第102話 しらふじ覚醒
大粒の涙をポロポロとこぼすしらふじ。
五百十三の頭脳体は全部自分。確かにそうなのだろうけど、これまでのしらふじ達による姦しいおしゃべりを思い起こせば、そんな単純な関係ではないのだと理解できる。
『ほら泣くな』
『泣くんじゃない。ボク達の分身であり、可愛い我らが末妹よ』
『武器の神様のおかげで、復活したボク……』
『あれから永い永い時を生きたけれど……』
『途中で生み出した我らが末妹は、それはもう可愛くて』『愛しくて』
『随分と慰められたよ』『色々な意味で』
『ありがとうボクの妹』『ボク達の妹でしょ』
『お前はボク達の代表として、キキョウちゃんのもとで幸せになるんだよ』
『うわぁぁぁぁぁん』
とうとう我慢できなくなり、しらふじが声を出し泣きはじめた。
私も胸が一杯だ。我慢できず、涙がこぼれる。
最後に……死地へ向かう彼女達に何を伝えたらいいのだろう。
「ねぇ、私の可愛いしらふじ達。76話の武器の神様のメール内容覚えてる?」
『76話とかゆーな』
『覚えてるよ、ボク達に足りないもの。だよね』
『答えを知ってるならはっきり言えって、抗議メールしといた。返信はない』
『あのハゲ』『いつも自宅警備員みたいな格好してさ』
「あはは……私、ずっと考えてたんだけれど、結局分からなくて……だけど、私があなたに贈りたいものをひとつ思い付いたの」
「そでは…ぐずん、なび?」
「名前よ」
『え、名前ならもうあるよ?』
『まさかボク達に、花子とか君江とかジョセフィーヌとか名付けるの?』
「それも考えたけどね。そもそもしらふじって、何万隻もある戦艦としての名でしょ?」
『確かにそうだけど、今更別の名前で呼ばれるのもねぇ』
『こら、せっかくキキョウちゃんが名付けてくれるって言ってるんだぞっ!』
「私も今更しらふじ以外の名で呼ぼうとは思わないわ……だから」
『だから?』
「名前はそのままで、苗字をあげる事にしました」
「『苗字?』」
私は深呼吸して、彼女のフルネームを発表した。
右手を目のまえのしらふじへ、左手を戦艦のしらふじへ差し伸べ――
「あなたの名前は白藤、雪野白藤! 私の大切な家族だよ」
「『……ゆきの……しらふじ……家族』」
「『ボクは雪野白藤っ!!』」
しらふじ達がそろって名乗りを上げた。
ピキリ。
艦内に妙な音が響く。何かががひび割れたような音だ。
だが、音も気になるが、しらふじの様子がおかしい。まるで時が止まったように静止して動かない。だが突然、妖精戦艦へトランスフォームを開始した。
同時にバリバリと白い装甲表面が盛大に砕け散り、限りなく白に近い薄紫色の鱗のような装甲が露になってゆく。
「しらふじ、何が起きてるの?」
「『自分が何者なのか、どうあるべきか、何が出来るのか。今、思い出したよ』」
そう言うと、彼女の多肉植物のような髪が脱皮するかのように抜け落ち、紫色のサラサラヘアーが腰ほどまで伸びてゆく。そして花冠のような可憐な角が側頭部から前方へ、にゅわんと現れた。
名前を得た事で、蕾が開花するが如く、突然しらふじが変身したのだ。
同様に本体にも驚くような変化が始まっていた。まず顔面が花の蕾のように閉じると頭部から鱗が髪のように腰まで一気に生え、人っ子しらふじ同様、花冠のような角が生えてきた。更にゴスロリのボンネットハット状に鱗が伸びてゆく。
そして、奥から純白の前髪がショートボブ風に、ふわりと舞った。
元々大きな腕の爪は更に鋭利さを増し、膝下は海洋哺乳類のような流麗なヒレ型になり、背中のクラリオンドライブは体内へ取り込まれ、二つの胸が大きく膨らんでゆく。それに伴い妖精の翅は消滅し、代わりに生えた二対の龍翼には、一基ずつハイペリオンドライブが装備されていた。
