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ラヴィンティリスの白き魔王ですが、ユリハーレムに龍王や宇宙戦艦がいる件について語りますね。  作者: 烏葉星乃


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第13話 魔王キキョウVS勇者シルヴィア

 この世界の勇者は、何度死んでも忠誠を誓った主君の元で復活する。

 しかも主君を殺されると“忠義の仇討ち”という呪いにも似た効果が発動するのだ。

 勇者は狂戦士状態となり、仇を討つまで、もしくは自分が死ぬまで狂戦士化が解ける事はない。

 これが暗殺の場合、企てた者が仇討ちの対象となるので、為政者は単に戦力としてだけでなく、身を護る抑止力として勇者と契約するという。

 そして今、主君であるアルス国王を殺された勇者シルヴィアも例にもれず、呪いが発動していた。


「くっ……これが忠義の呪いか……体の自由が奪われていくのが解るよ。でも腕も折れてるし、体もボロボロだし……大丈夫。姉ぇちん、ボクを殺して止めてね」



 アルス王国軍は、訓練を名目に国境沿いに一万の騎士を常駐させていた。そこへ魔王キキョウによる宣戦布告とも取れるメッセージを受け、急きょ三万へと増強。戦争は不可避とし、勇者別動隊と国王軍を本日の魔王キキョウによる宣戦布告をもって郷魔国へ侵攻させる予定だった。


「こんにちは、ハルドルトン将軍。ご無沙汰しております」


 そんな戦の張り詰めた空気漂う国王軍陣営に、ひょこりと現れた美少女は、紅の勇者ヴァルバロッテ将軍だった。皆、我が目を疑った。なぜ彼女が、敵国の勇者がこのタイミングでこの場に現れるのだ。侵攻計画ではアルスの至宝銀姫シルヴィア様が、出陣した彼女を足止めするはずだった。ぶぁっと嫌な汗が噴き出し、鎧の中をだらだらと流れ落ちる。そう、我らの目論見は看破されたのだ。


「本日は、我が魔王陛下のお指図で、これをお持ちしました」

「……これは、姿見水晶ですかな」

「はい、本日の魔王即位宣言を皆様にもご覧いただくようにと、受信機能付きです」

「はぁ」


 そして正午、白き魔王はその凶悪なる牙を剥き、一瞬で王城を我が王もろとも瓦礫の山に変えた。言葉も出ず、ただただ驚愕した。我が国は開戦するや否や、国王を討ち取られたのだ。


「さて……」


 ぞわり。私は知っている。この美しく愛らしい娘が、神速の抜刀でこの場の全ての人間を瞬時に肉片へと変えられる事を。


「間もなく魔王陛下がお越しになります。そして皆さんに提案をするでしょう。あ、もう到着したようですね」


 提案とは……服従か、死か……。


 そして今、死を司る白き巨龍を従えし美しき魔王が、矮小なる我らを見下ろしていた。

 絶望と死を与えんが為に――


「なぁんと今、我が国の民になると、税率は二割で兵役も労役もなし! しかも、健康の加護をあげるから、どんな大病も治っちゃうよ。そして魔国だからって無体な命令など一切なし。さぁみんな、私と契約して郷魔国の民になってよ!」


 …………は。



『キキョウちゃん、来るよ』

「うん、もう殺気がビリビリ届いてる」


 この場に向かって、ものすごい速度で殺意の塊が近付いてくる。


「いでよ白鬼壱式!」


 異形の白きゴーレムに乗り込み、その場を飛び立った次の瞬間、轟音と共に、直前まで居た場所に何かが突っ込んできた。


 もうもうと立ち昇る土煙の中、銀鎧に身を包んだペガサスの人馬騎士が長大な銀のランスで大地を穿っていた。既に勇者シルヴィアはゴーレムを装着しておりフルヘルムで彼女の表情は見えない。しかし空を見上げ私を見つめる視線からは殺意と、何故か愛情のようなものを感じる。

 銀の翼を羽ばたかせると一気に距離を縮め、四メートル以上あろうランスの先が白鬼をかすめる。

「あぶなっ!」あれで突かれたら白鬼の装甲を軽々と貫通するだろう。そうしらふじが分析し、私に伝える。


『この子、結構すごい装甲採用してるんだけど。アレの前じゃ紙だよ。どーなってんのこの世界!』

「マジか。じゃあシュミレーション通り、遠距離射撃メインでいこうか」

『りょうかーい』


 だが、距離を取っても簡単に追い付いてくる。水晶星で防御障壁を展開しても、全く足止めにならない。爆散した城の瓦礫を受け止めた屈強な物理障壁がまるで薄氷のようだ。水晶星を展開させ光攻撃魔法“レーザー”と白鬼の20mmバルカンで牽制し距離を取りつつ、魔導ガンランチャーライフルを構え、炎攻撃魔法“フレームキャノン”を連射する。

