表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラヴィンティリスの白き魔王ですが、ユリハーレムに龍王や宇宙戦艦がいる件について語りますね。  作者: 烏葉星乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/61

第12話 魔王即位宣言と開戦

 今日の御前会議で、私は衝動的に人を殺してしまった。

 蘇生したけど、殺人にかわりない。

 男性との婚姻というものに示した、自身の過剰反応に正直戸惑っている。

 恐らく前世で多くの夫がいた事、大勢子を生した辺りが起因しているのだと思う。

 楽しい話ではないが知りたいかとクロに問われ、私は知るべきだと答えた。


 狂乱したバハムートの封印結界を維持するには、魔王の命が必要だった。

 親友である聖女ミモリが命を対価に構築した結界を護る為、前世の私は結界維持の要石になる事を選んだのだ。

 だが、バハムートは強大で、自分の方が先に寿命が尽きる事にすぐ気付いた。

 私が死ねば、再びバハムートが解き放たれてしまう。命が尽きるまでの猶予は二百年。その間に引き継いでくれる魔王を捜さねばならなかった。

 世界中の魔王達に打診したが、魔王連邦のカリマー様だけが挙手した。しかし彼は大国を率いる身。そんな事はさせられない。


 そこで、私は自分で子を生し、魔王となる者が現れる事に賭けたのだ。

 世界中の様々な人々を夫として迎え、即位後百二十年の間に五十二名もの子を産んだ。

 結局、最初に生まれた双子が勇者になっただけで、とうとう魔王になる子は現れなかった。


「酷い話ね……前世の私、母親失格すぎて、眩暈がしたわ」

「当時はそれだけ追い詰められていたのですよ」

「その子供達はどうなったの? 私は子育て……多分してないよね」

「はい、父方が引き取って育てる契約でした。大半が裕福な者達でしたから、生活に問題はなかったはずです。こちらからもサポートしましたし」

「はぁ……その子達が生まれた理由を知ったら、私は恨まれても仕方ないわよね」

「いえ、キキョウ様を恨んでた子はいませんでしたよ。全て確認してます」

「マジか……」

「むしろ、とても慕われて……今も一人、近くに居るではないですか」

「それ、ヴァルバロッテちゃんよね。実はそうかなと思ってたわ」

「お気付きでしたか……でも恨みと言えば、子供達以外から買っていましたね」

「誰から?」

「事実を知らぬ者や、あなたに婚姻を断られた者達による、誹謗中傷ですよ」

「あー淫乱魔王って称号のやつね」


 今も少なからず、当時の英雄譚と共に、汚名として伝わっているそうだ。


「もう一つ重要な事実がありました」

「な…何?」

「前世のあなたも同性愛者でした」

「それが原因じゃん! そりゃ魂にトラウマが刻まれてもおかしくないわ」



 翌日は休日にして、初めて城下を散策した。気分転換も必要だもの。

 白く巨大な翡翠の岩山の上に、封印城は築城されている。

 城のシンボルとなる正面の大扉前から城下へと続く、高低差百メートルの大階段をてくてく三人で下ってゆく。ノエルが階段から突き出た踊り場から見下ろすと、翡翠の岩山をぐるりと囲む天然の堀に大きな白いワニが見える。白アリゲーという盲目で凶暴な水棲魔物だ。


「あれ美味しそうです」

「あれならいつも食べているではないですか」

「え、あれ私も食べてるの?」

「はい、白身の淡白な肉があれですよ」

「あれかー、てっきり鶏むね肉かと思ってたわ」

「ちなみにこの踊り場から罪人を落とし、あれで処刑します」

「ちなみに普段食べてるあれの産地は?」

「あれ? もうお察しかと思いますが」


 丁度、城下の屋台の串焼きの香ばしい匂いが私達の鼻孔をくすぐる。

 屈強な近衛騎士が守護する階段の出入り口を抜け、城下広場へと降り立つと振り向き、封印城を見上げた。天を突くような高さだ。国一番の人気スポットらしく、観光客の姿も多い。