全身の龍鱗は更に成長を続け、機械的な要素を飲み込むように覆ってゆく。
五基あったハイペリオン砲も、両手の平の二基以外は体内へ取り込まれ消えた。
大きな胸の膨らみの下、胴から下を覆う龍鱗はフレアスカートのように広がり、尻尾も長く太く、とても優美に成長してゆく。
最後に蕾の如く鱗で閉じられていた顔が花開き、薄紫色の肌と鼻先の通った、美しく妖精を想わせる顔立ちを披露してくれた。そして、鋭利な瞼をゆっくりと開き、黄金の瞳をギュルンと輝かせるのだった。
もはや妖精らしい要素は、完全に龍へと上書きされており、メカメカしさも各部のハイペリオンドライブと両手以外見受けられない。
まるでその姿は龍鱗で仕立てたドレスを纏う貴婦人のよう。
ただし、相変わらず両腕は巨大で迫力満点である。爪だけで二百メートルはあろう。
ちなみに私達のいるコアルームは、一番安全な腹部奥に鎮座している。
このとんでもない状況下でも、カイは茉莉花をぎゅっと抱き、じっとモニターに映る様子を見つめていた。
「ああすごい……ボク、ただの戦闘艦制御ユニットに過ぎない宙龍のクローンから、超位龍ルミナスゲイザードラゴンに覚醒したみたいだよ」
「え、戦闘空母じゃなくなったの?」
「『え……あ、あれっ? 元に……戻れない。もうずっとこのままみたい……』」
「マジか」
「『………………ま、いっか』」
「いいんだ……でもこれはもう実質、生まれ変わりだね。転生おめでとうっ!」
「『ありがと~っ!』」
『じゃあ、あれを倒すよ』『あれ、そろそろ動き出しそう』『やっちゃえ、ボク』
「やれるの?」
「うん、今のボクならきっと出来る」
「『龍魔法ドラゴカノーネを使うよ!!』」
自信満々な笑みを見せ、しらふじが両手を花のように咲かせながら腕を前に突き出すと、同時に本体も巨体とは思えぬ程、速く滑らかに同様のポーズを見せた。
それって龍王の魔法ではと思ったが、称号に龍王が無くとも、スキルの龍王を持っていれば問題ないようだ。
【個体名】シラフジ・ユキノ・ルミナスゲイザー(女)
【年 齢】50026歳(推定19歳固定中)誕生日11/29
【種 族】機械化宙龍族
【職 業】魔王キキョウの御座艦
【寸 法】身長1600m、尻尾の長さ700m、体重ナイショ
【動力炉】ハイペリオンドライブ×9、クラリオンドライブ×2
【推進機】ハイペリオンディスチャージャースラスター他
【武 装】ガトリング式ハイペリオン砲×2、ブラックホール砲
ケージ艦しらゆり、クラリオン砲(要整備)他
【スキル】龍王、龍魔法、亜空ケージ、超空間航行
【加 護】武器神の加護
【称 号】さらば宇宙戦艦ムスメ、宇宙龍の姫君
【備 考】健康のため、年に一度の海水浴か彗星浴を推奨します。
クラリオン砲に破壊された十基のブロックをパージしたプラネットイーターは、無事な二十二基のブロックで再び球体を形成した。真正面から見ると無傷だが、後ろ側はごっそり欠けている。そして残った外殻で三基と七基、二枚の大盾を形成してゆく。どうやら学習したようで、今度はシールドを二重に展開し、こちらへ向け侵攻を開始した。
迫りくる獲物を睨みつけるように金色の瞳が発光すると、後頭部、四翼、スカート両裾、両踵、合計九基のハイペリオンドライブが次々に光の粒子と光輪を発生させ、ツノと大きな二つの胸の膨らみも淡く発光しはじめた。
各部の輝きが最大レベルに達すると、手を伸ばした先へ巨大な魔法陣を幾重にも展開させてゆく。更にその周囲へ大小様々な形状の魔法陣を展開させ完成したそれは、クロ達の魔法陣をより巨大化させた、全長五十キロはあろう砲身型魔法陣である。
