第108話 ヴァルバロッテの求婚
ラヴィンティリスに夏が来た。
そういえば、日本では夏らしい事はあまりしなかったなぁ。
海に行ったけど、宇宙の海だったしね。でも、ひいらぎちゃん達と季節関係なく、市営の温水プールには何度か行ったよ。
そして……抜かりなく、たくさんの水着を買い集めてきたからね。四年ぶりに水着の姿見写真集を発売しましたぜ。今回も七月、八月と連続で水着三昧だ。
今回は、ノエル、ローズ、カリン、しらふじ、そしてヴァルバロッテがモデルとして登場した。
ノエルは私と一緒に何度か登場してるけど、魔王代理で知名度も上がったので、今回は単独で登場。なんと男女共に人気があるらしく、ユキプロデュースで昨年出した男装の姿見が爆売れしたそうだ。
ローズは私が不在のあいだも定期的に姿見写真集を出しているが、今回は大胆に妖艶な水着で登場である。
カリンは水着に抵抗感がない子なので、今回参加してもらった。元異世界人だし、いつも半裸で暮らしているしね。
彼女の透き通るような青い肌には、純白の水着がとてもよく似合う。龍つながりで、しらふじとペアでの登場だ。
しらふじは「無理無理無理」だったが、カリンも一緒だからと説得したよ。
なんと、姉達にモデルをやるよう、強く命令されたそうな。末妹はつらいね。
そして、今回一番の話題になるであろう、ヴァルバロッテだ。
「お母さんのお願い! 私と水着写真集を出して、一緒に幸せになろうよ」
「……お母さん、笑顔が胡散臭いです。以前、勇者の姿見シリーズとして出たから、それでいいじゃないですか」
「ダメよ。世界があなたの水着姿を求めているのよ!」
「えー…でも私、胸が大きすぎて恥ずかしいので……」
「それ……絶対シルヴィアの前で言っちゃだめよ」
「なに? 姉ぇちん何か言った?」「なんにも~」
「いいわね?」「……はい」
「それに、例の師匠がどこかで見てくれるかも。むこうから求婚してくるかもよ!」
「それは正直複雑です。師匠の事は、まだ諦めてないですけど……わかりました、着ましょう」
「やったぁ! あ、しらふじ。ストロガーノさん呼んでくれる。折角だから彼にも参戦してもらいましょ」
「どういう折角?」
結果から伝えよう。うん、当然のごとく爆売れした。
この二ヵ月間に発売した水着姿見写真集は全十二タイトル。
現在、姿見水晶の普及数は、全世界でおよそ千二百。その大半のユーザーが複数購入してくれたおかげで、純利益はなんと五百億スフィアを超えた。更に姿見水晶本体もどんどん注文が入っている。
女神効果もあってか、私が一番売れたけれど、ノエルは言わずもがな。
そして、予想以上にヴァルバロッテも売れてくれた。カリンとしらふじの青と紫の肌はとても涼し気で美しく、もっと色々な衣装が見たいと要望が殺到した。特に龍族や魔族からの人気が高い。
それと、ストロガーノの筋肉ムキムキスイムパンツ姿もすごく売れした。特に男性に熱狂的なファンが多いようで、シリーズ化を望む声が異様に多かった。
執務室に呼んだストロガーノの前に、ゴスゴスンと金貨袋を積み上げてゆくと、普段寡黙な彼が素っ頓狂な声を上げた。
「はい、41億五千万スフィア。これがストロガーノさんの売上分ね。お納めください。あとこれがファンレターの山」
とんでもない大金を前に、ぷるぷるするムキムキマッチョ。これでたっぷりと可愛い奥様と子供達に、家族サービスしてあげてくださいね。
と言っても、この世界。個人が大金を持ってても、持て余しちゃうのよね。使うにしても、大きな屋敷を建てて、大勢使用人を雇ったり、優れた武具やアクセサリー、美術品の購入ぐらいだもの。私の懐の金貨も貯まる一方だし。
ん~世界旅行用に巨大飛空艇でも建造してみようかなぁ。
あ……ケージ艦しらゆりと宇宙戦艦があったわ。しらふじもいるし。そんなもの造ったら、ヘソ曲げられそう。
「うおおおおおおっ! ヴァルバロッテぇぇぇぇっ!」
魔都ミモリのはずれ、とある一軒家で叫び悶える無精ひげのさえない男がいた。
ヴァルバロッテの師匠、天厳御剣流サムライマスターの勇者コジロウである。
この男、弟子であるヴァルバロッテに追い越され、勇者ランキングも圧倒的な差をつけられてしまった事を素直に祝福できず、彼女に「天厳御剣流を名乗るな、新たな自分の流派を名乗れ」そう言って突き放したのだ。
さらに彼女からの求婚も断っているという、とんでもない男である。
その男が今、ヴァルバロッテの水着姿の前で、地べたに転がった芋虫の如くのたうち回っていた。
魅惑の秘所をかろうじて隠す、赤いメタリックの小さな布地。それを支えるのは、今にも切れそうな数本の細い紐。背中はほぼ紐のみで、お尻も丸出しだ。
小柄な体に似つかわしくない巨大なふたつのロマンをぷるんぷるさせる動画をエンドレスで再生しながら、コジロウは叫んだ。
「なんたる破廉恥な姿……あの乳を全世界に晒すとはぁぁぁっ! このおっぱいはそれがしのでござるぅぅぅっ! ヴァルバロッテっ愛してるぅぅぅっ!」
その昔、ロリ巨乳なエルフの姫君からの求婚を断ったくせに、未練がましく叫ぶコジロウ。プライドが邪魔をして、自分より強くなったヴァルバロッテからの求婚を素直に受け入れられなかったのだ。当時の自分は若すぎた。そう悔やむコジロウ。
だからと言って、修行して彼女より強くなり、自分から求婚しようという気概もない。なにせ彼女のランキングはアスフィーリンクに抜かれたとはいえ、現在第二位。以前はコジロウも三十位近かったが、現在は落ちに落ちて百位前後をふらふらしてる。
あれから六百年、現在は魔都で商人ギルドの相談役兼用心棒をして暮らしているコジロウ。時々修行の旅に出ているようだが、彼女のいる魔都から離れられないでいるのだ。
だが、そんな彼をヴァルバロッテの水着おっぱいが覚醒させたのだ。
おっぱいっ! 最愛のロリ巨乳娘を誰かに渡すなどありえぬっ!
