第101話 物語の主人公
突然、死を予感させる警報が艦内に鳴り響く。
口に運んだマカロンをポロリと落とし、顔を引きつらせるしらふじ。
この私、魔王キキョウが物語の主人公だったと仮定しよう。
そうだなぁ、タイトルは……
『ラヴィンティリスの白き魔王ですが、ユリハーレムに龍王や宇宙戦艦がいる件について語りますね』
私の物語、ラノベかよ。タイトル長いよ。
ジャンルが戦闘モノだったなら、龍王ファフニールが中ボス。あれが中ボスぅ?
そして、光の女神ラミーリュがラスボスだろうか。でも私は戦闘で勝利してないしなぁ。
最近、ふとそんな他愛のない事を考えてたのだけれど……
ではいったい……本当に物語だとしたら、この状況は何なのだろうか。
「ジュピタリア級プラネットイーターだ……」
突如、巨大なプラネットイーターが火星軌道付近に出現したのだ。
ワープではない。どうやらそれは時空転移により現れたらしい。
しらふじは、エデンのような事があればすぐ発見できるよう、太陽系監視衛星網を構築していた。太陽系クルーズが始まってからは、それを安全な運航の為に使用している。
そんな監視衛星の一つから届いた情報が警報と共にコアルームに映し出された。
それは惑星エデンを襲ったものよりもはるかに巨大で、無地のサッカーボールのような外観をしたプラネットイーターだった。しかもそれは、すぐそばの火星には目もくれず、はじめから狙っていたかのように地球へ向け移動を開始したのだ。
震えながら私に抱き着き、絞りだすような声でしらふじは言った。
「あれには敵わない。今すぐ大切な人達を連れてラヴィンティリスへ戻って」
尋常じゃない様子のしらふじ。私はその言葉に従うべきなのだろう。
「……しらふじはどうするの?」
「ボクは残って戦う。どうやらボクには逃げる選択肢がないんだ。そうプログラムされているのを今はっきりと自覚した。でも大丈夫、確実に撃沈さるけど、ボクは武器の神様の所有物だから……きっと元居た武器の宇宙に復活するよ」
「こんなに震えて、全然大丈夫そうには見えないよ……あれはそんなにヤバいのね」
「ボクのいた宇宙では、あのジュピタリア級の登場で戦局が急変、それまで最強無比だったしらふじ級はわずか百年程で建造終了になったんだよ。理由は……あれにまったく歯が立たないから」
「あのブラックホール砲を使っても?」
「うん。超次元重力シールドで無効化されちゃうんだ。戦闘特化型しらふじの大艦隊が蹴散らされた記録がボクのメモリーにあるよ。そして……ボクも姉妹もろともアレに撃沈され終わったんだよ」
私達のそばに映し出されのは、巨砲を搭載した数十隻のしらふじが次々に爆散してゆくショッキングな映像だった。震えるしらふじを私は抱きしめ返す。
「わかったわ。でも、戦闘になる前にしらふじごと逃げるわよ。でも転移できるのはノエルと念話がつながった時だけだから、たぶん半日先ね……」
「ボクごとって、まさかボク本体ごとラヴィンティリスへ転移する気なの?」
「おふこ~す。はじめっからそのつもりよ」
その言葉に目を丸くし、大笑いするしらふじ。
キキョウがラヴィンティリスへ帰れば、またモニター越しのお付き合いに戻る。
あと半年……最近はため息をつかない日はなかったのに……
しらふじは心が羽根のように軽くなるの感じながら、冷静に状況分析を開始した。
「敵の地球到達予想時間は、およそ十四時間後。夜逃げみたいになっちゃうね」
「そうね。ご縁のある人達を集めて、転移に備えましょう」
「クルーズ中のさざんかはどうする? 回収してラヴィンティリスへ連れていくか、エデンに向かわせるべきか。地球が滅んでも、二十七万の地球人は生き残れるよ」
「そうね……あれが残ってる以上、エデンも安全じゃないから、連れて――」
その時、再び警報が鳴り響いた。
「今度はなに?」
「ジュピタリア級がハイパードライブした! すぐここに、地球に来るよっ!!」
『到達までおよそ二分』
「なっ!!」
圧倒的に時間が足りない。しらふじが戦闘から逃げられないのなら、しらふじが敵の相手をしてるあいだに戦艦でキョウカ達を回収し、この宙域を離脱すればいいのだ。
しらふじを見捨てて? しらふじを見捨てるのか? この私がしらふじを?
