第100話 時は流れた!
日本へ転移して三年が過ぎた。私も二十七歳だ。容姿は二十歳のままだけれどね。
今は実家から車で数分ほどの場所に建てた、結構すごい豪邸に引っ越し、みんな仲良く暮らしている。
ひいらぎは二月で五歳。うちのカイも二歳。灰色の髪と紫の瞳がミステリアスな美幼児だ。卵っ子の茉莉花は孵化する気配はないが、すくすくと卵のまま育っており、現在三十五センチ程。孵化までにどれ程の大きさになるのだろうか。以前は灰色っぽかったが今は完全な桃色をしている。
ラヴィンティリス帰還まで残り一年。今日はコンビニの光洋くんのお宅、森野家にお邪魔している。実は彼、まだご家族に異世界へ行く事を伝えていないのだ。
「そんで、お前はその銀髪のべっぴんさんと結婚したくて、二度と戻らん異世界へ行くと言うんだな?」
「そうだ。俺はシロと……シルヴィアと結婚したい!」
「お前、その魔王さんの言ってる嘘か本当か確認できん事信じて、家族捨てるんか」
「本当だって。俺は確認済みなんだよ」
以前、シロくんでなければ答えられない質問をする事で、光洋はシルヴィアがシロである事を確認している。
まぁ……お父さんは確認しようがないし、そう思われるのも当然だろう。
ご家族の承諾を得られないなら、ラヴィンティリス行きは無かった事にする。
そう、光洋と約束をしている。ご家族を捨てるような事をさせる気はないのだ。
「お父さん、お兄ちゃんを行かせてあげようよ」
「にーちゃんは本気だよ」
「あんた、光洋を行かせてあげなよ」
妹の双葉と弟の若葉は賛成のようだ。お母さんも渋々であるが承諾してくれた。
しかし、お父さんは頑なに首を縦に振ってくれない。すると――
「わしも光洋と一緒に異世界に行くでっ!」
半分ほど開いたふすまの向こうから、お婆ちゃんが叫んだ。
「ばぁちゃん?」
「本当かどうか、老い先短いわしが一緒に行って確認してやるで、だから光洋を行かせてやりぇ」
「かぁちゃん、何を言ってるんだ。光洋は長男なんだぞ」
「森野家ぇ継ぐなら若葉もおる」
「だが、コンビニはどうするんだ。光洋なしじゃ回らんぞ」
「馬鹿垂れっ、コンビニに光洋を縛るんでねぇ!」
「でもよぉ……」
「たけしぃっ!」
「はいぃぃぃっ!」
「快く送ってやりぇ。息子の晴れの門出だでなぁ」
「……はい」
「あと、わしん事もな」
「えぇぇ……」
どうやら森野家で一番の権力者は、このお婆ちゃんらしい。最近体調を崩して寝込みがちらしいので、セイクリッドヒールを掛けて、健康の加護のブレスレット付けてあげた。このおばあちゃん、かなりの魔力持ちだわ。魔力持ちのお年寄りに会うのは、こっちの世界では初めての事だ。
「魔王さんや、孫とわしをよろしゅう頼んます」
「はい、頼まれましたっ」
ご家族の承諾を得られたので、私が立て替えた結納金を通帳で渡した。
「ちょ…結納金って、夫の俺の方が払うんじゃ……」
「いいのいいの、シルヴィアはお金持ちだし。旅立つ日までにそれで必要な物を揃えておくのよ。異世界に婿入りなのだから遠慮してはダメ。それと残りはご家族にね」
「はい、ありが……へぇっ!?」
通帳に記載された額面を見て、光洋が素っ頓狂な声を上げた。
震える光洋に通帳を渡されると、両親も同様に固まるのであった。
さて、太陽系クルーズのおかげで、お土産予算は無尽蔵といえる程貯まってる。
現在はリストアップした品々を片っ端から注文している所だ。それらを皇都をはじめ、各地の集積所に集めている。いっぱいになる頃にしらふじの亜空ケージや私の魔法珠へぶち込んでゆき、味期限のあるものは納品次第すぐ魔法珠に収納している。
特に欲しかった足踏みミシンは、完動品を二十万、軽度故障品を十万で買い取り注文を出すと、すごい勢いで集まってくれた。ジャンクや手に入る限りの消耗品も集めてるので、これならメンテ後、各国にそこそこの数を配れそう。
異世界で第二の人生を歩んでおくれ。目標は一万台だ。
残念な事に電子ミシンのような機器は電源が確保できても、ラヴィンティリスでは動かないらしい。スマホや電卓、ゲーム機も当然ダメだ。残念無念。
機械式の腕時計なんかは問題ないので、国内メーカー品を中心に大量発注した。
他には着物や反物、様々な種類の布生地をこれでもかと注文。着物は家族や各国のお后様方へのお土産にする予定だ。ついでに姿見水晶で披露する為の超高級振袖のオーダーもしている。
衣服を持ち込む場合、ラヴィンティリスにも独自文化があるので、それを汚染しないように配慮するつもりだ。ノノは召喚勇者の服装を研究して洋服を作ってるけどね。
実は最近、様々な業界から不良在庫の山を買ってくれと連絡がくる。