「修行のやり直しでござるな」
先程と目の輝きが違う。どうやら本気のようだ。
だがそこへ突然、頬を赤らめたヴァルバロッテが窓から顔を出した。
先程から外でずっと、コジロウの恥ずかしい叫びを聞いていたのである。
「師匠、お久しぶりです……」
「うおぉぉっ!」
「師匠、恥ずかしい奇声が外にだだもれですよ。せめて窓閉めて叫んでください」
「なななっ何しに来たでござる。いや、何でこの場所を知っているでござるか」
「……六百年も魔都に住んでるくせに、バレないと思ってるんですか。お祭の時とか頻繁に見掛けますよ」
「そ……そうでござるな。それがし、商業ギルドの用心棒ゆえ、祭の手伝いをよくしてるでござる」
ちゃぶ台の姿見水晶をオフにして、最低限の家具しかないストイックな部屋にヴァルバロッテを招き入れると、ひとつしかない自分用の座布団へ彼女を座らせた。珍しそうに独身男の部屋の中を見回すヴァルバロッテ。
夏場の私服は浴衣などが多いが、今日の彼女はノースリーブのワンピース。レースの下着がうっすらと透けて見え、普段よりずっと挑発的だ。
そんな彼女を前に、少し緊張気味に麦茶をちゃぶ台に置くコジロウ。
「それで、何か用でござろうか」
「私の姿見、見てくれたんですね」
「ま……まぁ、人並には……」
「私のおっぱい……どうでした?」
「ああ、最高でござった。だが……他の男には見せたくないでござるな」
意を決した表情で、とんでもない事を質問するヴァルバロッテ。
そして、真面目に答えるコジロウ。
「そうですか……もうね、あの水着姿のせいで、世界中の王侯貴族や大富豪達に求婚されて大変ですよ」
「そっそうか、そなたの器量なら、当然でござろうな……」
「なので、そろそろ結婚しようと思います」
「そっそう……ええええっ!?」
「私もいい歳ですから。見た目はこんなですが、エルフの年齢でいうと五十歳ですもの……師匠、私からの求婚を袖にしたの覚えてますか?」
「もちろん覚えているでござる。あの頃のそれがしは、若かった……」
「では……私が再び求婚したら、お受けいただけますか?」
「ほべしっ!」
「なんですか、ほべしって……それでどうなんです。受けるんですか? 最後のチャンスですよ?」
澄んだルビーの瞳と巨大な乳房に詰め寄られ、視線が泳ぎまくるコジロウ。
ほわんと美少女のいい匂いが鼻孔をくすぐる。
普段のヴァルバロッテとは違い、今日は意を決して来ているので積極的だ。
何故なら商業ギルドマスターの娘と師匠が見合いをするという噂を聞いたからだ。
それ故にグイグイ押しまくる、いい匂いのヴァルバロッテ。
そんな彼女に、彼が口にした返事は――
「勝負するでござる。それがしが勝ったら、そなたに求婚するでござる!」
「それは…………私に負けてくれと言ってるのですね?」
「は……?」
「だって、今の師匠が私に勝てるはずないでしょう。最近ろくに修行してないの知ってるんですからね」
「えええ……いや、これから本気の修行を……」
「ダメです」
「何がぁ?」
「それじゃ永遠に師匠と結婚できないじゃないですか」
「それがし、絶対お前に勝てないって事ぉ?」
「……では勝負しましょう。そして――」
ヴァルバロッテが深呼吸し「魔装」紅蓮華の甲冑をまとい、鬼神刀朱雀、鬼神刀玄武をコジロウの喉元でクロスさせた。
「私が勝ったら、師匠は私を娶るのです。いいですね」
「ええええええ……」
「返事は?」
「はいぃっ!」
その後、一ヵ月ほど山籠もり修業をするコジロウ。
それを甲斐甲斐しく、嬉しそうにお世話するヴァルバロッテ。
「それって修行か?」「ただのキャンプだよね?」と、みんなツッコミを入れたかったが、ヴァルバロッテがあまりにも幸せそうなので、誰も何も口にする事はなかった。
そして、対決の日。場所はキキョウの館近く、湖畔に浮かぶ小さな島。
コジロウの魔装は鬼神刀長光。身の丈程ありそうな長い刀だ。
