第105話 白の女神
ヒュゴゴゴゴ……ゴォーン…ゴォーン……
巨大な影を都市や麦畑へ落としながら、悠々と空を進む異形の龍。
その後方から、更に巨大なケージ艦しらゆりがついてくる。
ふぅぅーすぅーふぅぅーすぅー……
しらふじ体内のコアルームにて腰にガッチリ脚をからめ、私と一体化するが如く抱き着いて離れないクロ。鼻先を髪と首筋に突っ込んで、私の匂いを嗅ぎ続けている。
とりあえずこの子はこのまま、改めてしらふじを二人に紹介した。
「えっと、直接会うのは初めてになるね。この子がしらふじだよ」
「しっしらふじだよ。二人とも、改めてよろしくね」
「また、よろしくですよ」
「それと今私達が乗ってる、超位龍ルミナスゲイザードラゴンもしらふじなんだけど、お姉ちゃんポジションのしらふじかな」
『あはは、末の妹共々よろしくね~』
「おおー、ずっとあるじ様を護ってくれて、本当にありがとうです」
『いえいえ、ボクもノエルちゃん達にすごく救われているんだよ』
「ひゃん、ノエルちゃん?」
緊張気味のしらふじをノエルがぎゅっと抱きしめた。
ノエルの容姿は四年前と変わらないが、妙に大人っぽくなったように感じる。
挑発的なエロさはそのまま、妖艶さを追加したような、そんな雰囲気だ。
「ほう……しらふじちゃんは、かなりの美人さんですね。チューしていいです?」
「えっ……ええっ?」
「三秒ルールです。むちゅ~」
「んぷっ」
「ちょっ、何いきなりキスしてるの」
「ペロリ。魔王代理のわっちが定めた『キスを宣言後、相手が三秒以内に拒否しない場合はキスしていい』法律です」
「まさかあなた……この四年、私への報告なしにそんなフリーダムしてたの?」
「さすがに国民全ノーパン化計画は、みんなに却下されたですよ」
「んが」
開いた口が塞がらなくなった。だがこの酷い法律は、月替わりの愉快なネタとして国民に受け入れられており、とても好評なのだという。他のネタ法律を知るのが正直怖い。
私は考えるのをやめて、しらふじにくるりと背を向け「はい、クロちゃん。しらふじにご挨拶」クロに挨拶を促した。
「……よろしく」
「うっうん、またよろしくね」
「それと、そちらがシルヴィアと結婚予定の光洋くんと、そのお婆ちゃん」
「どっどうも……森野光洋です」
「そして私達の娘、茉莉花よ」
「あるじ様、カイはどうしたです。まさか……転移失敗?」
しゅばっとクロが離れキョロッと見回し、私の顔を見た。
「カイくんはあっちの世界に残って、大切な女の子と生きる事を選んだの」
「そうでしたか……記憶持ち成人男性の転生者ですから、正直なところ逢わずにホッとしてます……」
「ふふふ、正直ね。私も最初は驚いたけれど、カイくんは理性的で落ち着いた子よ。達観してるというか。それにラミちゃん置いてきたから念話も通じるし、逢おうと思えばいつでも行けるしね」
実はラミのおかげで、望むまま地球を行き来できたりするのだ。
ただし私としては、余程の事がない限り、もう戻るつもりはない。
「そう、ですね……ところで、そこの目障りな金色いのは何ですか?」
クロが茉莉花を愛おしそうに抱き上げながら、小さな金ぴか娘に冷ややかな視線を送った。するとラミがぽーんと私に飛びつき、さっと首元から背中に隠れた。イナゴかな。
「気持ちはわかるけど、もう邪神案件は落着してるんだから殺気を向けないの」
「はい……キキョウ様が矛を収めてるのですから、私もそれに倣いましょう。言いたい事は山脈ほどありますが」
「わっちもいいですよ。もう昔の事です」
「あ……ありがとう。もう二度とご迷惑かけませんわぁ」
笑顔でそう言えてしまうノエル、すごいわ。
ノエルが人差し指を近付けると、肩に乗るラミがそれをぎゅっと握った。
クロはまだ複雑な顔をしているが、彼女の性格的に仕方あるまい。
今夜いっぱい甘やかそう。
そうこうしていると、懐かしき封印城と魔都ミモリが見えてきた。
人型の巨大な龍が魔都上空へ達すると、歓声が沸き起こる。
メイ・ルフーヤでは悲鳴が上がってたというのに、さすが我が国民である。
しらふじが大きな手を振ると、大歓声へと変わった。
封印城正面に到達すると大扉がゆっくり開き、私の愛する家族達が現れた。
さすがにみんな、しらふじの巨体に目を丸くしているわ。なにせ封印城よりも、ずっと大きいのだから。
それではみんなのもとへゲートで移動しようか。
おかえりなさい~っ!!