 くんくん。香ばしい匂いが漂ってきた。ノエルが一番良い匂いだという串焼き屋台に向かうと、大きなあれの剥製が看板替わりの屋台を発見。確かに食欲をそそる匂いだわ。


「おじさん、あれの串焼き三本ちょうだいな」

「まいどっ! うちのは脂がのった脚肉だから旨いぞぉ。お嬢さん観光客かい?」

「最近、近所に引っ越してきたの」

「そうかい、ごひいきにな。そういや知ってるかい? 初代様が転生して、あの城に戻ってきたんだと」

「うん、すごく知ってる」

「しかもアルス王国とおっ始めるって話だ。あんな大国と戦争なんて、どうなっちまうんだろうな、この国」

「大丈夫」

「え?」

「大丈夫だから、心配しないで」


 私は目深に被っていたフードを少し上げ、ちらりと顔を見せた。


「……えぇぇぇっ!?」

「おじさん、焦げてるよ?」

「はっはいいいいっ!」


「うまっ、これメチャうんまっ! おじさん追加で二十本お願い」

「よろこんで!」


 ノエルが的中させた絶品串焼きを三人でモグモグしながら城下を散策した。

 お前のようなババアがいるかと疑いたくなる程、大きなお婆さんの露店で買ったお饅頭や紅白すあまをお土産に“ブティックノノ”に顔を出すと、まだ昼前だというのに、酒臭いディープキスでお出迎えされた。

 クロがお茶を淹れ、私がお菓子を用意し、弟子の熊人族の少女も一緒にまったりと過ごす。久しぶりにゆっくりできたわ。

 ノノの店は、細い路地の奥。静かな隠れ屋的雰囲気のあるブティックだ。

 ファンも多く、商業国家魔王連邦へ輸出もしており、知る人ぞという店らしい。

 店内にはたくさんの可愛い服が並んでおり、折角なので、ノエルと私の普段着を何着か注文した。なんとジャージに酷似した伸縮性のある生地があったので、色や形を指定して、数着注文してみた。残念ながらこの世界にファスナーは無いが、とても完成が楽しみである。


 夕刻。国が落ち着いたら、キキョウの館で女子会をしようと約束し、帰宅した。



 三月七日。


 結局、アルス王国からの反応は無く、まもなく開戦の正午だ。

 本日は国民と全世界に向け、私の郷魔国六代目魔王即位の挨拶を行う。

 既に全世界に向けての映像配信用魔道具の準備は済み、国民向けは魔王の能力の一つ、念話で私の声を伝える心構えも万全だ。


 城の大扉の前に私が現れると、城下広場に集まった国民達の大歓声が沸き起こった。

 私は手を振りながら笑顔で応える。

 今日も側には、クロとノエルが一緒だ。二人とも着飾ってとても美しく、可愛らしい。

 広場の各所に配置した大型の姿見水晶から身長三十メートル近い私の立体映像が映し出され、いよいよ演説の開始だ。こんな大舞台だというのに、ほとんど緊張していない。

 しかし魔王服姿の大きな立体映像は無茶苦茶恥ずかしい。

 お股が際どくドアップだよ。見上げないでぇぇっ!


 右手を上げると歓声がピタリと止んだ。しかしエロい視線は止まらない。


「郷魔国よ、私は帰ってきた」


 両手を広げながらの最初の挨拶に広場から大歓声が上がる。どこかで聞いたようなセリフだけど、最初の言葉はこれがしっくり来ると思った。演説で両腕を左右に広げるのも、どっかで見た気がする。


「神の采配か、悪魔の所業か、再びこの姿で転生する事が出来た。ただし前世のように龍王と渡り合うような圧倒的な力はもうない。だが代わりに、様々な力を民に分け与える事ができる付与魔術師の力を得た。私は神に与えられし新たなる力で、この国を豊かにし、国民を幸せにする事を誓おう!」