対するヴァルバロッテは、鬼神刀朱雀と玄武の二刀流。
緊迫した空気に支配された中、ついに対決が始まった。
「ゆくぞ、ヴァルバロッテ」
「どうぞ、師匠」
勝負は一瞬でついた。
刀同士がキキンと交わる音がした次の瞬間、ガクリと膝をつくコジロウ。
「負けたでござる……」
この勝負を見守る家族達の中で、今の凄まじい剣戟が見えたのは勇者ランキング上位組のシルヴィア達と、クロ達超位龍ぐらいであろう。
「ふふふ、師匠。いえ、コジロウさん。これで私達、夫婦ですよ」
キンと子気味良い音をたて納刀しながら、笑顔の花を咲かせるヴァルバロッテ。
彼女に勝てない事はわかっていた。だが、これ程にまで技量に差があるとは。
コジロウは愕然とした。そして、ヴァルバロッテに告げた。
「こんな不甲斐ないそれがしと、結婚してよいのでござるか?」
「何を言ってるんですか。師匠、以前より数段強くなってますよ。ランキング見てください。今の勝負で十位まで上がってます」
「うおっ……まさか、こんな……」
「私と一緒なら、もっともっと強くなれますよ」
「ああ……そうで、ござるな」
立ち上がったコジロウに、ぎゅっと抱き着くヴァルバロッテ。
そんな二人へ家族達は、おしみのない祝福の拍手を贈るのであった。
閑話
「よくもまぁ、コジロウさんの事を六百年間も諦めずにいられたよね」
「ふふふ、惚れた弱みと申しましょうか。初めは同じ鬼神刀の勇者という事で、師事したのですけれど。その……彼が可愛くて可愛くて……」
「ああ、確か二百歳ぐらい年下なのよね。どんなところが可愛いの?」
「ダメなところがとても可愛いんです」
「へぇー(まさかダメ男好き?)」
「気が付けば私のおっぱいやお尻見てるのも、すごく可愛いし」
「へぇー(まぁそのぐらいは普通よね)」
「私の求婚を断ったのだって、私の方が強くなっちゃったのが気に入らないという、おちょこ並みの器の小ささがとても可愛いんです。そのくせ本心では結婚したがってるのバレバレなのも可愛いんですよ」
「へぇー(うわぁー)」
「この六百年間、師匠の居場所はすべて把握してましたけど、私の事が好きすぎて魔都から離れられないのも、とぉっても可愛いですよね」
「(ストーカーかい)でもそれがいきなり、どうしてこんな事に?」
「あのダメ師匠に結婚話があったので……相手は小柄で胸の大きい娘で……万が一の事があったらと思うと……」
「あーうんうん(良かった、まともな事情ね)」
「もし私以外の女と結婚したら……」
「最悪、普通の人族なら百年も待てば――」
「いえ、速攻で寝取ります」
「へぇー」
いつも読んでくれて、ありがとうございます。(ヴァルバロッテ)
やっと師匠と結婚する事になりました。うへへ。
住む場所どうしよう。ああ、シルヴィアがキキョウの館の近くに屋敷を構えるそうだから、その近所でもいいかなぁ。ふふふ。
そういえば、シルヴィアの旦那さん。見た目は悪くないけど、なんかダメ男臭がするよね。
私の胸やお尻もよく見てるし。シルヴィアは銀姫と謳われた絶世の美女で背が高くすらりとしてて、すごく素敵なのに……無い物ねだりってやつ? 隣の芝生は青く見えちゃうやつ?
あ、つまりシルヴィアからも、師匠の事が素敵に見えちゃう可能性も? 駄目っぷりを気に入られて、略奪される可能性もある?
「いやいやいや、親友の旦那取ろうとか思わないし! ボクは光洋だけでいいし! ああ、私がいるのに他の子の胸やお尻ばかり見てるから、ダメ男って部分は否定しないけど……」
じゃあ、お互いの旦那のダメなところ自慢しあおうか。ダメ勝負で勝った方は離婚で。
「やめたれ。コジロウさんがヴァルの後ろでプルプルしてるよ」
いやいや、光洋さんもあなたの後ろでプルプルしてるし。
そういえば偶然なのか、コジロウとコウヨウ。名前が微妙に似てる……
一年書き溜めたストックが終了しました。今後は書き次第アップします。