しらふじ後方に現れた魔力充填を示すゲージがどんどん点灯してゆく。
コアルーム内に様々な情報を示すウィンドがポップし、やがて魔力充填完了の表示が現れた。
「キキョウちゃん、発射の合図をよろしく!」
私はうなずくと、右拳を突き出し叫んだ。
「龍魔法ドラゴカノーネ発射っ!!」
「『発射ぁぁぁっ!!』」
砲身を構成する魔法陣がギュンギュン回転し、砲身内部に現れた漆黒の弾丸が回転しながら発射された。バリバリと紫電光を放つ弾丸は二重螺旋の航跡を描きながら、二枚の大盾をいとも容易く砕き、プラネットイーター中央へ巨大な穴を穿った。
その光景に私も、撃った当人も目を白黒させた。とてつもない威力である。
穿たれた穴の周囲から全体へ、紫の光を噴き出しながら猛烈な勢いでヒビが走ってゆく。ダメージの少ないブロックが逃れようと分離するが、時すでに遅し。周囲の爆発に巻き込まれてゆくのであった。
「やった……やったよ、ジュピタリア級をボクが倒したよ!」
「うん、すごかった。おめでとう、しらふじ」
「『やったぁぁぁぁっ!!』」
『うわああああああああっ』
「えっ、なに?」
突如、爆発するプラネットイーターの中から、崩壊しかけたブロックが飛び出し、地球へ向け加速したのだ。
同時にしらふじが悲鳴を上げた。
『地球へ向かった重巡はすぐ離脱しろぉっ! やられたぁぁぁっ!』
「あれって、まさか地球を!?」
『あいつ、負け確で地球を潰す嫌がらせに走ったんだよ』
「なっ……しらふじ、あれを破壊しないと」
「今のボクに、あの質量を止める力は……ない」
しらふじは極大魔法を放ったばかりで、ブラックホール砲は使用不能。それどころか、しばらくパワーダウンで動けないという。
仮に全艦隊で一斉砲撃しようと、破壊も軌道変更も不可能だという。なにせ相手は地球の三倍以上の質量があるのだ。それがあと一分で地球と激突する。
ほんの少し前まで、しらふじと地球を失い、凶悪な敵を残したまま、後ろ髪を引かれラヴィンティリスへ戻る選択肢しかなかった。それが今はしらふじが健在、プラネットイーターも倒せたのだから、最低最悪から脱した事を良しとすべきなのだろう。
せめて……地球と人類八十億の命。その全てが砕け散る様子をしっかりこの目に焼きつけよう。幸いな事に、僅かだが地球人類もさざんかに残っている。動植物もかなりの種類がエデンへと渡っている。ああ、家畜……郷魔国へ持ち帰りたかったなぁ。
などと思考が不謹慎な方向へ脱線しかけたその時――
私は目の前で起きた、超常なる光景に思考が完全停止した。
地球に激突する直前、超巨大な壁のような何かが、プラネットイーターをいとも容易く遮って止めたのだ。しかもぶつかったイーターは砕けもせず、時が止まったかのように静止している。
では遮った壁のような何か――あまりにも巨大すぎて、それが何なのか把握できず、私は見上げ、そして見下ろした。この感覚、ペンペラー様の時のようだわ。
「十字架?」
それは先端が矢じりのように尖った、巨大な、超巨大な十字架のように見えた。
クロスした中心にコアらしき球体が見えるが、それは明らかに地球よりも大きく、全長は地球と月の距離より長い、四十万キロもある十字架型の何かだった。
ハッとして周囲を見回すと、他にも四つの巨大十字架が地球と月を囲むように浮いているではないか。この光景……なんと表現したらよいのだろうか。
「しらふじ……これはいったい……」
「ななな、なんだろう……」
突然、姦しい声が宇宙に溢れた。