笑顔で出迎えてくれた家族達。
私はひとりひとりの匂いと感触を確かめながら抱きしめてゆく。
ああ、ユキ……大きくなったわ。もう十八だしね。あらら、メスの匂いがするよ。
同い年のアスフィーリンクも驚くほど美しくなった。十六で成長を止めたの?
ベルテとティメル、結婚おめでとう。
リリィメレルはそろそろハーレムに入る気には……残念。
イノゥバには驚くようなお土産があるんだよ。お楽しみにね。
アリアンロッドは学園で講師をしてるんだっけ。ん~いい匂い。
ヒマリ、どうどう、鼻息が荒らすぎだわ。
クイントは陽だまりの匂いがするなぁ。いつも空を飛んでるのね。
マレーニャはこの四年で、どんな絵を描いたのかな。絵具の香りがすごいな。
マンマネッテは髪を伸ばしたのね。可愛いよ。キキとリンはもう十二歳かぁ。
ロレッタの神秘的な美しさは磨きがかかっているわ。
そしてローズは、変わらず紅薔薇のように美しい。もうアラフォーなのに、二十代のままね。
セーラとベッキーはここにはいない。本国に戻り、結婚したセーラにベッキーは今もお仕えしてるそうな。結婚祝いは何がいいかな。
相変わらず大きくて小さなヴァルバロッテを抱きしめ、すみでソワソワしてるネロ様を思いっきり抱きしめてあげる。
「今戻りました~ああっ、おかえりなさ~い!」
そこに光の翅を広げたカリンが飛び込み、ネロ様ごと私を抱きしめた。身長は四メートルのままでだ。むんぎゅ。
「こらこら、ここは森じゃないんだから服を着なさいっ!」
「ひゃぁぁぁっ、忘れてましたぁぁっ!」
最後にシルヴィアは……光洋くんの所で早速イチャイチャ中か。
むは、カリンのおっぱいをガン見する光洋を小突いておる。
全員とのハグを終えると、私はしらふじとラミーリュ、そして光洋とお婆ちゃん、最後に娘の茉莉花を紹介した。ノエルを通じて概ね伝えてはいたが、みんな案の定、驚きの表情である。
さて……四年と四か月ぶりに玉座の座り心地を確かめると、目の前にずらりと並ぶ臣下達と全ての国民に向け、久しぶりに念話を使って話しかけた。
『国民の皆さん、臣下の皆さん。魔王キキョウ、ただいま無事帰還しました』
割れんばかりの拍手と歓声に包まれながら、私は臣下達の顔を見回し、みんな息災な事を確認する。城メイドや近衛騎士達も全員この場におり、すごい人数だ。
うお、ムキマと彼氏のそばに小さな男の子がいる。奇声をあげるヘンタイ男爵は平常運転だ。ヘンタイもほどほどにね。
『いっぱい土産話があるけど、それはキキョウれいでぃおで追々話すのでお楽しみに。とりあえず重要案件を三つ告げるね。まず一つ目、男女の双子を出産したのは伝わってるよね。長男のカイくんなんだけれど、あっちの世界に置いてきました』
みんなが私に驚愕の視線を向ける。あ、しくった。
『あーごめんごめん。言い方失敗。カイくんはね、愛する女の子の為に自分の意思で残ったの。キョウカの一家と一緒に暮らしてるから心配いらないわ。さて二つ目は、異世界のお土産をいっぱい買ってきました。近いうちに国民全員に配るのでお楽しみにね。そして三つ目、このたび世界神様より――』
大魔王になった事を伝えようとしたその時『ぴんぽんぱんぽーん』突然、私の念話に割り込みが入った。え……この声って。
『全世界の者達に告げる。ワレは世界神ラヴィンティリスである』
ラヴィちゃんだった。おそらくこの時代、この規模で世界神様がお言葉を告げるのは初めてであろうとの事。時々女子会をしてるので、うちの子達は知った仲だけどね。臣下達はピンと背筋を正し、そして跪いた。
『本日、郷魔国魔王キキョウが異世界より帰還した。これまでの彼女の功績を讃え、大魔王の称号を与える事となった。更にこれに加えラヴィンティリスの神の一柱として迎える事を決定した。呼称は「白の女神」である。皆、新たなる神の誕生を祝うがよい。そして、大いに繁栄せよ』
『え……私が女神? ちょっとラヴィちゃん。女神って何すればいいの?』
『なんでも。この世界繁栄につながるならば自由にせよ。必要ならば世界征服してもよい』
『えええええ』
『折角だ。新たな女神の抱負を全世界へ向け告げよ』
『あぁ、この会話って世界中に届いてるのね。うーん、抱負と言われても、突然すぎて何を言ったらいいやら……とりあえず、世界征服はしません。今のところ』
いつかするんかい!