 私の言葉に、国民の大歓声が巻き起こった。

 結構離れているのに、広場の熱気がここまで伝わってくる。


「さて……現在、郷魔国は国土の北に位置するアルス王国の悪辣非道なる行為により、国民と国土に酷い傷を負わされた。今、これを観ている外国の人々よ。あなた方は郷魔国がどれだけ理不尽な目に遭ったのかをご存じだろうか。河川を堰き止められ、故意に洪水を起こされ二十万近い民が、町や村と共に濁流に飲まれた事を!」


 シンと静まり返る広場。皆が心に強い怒りを湛えているのを感じる。

 しかし、エロい視線は全く消えない。大概にしろオマエラ。


「先王キョウカは最後まで平和的解決を模索したが断念し、かの国を亡ぼす決断をした。しかし、折悪く異世界に転生し、死に掛けていた私の存在を知ったキョウカは、その身を犠牲にし、私をラヴィンティリスに召喚したのだ……」


 静かにどよめきが起こる。


「故に……キョウカの意思を引き継ぎ、私はこれからアルス王国を滅ぼす!!」


 ゴォーン……正午の鐘が鳴り響く。


「戦を告げる鐘が鳴った。さぁみなさん、戦争を始めましょう」


 私は大仰に右腕を突き出すポーズを取った。

 そして、この日の為に頭を捻った中二っぽい召喚呪文を唱える。


「白き暴虐よ。その深淵なる力を開放し、我が牙となり敵を穿て。顕現せよ、魔導銃しらふじ!」


 紫の魔法陣が宙に浮かび、白く優美な魔導銃がその姿を現わす。グリップを握りクルリと回し決めポーズ。ちょっと恥ずかしいけれど、広場の子供達も大喜びだ。


「これが私の武器魔装“魔導銃しらふじ”よ。魔導師の杖に似た異世界の武器ね」

『解せぬー。木の棒と一緒にしないでー』

「では、どのように使うのか、お見せしましょう」


 アサルトライフルモードのしらふじを構え、姿見水晶と配信用魔道具にしらふじを同期させ、ターゲットスコープの映像を各所の大画面に映し出した。映像配信用魔道具を持つ各国も受信してるはずだ。


「はい、魔導銃はこの画面に映った標的に向け、攻撃魔法を撃ち込む事ができる武器なんですよ。しかも……この銃は、すごく遠くまで見る事ができるの」


 魔法の種類にもよるが、銃単独での射程距離は最大で千五百メートル程度。しかし水晶星とリンクさせると……手始めに広場の女の子を照準に入れ「やっほ~」と挨拶。そしてどんどん北へズームしてゆき、大きな河川の堰が照準に入る。ちなみに今、私は南を向いてるが、ターゲットは真後ろの北だ。


「これは、アルス王国内のアララ川の堰ね。これのせいで何万もの人命を奪われたわ」


 そこから西に移動してゆくと、国境近くの平野に待機する数万の軍勢が映る。


「これはアルス王国軍の騎士団。我が国に攻め込む為に国境に待機してるようね。おや? ヴァルバロッテちゃん発見! 降伏勧告の為に派遣した我が国の大将軍です。可愛いなぁ。やっほ~今日もおっぱい凄いねぇ」


 こちらを見ながら恥ずかしがるヴァルバロッテの姿に、広場から笑いや野太い感嘆の声があがる。


「そして……諸悪の根源、アルス王の住まう王都のロメリア城。さぁ。やるよ!」


 一気に王城へとズームしてゆき、城内、王の間、そして玉座に座るアルス王その人が映し出された。


 トリガーを半押しすると、私の前方にゲートが現れ、そのすぐ向こう側のアルス王と視線が合った。優雅に挨拶をして、躊躇いなくトリガーを引き抜く。


「ごきげんよう。そして死ねっっ! ボルテックスバースト!!」


 私はアルス国王に向け、風属性プラス土属性の極大攻撃魔法を撃ち込んだ。凄まじい竜巻と高硬度の岩塊が増殖しながら巨大な渦を作り、周囲を破砕しながら暴れ狂う凶悪な魔法だ。人が巻き込まれれば骨まで粉々に粉砕され、塵芥と化すだろう。