 ドヒュゥン! 炎の砲弾が爆音を発しながら射出される。

 あたった。だがダメージは微弱だ。彼女の銀鎧は魔法攻撃を無効化する。

 だがなんだろう。今、タイミング的に避けられたはずなのに、射線に留まった? まただ。まるでわざと当たろうとしているようだ。


 時折感じられる勇者シルヴィアの視線から、焦りの念が伝わってくる。

 恐らく彼女は忠義の仇討ちに抗っている。そして自ら死のうとしている。

 何故?

 だが突然、抗うような動きは一切消え、回避などせず、ダメージお構いなしで猛然と突貫し始めた。

 視線からはもう殺意しか感じられない。完全に呪いに飲み込まれたようだ。

 こうなると猪か猛牛でも相手にしているみたい。

 そこでトドメ用の75mm物理徹甲弾をライフルに装填し狙い撃つ。ズドンッ!

 だが、見事に回避された。致命的な攻撃だけ避けるのかい! 

 しかもこの弾丸は魔法と違って消滅しないので、地上の騎士集団に流れ弾が――よかった、今のは集団を外れた場所に土煙が上がっている。


「どうする、しらふじ。あれ……やる?」

『そうだね。僕の慢心が招いた結果でもあるし、やろう。やりたくないけど』

「女は度胸だよ」


 それは――肉を切らせて骨を断つ作戦だ。昔、アニメで観た戦法である。

 場合によってはこういう捨て身の作戦もありだよね。

 笑顔でしらふじに提案したら、怒鳴られた作戦である。


 やり方は至ってシンプルだ。まず敵を誘い、正面から突撃させ、この身で受けるのだ。相手のランスが白鬼のコックピットを正確に狙っているのを逆手に取り、コックピット内にゲートを発生させる。ゲートの出口は勇者シルヴィアの真後ろだ。


 銀のランスが白鬼の正面装甲をいとも簡単に貫き、メキメキとコックピットを刺し貫いてゆく。次の瞬間、シルヴィアの後方から現れた己のランスが自身を貫いた。


 しかし彼女は咄嗟に体をよじり、ランスは背骨を避け横腹部に突き刺さった。だというのに彼女は止まらず、ダメージなどお構いなしに、更に前進しくる。血まみれの切っ先が更にコックピットの私を狙い貫いてきた。


「うぎゃっ」二度目の切っ先、私の頭をかすめ、座席のヘッドレストに深々と突き刺さってゆく。私は蜘蛛の巣のようにひび割れが広がってゆくモニターに映るシルヴィアを白鬼の両腕でガッチリと拘束すると外へ、白鬼後頭部に通常の転移魔法で移動した。


 突風の吹き抜ける中、魔導銃をシルヴィアに向け構える。


「ごめんね」


 ドギュオンッ!! 生き残れるのは私か彼女だけ。迷いなく私はトリガーを引いた。


 勇者シルヴィアの胸に向け、レールガンモードで発射された47mm物理徹甲弾が彼女の胸に大穴を穿つ。衝撃で銀の鎧兜が吹き飛び、銀の髪が舞い素顔が露になった。

 なんて美しい女性だろう。まるで銀細工のような美貌だ。

 笑っている……勇者シルヴィアが私に微笑んでいる……


 彼女を貫いた徹甲弾はペガサスゴーレムの胴をも貫通し、中枢を破壊され浮力を失った。私のゲート魔法が消えるとランスが本来の長さに戻り、白鬼も制御中枢と動力炉を貫かれ、システムダウンで操作不能となった。