「キキョウちゃん、重巡を出すから、みんなを乗せてエデンにでも逃げて。ほとぼりが冷めたら、この宙域に戻って転移するといいよ。ノエルちゃんの念話って、地球から離れると通じないし」
お嬢さんや、声がふるえているぞい。どうやら私と同じ事を考えていたようだ。
「うん、じゃぁ重巡をキョウカ達の元へ送ってちょうだい。私達はみんなを回収する時間稼ぎするわよ」
「ちょっ、キキョウちゃん、ここに残る気なの? カイくん達も乗ってるんだよ?」
「これからも私達はずっと一緒よ。だから抗いなさい。どれだけ敵が強大であろうと、負けて当然なんて思わないの。戦いなさい」
「キキョウちゃん……わかった。ボク、戦うよ」
『でも、負けが確定した時は、その末っ子ごと、キキョウちゃんを転送するからね』
「わかったわ」
周囲に展開した艦隊から、最も足の速い重巡洋艦を日本へ向かわせるのと同時に、地球からおよそ百万キロ離れた空間が砕け散り、プラネットイーターがドライブアウトした。
突如現れたそれは、太陽を遮り、瞬時に地球へ蝕をもたらした。地上の者達からすれば、突然夜に変わり、空を見上げれば宇宙に巨大な穴が開いているように見えているだろう。地球を飲み込む為に現れた巨大な穴だ。
そんな絶望的な光景の前で、啖呵を切るしらふじ。
「ボクが武器の神様のもとで、ただ無為に昼寝したり、悶々とオナニーばかりしてただけだと思うなよっ! クラリオン砲を亜空ケージより召喚!」
『ほんとその私、暇さえあればオナニーばかりしてたよね』
「全員でボクの感覚を共有してるんだから、全頭脳体同罪でしょっ!」
「そんなにしてたんだ……」
『あはははは、だよねー』
『ほら、クラリオン砲使うんでしょ。誰が説明するの?』
『ボクする』『えーボクでしょ』『ボクじゃなくてもいいよ』『……』
「もーボクでいいでしょ。コホン。クラリオン砲とは、武器の神にせがみ、駄々をこね一万年。ようやく取り寄せてもらった戦闘特化型しらふじの主武装、スーパーハイペリオン砲を日夜解析。クラリオン理論を応用し独自技術で発展させ、理論値でなんと百六十倍の攻撃力を達成したのだ!」
パチパチパチ。オーバーアクションで説明するしらふじ、マジ可愛いぃ~っ!