 ギャリギャリと凄まじい音を立てながら膨れ上がった岩塊の大渦が、ロメリア城を内部から爆散させた。攻撃と同時に城を囲むように展開した二百機を超える水晶星の物理障壁によって、瓦礫や岩塊の飛散を防いだので、城下への被害は無い。

 土埃が晴れると、そこには歴史ある勇壮な城の姿は無く、無残な瓦礫の山だけが残っていた。

 だが、一人だけ生き残っている反応がある。勇者シルヴィアだ。

 やはり倒せなかったか。

 うわ、国民の視線がヤバい。


「はいっ、攻撃完了。面白かったかな? あはははは……」


 あれ? おかしいな。なんで私泣いているのだろう。涙が勝手に……


「キキョウ様」


 クロが優しく涙をぬぐってくれるが、涙が溢れて止まらない。


「だって、こうしないと、国民を護れないから……だから」

「まったく、昔からいつも自分を押し殺して、他人の事ばかり心配していましたからね」

「うぐ、二十歳の小娘に八十万の国民の命なんて重すぎるよぉ」

「だから私に任せておけばいいんですよ。はい、ちーんして」

「それじたらクロちゃんが、ちーん!」

「キキョウ様、いいんですか? 泣いてる暇無いはずですよ」

「そうだった! あ……今の全部放送されてたぁ? 今のカット!」


 あわてながら、涙目で魔導カメラに向けビシっと両腕をクロスさせ、大きな×を作ってみせた。


「生配信ですよ」

「そうだった!」


 国民と世界に泣き顔を配信してしまった。特大の放送事故である。

 まぁ私に威厳なんていらない。


「とりあえず今日の放送と念話はここで終了ね。もうすぐ仇討ちにアルス王国の勇者が私を殺しに来るからここを離れます。結果はまた後日。じゃあまたねぁ!」


「ノエル!」

「あい」


 ひゅおんと薄紫色の大きな魔法陣がノエルの頭上に現れ、ジャンプして潜り抜けると、どわっと巨大なドラゴンが現れた。全長百メートル以上あろう純白の龍鱗煌めく四翼のドラゴンだ。独特な曲線を描く紫水晶の双角と、すみれ色をした被膜の大きな翼がとて目を引く。

 今は龍王の称号を失い、体格も昔の三分の一程だというが、その佇まいは威風堂々かつ優美である。


 私を頭上に乗せると、ノエルはすみれ色の四翼を広げ、ぶわりと宙に舞った。そして、魔都の民に見せつけるように封印城を旋回し、北に向け一気に加速し、彼方へと消えてゆく。群衆の中から「バハムートだ」そうつぶやく声もあったが、大歓声にかき消されてしまうのだった。



 ◇ラヴィンティリス豆知識◇


 この世界のドラゴンは大きく分けて四種に分類できる。

【下位竜】ワイバーンやワーム(地竜)のような魔物と大差がない竜。

【中位竜】知能が高く、人族と共生可能な竜。ドラゴン旅客便等、人々に有益。

【上位龍】龍族と呼ばれ、人化が可能で勇者を超える力を持つ。

【超位龍】四翼と隔絶した能力を持つ龍族。現在六名存在し、龍王の称号を持つのは、リヴァイアサン、ファフニール、エメラルドフォレスト、ペンペラー。


 上位龍と超位龍は、「匹や頭」ではなく「人」として数える。

 上位龍の戦闘力は、平均的な勇者三人分とカウントされている。


 ここまで読んでくださり、ありがとうごいざいます。

 この物語をこれまで何度か書いたのですが、いつもこの辺で挫折してました。

 今回はきちんと書けて、ホッとしています。

 ただ、もうちょっと圧縮できればなぁとも感じます。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