そんな絶叫ツッコミが世界中から聞こえてきた。
というか、この場の臣下達どころか家族にまで……解せぬ。
『私としては、世界中の人達が幸せに暮らすのが望みです。あ、各国に内政干渉していい?』
『自由に干渉せよ。女神の言葉を無下にする国は滅ぼしてよい。ワレが許す』
うわ、王達の悲鳴が聞こえるわ。とんでもない娘が女神になったと戦々恐々だ。
『では各国の王様や大統領の皆さん。白の女神が命じます。税率を三割以内に抑える努力をしましょう。達成した国には、私が異世界より持ち帰った、民の生活を向上させ国力をアップさせる、結構すごい品々を差し上げますよ』
『では任せたぞ』
『はーい』
こうして私は、帰って早々女神になってしまった。
【個体名】キキョウ・ユキノ(女)
【年 齢】28歳(20歳固定中)誕生日12/31
【種 族】鬼人族(紫)
【職 業】郷魔国大魔王、付与魔術師、女神
【理力値】77777(世界貢献度)
【魔 装】紫水晶の角飾、魔導銃しらふじ、水晶星、紫雪花の魔装、魔法珠
【ゴーレム】白鬼壱式、弐式、参式
【スキル】大魔王、付与魔術、特殊感知、女神、鑑定
【加 護】世界神の加護、女神の加護(闇、邪、ユリ)、聖女の加護、龍王の愛
【称 号】郷魔国ユリ大魔王、絶世の美女、白の女神
【備 考】女神の業務に限り、ゴーレムの同時使用と魔力の無制限使用を
許可します。
閑話
「どうもぉ~、女神になったキキョウでぇーす」
「キキョウ様。いきなりどうしたんです?」
「いや、なんとなく……突然女神になって不老不死になったとか、頭が追い付かないよ」
「女神にならずとも、私の妻になれば不老不死になりますけどね」
「え、そうなの? ああ、クロちゃんも神だっけ。そうなるんだ……じゃあ、私と結婚したらハーレムっ子達も不老不死になるのかな」
「多分ですが、そうはならないと思いますよ。私が特別なので」
「そっかぁ…………まぁ付与魔術で似た事できるし、何とかしてみせるわ」
「キキョウ様、通常の数十倍長寿の勇者には心を病む者が多いです。理由は元々定命の者の精神が長寿に対応していないのではと、ヘイワード教授が考察してます。ですので、それが可能であっても、長生きの無理強いをしてはだめですからね」
「そうね……わかったわ。そうなるとエルフの混血のヴァルバロッテはともかく、シルヴィアはどうなのかしら」
「ふむ……彼女はまだ二百二十歳を過ぎたぐらいでしたから、人族の平均寿命的には二倍以上生きていますね」
「じゃあちょっと聞いてみよっか」
「なに? 姉ぇちん」
「ねぇ、最近死にたくなったりしない?」
「は……姉ぇちん、何言ってんの……」
「悩みがあったら聞くから、一人で抱え込まないで、私に相談するのよっ?」
「え? あ、はい……」
数十年後、ローズが輪廻に旅立つ前に彼女の同意のもと、記憶の加護を付与したルビーに、私は彼女の記憶の全てを記録した。
千年後、ローズが転生し十歳になった時、詳細を告げ、同意を得た場合にかぎり記憶を返す事にしたのだ。これでまた逢えるね。
いつも読んでくれてありがとうございます。女神になったキキョウであります。
数日後、久しぶりの女子会で、ラヴィちゃんから様々な情報を得たので、こっそり教えてあげるね。
なんと、ラヴィンティリスの上のフロアでは世界が東西に割れ戦争中らしいのよ。しかも文明レベルは、地球で言うと1900年代。しかも科法世界。
まさかとは思うけど、核兵器なんて作らないわよね。
そして、下のフロアは獣人九割のモフモフパラダイスらしいの。
上の世界とは関わりたくないけど、モッフモフな下の世界は行ってみたいなぁ。
なんかフラグ立った? フラグが立つのって絶対に悪い方よね。