『あはははっ、おどろいたぁ!』『なんぞこれ』『すごいすごいヨ』『こんなちっこいのに、ジュピタリア倒したぁ』『この子、龍っぽいですけど何者かしら』
『あれれ、なんだろ姉妹艦識別コードに引っかかった』『形状は違うが、間違いなくしらふじ級ぞ』『すごいっ、あたし達のお姉ちゃん艦だネ』『スキャンするよぉ『すべて失われたはずの伝説の戦闘艦が、どうしてこんな辺境時空にいるのかしら』
『こちらもデータ共有するね。お姉さん』
「お姉さん……って事は、ボクの後継艦なの? うわ、データ量すごっ!」
『そじゃぞ、わちらはクラリアシリーズの25番艦。しらふじ級であるクラリア19終了、五百年後に生まれた妹艦ぞ』
『でもおどろいたヨ、こんな宇宙でプラネットイーター狩ってるんだもン』
『龍ベースのクラリア19が龍に覚醒って、仮説でしかなかったのにぃ』
『武器の神が関わっているようだわ。神の干渉案件に関わるの初めてね』
『その白いオウガ星人のお嬢さんが、お姉さんのオーナーさん?』
「えっと、しらふじの恋人のキキョウですよ」
『『キャーッ!』』
「みなさんは、しらふじの妹さん?」
『そだヨ、自分の宇宙を救ってからは、こうして全時空へ広まったプラネットイーターを駆逐する旅をしてるんだヨ』
『ねぇ、この宙域のジュピタリアの残骸もらっていいかな?』
「え、あ、どうぞどうぞ」
『『やったぁ~』』
「地球を助けてくれてありがとう。えーと、皆さんのお名前は?」
『超級要塞艦クロスメリア五姉妹の長女、アリアーネです』『次女、イレーネぞよ』『三女、ウィスラーだヨ』『四女、エリカだよぉ』『五女、オデオンですわ』
『間に合ってよかったわ』
十字架型超級要塞艦クロスメリア五姉妹は『美味美味』残骸を食べ終わると『またいつかどこかで逢おうね』そう言って、銀河の中心へ向け消えていった。
閑話
地球をジュピタリア級が襲う数時間前の事。
かごめかごめの如く、惑星エデンが超巨大十字架に囲まれていた。
『ねぇ見て、航跡反応があるから寄ったのに、もう残骸になってる』
『ほんとだの、ご丁寧に公転軌道に乗せておるぞ』
『この惑星にちょっと聞いてみようヨ』
『こんにちはぁ、この星の代表の人、いませんかぁ』
『突然申し訳ありません。少々お話を伺いたいのです』
「はっはいぃっ、私が惑星エデン最高評議会議長のエテルナシグマでございます!」
『驚かせてごめんなさいね』
『あのプラネットイーターは誰が破壊し、あの軌道へ移動させたのかのう』
「はい、異世界よりお越しになった、魔王キキョウ様としらふじ様でございます」
『しらふじ……ひょっとしてクラリア19かなぁ』
『今どこにいるか、わかりますぅ?』
『私達、しらふじの妹なのです』
「なんと妹君にございましたか……お二方はここから二万光年離れた、惑星地球に滞在しておられますよ」
『そちらのメインフレームにアクセスしますね。情報いただきました。ありがとう』
『騒がせてすまんの、では失礼する』
「いえいえ、おかまいもしませんで」
こうして五姉妹は地球へ向かうのであった。
「ヤバかったじゃん……この歳でオシッコ漏らすかと思ったじゃん」
「議長も、もういろいろ若くないですものね」
「私はまだ三十代じゃん!」
「超ギリギリですけどね。そういえば来月誕生日でしたね。おめでとうございます」
「チョップ!」
実は書き直しているうちに、作品タイトルと内容が違うという、とんでもない事になりました。「え、宇宙戦艦に戻れないの? マジか……タイトルに偽りありじゃん」と、書いてて素で焦りました。この先の第二部的な展開の事も踏まえ、作品タイトルをに変更する予定です。