 二体はもつれ合い、シルヴィアと共に落下してゆく。


 そして、最初に私とノエルが降り立った付近に墜落し、バラバラになって飛び散った。

 私は水晶星に護られながら難なく着地すると、速足でシルヴィアの元へ向かう。

 まるで銀の花畑のようにキラキラと輝く破片の中、彼女は倒れていた。

 まだ辛うじて息があり、銀の瞳が赤く明滅している。

 今、彼女を回復させても再び私を襲うだろう。


「姉ぇちん……も…転生したんだね……ボク…姉ぇちんを殺さなくて……よかっ………」


 え…………今、なんて……


 私の知る世界で、姉ぇちんなんて珍妙な呼び方するのは、たった一人だけだよ。


「シロくん!!」


 呼びかけるも、シルヴィアはたった今、事切れた。

 契約主を失い死亡した勇者は二度と復活しない。


「そんな……そんな……シロくん……」

「陛下、どうなさいました」

「この子……弟の生まれ変わりだったの。二か月前に事故で死んじゃって、なんで異世界転生して勇者になってるのよぉ!」

「そっそんな事が……確か彼女は二百二十歳程だったはず」


 ヴァルバロッテも驚愕している。二百年前、彼女はシルヴィアがアルス王国の王妃だった頃からの知己で、よく模擬戦をした仲なのだという。


「そうだ、死者蘇生すればいいんじゃない。焦って損したわ」


 私は魔導銃を構え、聖属性魔法“リザレクション”をセットした。


『魂の分離まで残り時間28分22秒…21秒…蘇生不能。魔力が足りません』


「うそ……魔力が足りないって、しらふじっどういう事!?」

「足りないっていうより、勇者を蘇生させる気がないレベルで魔力が必要なんだよ」

「はぁっ? もっと分かりやすく言って!」

「勇者の蘇生に必要な量は十万。そして今のキキョウちゃんは、戦闘後で一万程しか魔力が残っていないの。ちなみにフルでも四万だからね」

「じゅっ十万って、万全でも全く足りないじゃない!」

「陛下……何度でも生き返る事が出来る勇者ですが、死者蘇生は出来ない。昔からそう伝わっています」

「出来るけど出来ない。意地悪仕様だね。どうする、キキョウちゃん」

「絶対あきらめない!」


 刻々と時間だけが過ぎてゆく。焦るな。絶対何かあるはず。

 ノエルが幼女化して、とててっと私に近寄ってきた。


「あるじ様、わっちの魔力使うです」

「その手があった!!」

「ダメだよ。残念だけど、その手は使えるけど使えない」

「どういう事?」

「聖属性魔法は不純物を嫌うの。ノエルちゃんの魔力はキキョウちゃんに酷似してるけど、使用した場合の成功率は2.8%」

「うぐ、でも成功の可能性はあるんだ……」

「……女は度胸で一か八か、乾坤一擲で試してみる?」

「考え中」


『魂の分離まで残り時間13分45秒…44秒…』


 絶望のカウントダウンが私を焦らせ、思考鈍らせる。

 何か、何か他にないの……もう無い? 

 私がシロくんの命をあきらめるの? また私より先に死んじゃうの?

 ノエルが腕に頬を寄せ、すりすりしてくる。私を心配してくれるのね。

 そういえばこの子、普段から妙に左腕に執着してるような。そういえば受肉の時に食べさせたのも左腕…………あ。


「ねぇ、私の体を魔力に変換出来ないかな。腕を食べられた時、魔力で再生したでしょ。だったら逆も出来るんじゃないかな」

「うん、計算してみた。その高密度魔力結晶体のツノと両足を変換すれば、ギリギリいけるね」

「成功率は?」

「37.8%」

「上等。やる」


 私はシルヴィアの横に座り込み、魔導銃を構える。


「ヴァルバロッテ、脚が消えちゃうから私を支えてくれる?」

「無茶しますね……」

「ほんと、無茶ばかりで心配かけまくりのお母さんでごめんね」

「気付いていたのですか?」

「えへへへ、結構前からね。さぁしらふじ、やって」

「はーい。キキョウちゃんの体の範囲指定完了。じゃ魔素化しまーす」


 みるみるうちにツノと両足が光の粒になり、魔導銃へと吸収されてゆく。同時に残りの魔力も吸い出されると、めまいを覚え、一瞬意識が遠のいた。

 ふらつく私を支えるヴァルバロッテの手に、ぐっと力が入る。大丈夫だよ。


『魂の分離まで残り時間02分16秒…15秒…蘇生成功率37.8%……魔力充填完了、魔導バレル展開』


 さぁ、戻ってこいシロくん!


「リザレクション!!」


 魔力が空っぽになった私は、金の光がたゆたう中、死者蘇生の結果を見届ける事なく、意識を手放した。


 読んでくださり、ありがとうございます。(キキョウ)

 最愛の弟。シロくんが転生していたよ。私が殺しちゃったけど……

 私に殺されようと、必死に呪いに抗ってたんだね。

 このリザレクションが失敗したらどうしようなんて思わない。

 失敗したら、ノエルの魔力もらって、成功するまで何度でも続ける!

 姉ぇちん、そんな……ガチャじゃあるまいし。

 はっ……今、シロくんにツッコミ入れられた夢を見たわ。


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