すると、音もなくしらふじ右舷より出現したのは、全長十キロメートルはあろう、超巨大な魔導銃型の物体であった。
細部は異なるし、トラスト状の内部構造体が丸見えの部分も多いが、私の愛用してるアサルトライフルモードの魔導銃とよく似ている。そんな巨大魔導銃上部へとドッキングしたしらふじは、まるで銃の光学照準器になったかのよう。
「え……でっかっ!」
「どう? すごいでしょう。理論上、一撃で地球クラスの鉱物惑星を消滅できるよ!」
「マジか……」
「まぁ、試射した事ないんだけれどね……」
『開発中の誤射事故で、神様の武器コレクションなぎ払っちゃって……』
『すごく叱られて試射禁止になった』『あれは仕方ないよね』『不慮の事故だね』
『そうそう、不可抗力』『往生際が悪いよ、あれはボク達のミス』
「……じゃあ、あれを倒して完成したかチェックしようか」
『「うんっ!」』『だね』
地球を背に背水の陣のような位置取りになっている為、戦闘で地球に被害が出ないよう、しらふじは敵から見て十時の位置へ移動しながら『クラリオンドライブ起動』人型に変形せず、艦のまま二対の妖精の翅を展開させ、クラリオン砲のエネルギーチャージを開始した。同時に艦隊の一部を牽制用にプラネットイーター側面へと移動を開始。
「ボク……この戦いが終ったら、キキョウちゃんと結婚するんだ」
「結婚はいいけど、このタイミングでそういうの言うな」
プラネットイーターが動き出した。
しらふじの高エネルギーを感知し、脅威と判断したのだろうか。とても分厚く巨大な六角形の外殻をいくつも分離させてゆく。恐ろしく巨大なのに、その動きは驚くほど速い。たちまち七つの外殻を合体させ、円状の巨大な一枚盾となって正面へ展開させた。
このジュピタリア級と呼ばれるプラネットイーターは、直径およそ十一万キロ。ほぼ木星と同サイズだ。外観は二十の正六面体と十二の正五面体で構成されており、まるで灰色のサッカーボールのように見える。
自在に動く二十基の正六面体が盾として本体への攻撃を防ぎ、同時にその質量をもって鈍器の如く敵を攻撃するのだ。その一撃は簡単に地球を砕くだろう。
そして残りの正五面体内部には、惑星エデンを襲ったものと同等の粉砕機が収まっている。この化け物が地球へ到達した時、人類の存在などおかまいなしに、地球をゴリゴリすり潰し、飲み込むであろう。
「うわー、すっごい盾だね」
「大丈夫、あの忌々しいシールドの存在は織り込み済み」
『クラリオン粒子充填120%、チャンバー内圧力臨界へ。クラリオン砲発射準備完了』
「どこを狙うの?」
「もちろん、どまんなかだよっ! あれを粉砕して、姉達へのたむけにするっ!」
「そっか。よし、撃てぇーっ!」
「『クラリオン砲発射ぁーっ!!』」
銃口の先に淡い紫の巨大光輪が三重に現れ、その中央から稲妻をまとったビームが発射され、宇宙を紫色に照らしてゆく。地球上からも一筋の光が見えているはずだ。ビームが巨大な盾へ直撃すると、一瞬表面空間を歪ませながら盾を貫き、後方のプラネットイーター本体をも一気に貫通してゆくのだった。
「やった……やったよ、キキョウちゃんっ!」
「うんっ、やったね。しらふじっ!」
中央を撃ち抜かれた盾は結合を解き、無事な六基の外殻を離脱させようとするが、全体を覆ってた超次元重力フィールド強制消失の余波で、全ての盾が中央へ吸い込まれるように消滅してしまった。
ビームが貫通し、誘爆を始めたイーター本体は、無事なブロックを分離させてゆく。ダメージは全体の三割程度だろうか。
『うわっ……とんでもない現象を観測できたよ。これはブラックホールの……』
『じゃあ、時間も稼げたし、キキョウちゃんと末っ子の私は退艦準備だよ』
「は? 何言ってるの。次の攻撃をしないと、ほら、あいつ隙だらけよ?」
「残念だけど、このクラリオン砲は一発しか撃てないんだよ」
「え、そうなの?」
『基幹部が融解しちゃってるんだ。せめてクリアメタルで建造できれば良かったんだけれど、開発当時は入手出来なくてね』
『エデンでゲットできたのは良かったけど、さすがに置き換え作業はしてなかったんだ』
『作業を頑張っても、百年ぐらい掛かっちゃうだろうしね』
『だからほら、二人とも退艦しよう』『ここはボクに任せて先に行け。なんてね』『あ、カイくん起きちゃったよ』『転送ゲートを地上に降りた重巡にセットしたよ』
「キキョウちゃん、行くよ」
「しらふじは、それでいいの?」
「いいも何も、どっちもボクだもん。一方が生き残ればいいんだよ」
「じゃあ……どうしてあなたは泣いてるの」