もうね、誰がこれ着るんだよってレベルの微妙な衣類が段ボール箱みっちりで五百円とかなのよ。バラして生地やボタンをリサイクルするのはアリだと思うので、とりあえずアパレル関係は無条件で買い取ってる。他は要検討である。
あ、服で思い出した。ジャージ! あちらではノノの作ったファスナーなしのジャージを着ていたけれど、こちらでは本場の最新の品が手に入るのよね。
昔着ていたのは、キョウカが着潰していたので、近所のスポーツ用品店やアウトレットモールに出向いて、着心地の良さそうなジャージを購入した。
のだけれど……やはり淡い紫や菫色のジャージがどうしても欲しくて、好みのメーカーに直談判して百着程オーダーしたのが二年前。
それが発端となり、今では運動靴から帽子やバッグまでフル展開の魔王シリーズとして、店頭に並んでいたりする。キャッチコピーは「スポーツ大好きジャージ魔王!」だよ。
現在、私の商標で売られる品はいくつもあるので、これは氷山の一角。
そうそう、ジャージで重要な要素のファスナー。これを大量に持ち帰りたいので、同様に大量発注した。衣類用だけでなく財布やカバン用の物も可能な限り生産してもらう事になった。無理言ってゴメンね。あちらでファスナーを生産するのは難しいと思うので。
さて、国民へのお土産として、お菓子をいろいろ検討したけれど、やはり無難に板チョコとなった。それと缶入りドロップ。飴はあちらでも定番の菓子だけれど、味も豊富で精巧な缶入りなので、食べ終わった後も缶が残るのが選んだ決め手。早速メーカーに相談すると、缶やパッケージに私の絵を印刷してはどうかと提案され、迷わず即決した。これらを各三千万個発注済みだ。他にもお気に入りの菓子を数百万単位で発注している。
あと、我が家御用達のケーキ屋さんに頼んで、チーズケーキやガトーショコラなど、色々大量に注文している。これは個人的にね。
おっと、お土産について話し出すとマジでキリがないので、ほとんど割愛するけど、しらふじが自動車を持ち帰ろうって言い出したのには驚いた。
「いやいや、ガソリンどうするの。それに電子機器と同じで動かないんじゃない?」
「そこはエンジンと電装部品を外した状態で持ち帰って、ちょちょいと魔導モーターと制御系魔法陣を仕込めばいいと思うんだよ」
「えー」
「EVならぬMV、マジカルビークルだよ。魔力持ちがハンドルを握れば環境負荷の鬼みたいな電池も不要で、超エコだよぉ~っ」
「自分が機械いじりたいだけでしょ」
「えへへへ、文明レベルに関係なく、乗り物はロマンだよ」
「自転車やバイクは?」
「吝かではない」
「じゃあ、乗り物はしらふじが注文なさいね。あんまり迷惑かけちゃだめよ?」
「うんっ(ニヤリ)」
「戦車は一台までにしなさい」
「まだ何も言ってないんだけど」
そうだ、ユーラシア連邦の末路も伝えておこう。かの惨劇のひと月後。
独裁的指導者と政治の中枢を失ったユーラシア連邦が瓦解したのだ。
連邦を構成していた幾つもの州政府が独立を宣言。それを阻止しようと各地に配備されていた中央政府軍が動き、更には周辺諸国が侵攻。連邦内で弾圧されていた少数民族が武力蜂起し、独立の旗を掲げたのだ。まさにカオスのような状況である。
私はしらふじの艦隊を使い、メアリカ王国軍主導で紛争鎮圧に乗り出した。
巨大戦艦が空を覆っても戦闘をやめない勢力には、実際にビーム砲を味合わせたり、ドローンと電子戦で鎮圧しまくった。電子戦の通じない旧式兵器が多くて苦労したよ。
あれから二年近く経った現在も国土の分割を巡って、ごたごたが続いている。
元々小国の寄り合いだった南部と西部での混乱は少なかったが、連邦の中核を成していた広大で資源豊富なユーラシア国の領土の奪い合い、負債の押し付け合いで収拾が付かないのだ。
内戦終結後、メアリカは得られたはずの莫大な利益を真っ先に放棄し、早々に蚊帳の外に出てしまった。
実は最大の利益享受国はメアリカ王国だ。ドワイト国王はホクホク顔だもの。
日本は直接的には参戦してないが、新たな領土を得る権利を魔王より譲渡された。
国民は大盛り上がりだったが、芦田総理は「資源欲しさであの民族を皇国民に迎えたくない」直訳するとこんな内容をオブラートに包んでコメントし、辞退の意を示した。
これに対し、魔王のコメントは一言。
「だよねー」
いつも読んでくれて、ありがとうございます。(キキョウ)
よかった。このサブタイだから、異星人に侵略されてディストピアな世界になってたらどうしようかと思ったわ。
「キキョウちゃん、白鬼弐式に超パワーアップする装置付けたよ」
ほう……それはV-M●Xとかじゃないよね?
「なんでバレた! 大丈夫だよ。背中に装着するタイプだから、すぐ外せるし!」
それダメなやつじゃん!




