大陸 主にエルフ族、龍族が住まう。

 右前翅をラヴィアル大陸 主に魔族、人族が住まう。

 左後翅をティリエル大陸 主に人族が住まう。鬼人の国、郷魔国がある大陸。

 右後翅をティリアル大陸 主に人族と獣人族が住まう。


 これら四大陸をまとめて、ラヴィンティリス大陸と呼んでいる。


 そして翅の付け根に位置する世界の中心には、直径十㎞程の巨大な“世界の柱”が立ち、空の果てまで続いているのだ。


     海海海海海海海海海海海海海海

 海海海海              海海海海

 海  ↓エルフの国    ↓魔王連邦    海

 海 【ラヴィエル大陸】【ラヴィアル大陸】 海

 海          〇←世界の柱     海

 海 【ティリエル大陸】【ティリアル大陸】 海

 海    ↑郷魔国    ↑獣王国     海

 海海海海   島          海海海海

     海海海海海海海海海海海海海海

 この世界の柱が北極点に相当する。南極点は無いが、大陸外縁はすべて南部となる。

 そして、大陸のどこに立とうが、柱を見ながら左手が西、右手が東となるのだ。

 地図上で見るとややこしい事この上ないが、神でさえ時々迷うので仕方ない。

 方位磁石は常に柱の位置を指すので、あなたもラヴィンティリスを旅をするなら忘れずに携帯すべし。


 読んでくれて、ありがとうございます。(シルヴィア)

 淡々と公爵軍の騎士達を殺した姉ぇちんだけど、夜は隠れて泣いていたよ。僕がアルス王の暴走を止められてたら、こんな事にはなっていなかったはず。

 結果論だけどね。あの時、慈愛の勇者が投降しなかったら、残った平民まで全滅させる気だったのだろうか。いや、きっと何か理由付けて止めたと思う。

 ともあれ、もう絶対姉ぇちんを泣かせないよう、僕がしっかり支えないと。

 でも、ハーレムには入らないからね。いやマジで。

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