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ラヴィンティリスの白き魔王ですが、ユリハーレムに龍王や宇宙戦艦がいる件について語りますね。  作者: 烏葉星乃


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第1話 既に異世界転生してた

 

 ねぇシロくんよ。

 いくら流行りのラノベだといっても、不治の病で余命わずかな姉ぇちんのお見舞いに、異世界転生モノはどうかと思うよ?


 私が苦笑すると、三つ年下の可愛い弟が苦笑いしながら抱きついてた。大きく柔らかな私の膨らみに顔をうずめ甘えている。ふふふ、幸せそうな顔しおって。

 シロくんが私に対して姉以上の感情を抱いてる件は、誰も知らない知られちゃいけない、私達だけの超極秘事項ひみつだ。


 大晦日は私の誕生日。なんとか一時帰宅の許可が出たので、家族四人で年越しそばと誕生ケーキを食べて、紅白とカウントダウンコンサートを観て、元日を迎えるはずだったのに、直前に心肺停止をやらかしてしまい面会謝絶の寂しいお正月。


 そんな正月明け、シロくんが死んだ。


 病院に来る途中の自動車事故。

 私は両親と最愛の弟を、あまりにもあっけなく失った。


 成人までに死に至るという、近年増加中の原因不明の熱病に罹った私が、なんとか二十歳の誕生日を迎えたというのに……


 もう……生きる理由がない。


 シロくんの為、家族の為にも、一分でもいい、長く生きようと強く誓っていたけれど、生きる理由が無くなってしまった。自暴自棄状態だ。こんな事なら拒まず一線を越えておくのだった。


 生きる気力を失った私の病状は、一気に悪化した。

 きっと次に心臓が止まったら目を覚ます事はないだろう……主治医の奈良橋先生は、大丈夫だ、自分がそばにいると励ましてくれるけど、私にはわかる。


 ふと――転生ラノベのタイトルに目が行く。


「シロくん、いまごろ異世界に転生したかな……私も死んだら異世界転生できるかなぁ」


『いや、お前もう異世界転生してるだろ』


 突然の声に私はベッドから飛び起き――れず、溶けた鉛のように熱く重い体をよじり、ゆっくり病室内を見回した。誰も居ない。確かに女性の声がしたが……


「……幻聴?」


『幻聴じゃねぇ、念話だ』


 鋭いツッコミの如く返答された。念話?


『やっと繋がったぁ。うわークロのこんな顔初めて見たぞ。ちょっ離れろって。デコ押し付けても向こうの声なんて聞こえねぇからよ。あああっ、そこはやめてぇっ!』


 クロって誰。というかあなたが誰よ。男みたいな口調だけど明らかに女性よね。


「えぇ~と、念話というとテレパシー的なあれかな。チャネリング? 勇者だけが聞こえる女神さまの声的な……ひょっとしてあなたは女神で、私は勇者?」

『いやいやいや。勇者は俺で、お前が魔王だから!』

「私が魔王って……何言ってるの? やっぱり幻聴か夢かな」

『……その様子だと、前世の記憶の継承はしてないんだな』

「この声……おでこの奥から響いてるみたい。これって現実? 悲しさと病気でおかしくなったのかと思ったわ。それであなたは誰?」


 現実離れした異常事態が発生してるようだけど……私、思いのほか冷静ね。

 死が近いせいだろう。


『理解が早くてありがたい。とりあえず俺の話を聞いてくれ。俺はキョウカ、前世のお前の子孫だ』


「私は桔梗。雪野桔梗」


 私が名を告げるなり、いきなり大笑いするキョウカ。

 何故かは知らないけど笑ってないで、その話とやらを聞かせなさいよ……長々と笑い声を聞かされながら、私は天井に向かってむくれ顔を作った。


「むぅ」

『すまんすまん。だってお前、前世と同じ名前なんだもん。驚いたよ。クロもすげー驚いてる』


「いいから、さっさと話す」『はい……』


 キョウカの話は、愚痴が大半だったが、まとめると概ねこんな感じ。


 私の前世は、異世界ラヴィンティリスにある“郷魔国”の初代魔王。享年六百歳。

 蝶の翅のような四つの大陸で構成されたラヴィンティリスは、剣と魔法とドラゴンの世界。その世界の魂は、死後千年経つと転生すると言われている。しかし、なぜか私は別の世界に転生してしまったようだ。前世の私の血を色濃く受け継いだ子孫のキョウカだからこそ、私を発見できたのだろうと思われる。


 現在、その郷魔国の五代目魔王がキョウカで、実は勇者。しかも女だけれど、美人過ぎて求婚がうるさいので男に化けているそうだ。それでその口調か。

 この国の魔王城の玉座、それは地下に狂乱した龍王バハムートを封印する為の要。結界維持に命を吸われ短命に終わるせいで、即位したがる魔王など何処にもおらず、仕方なくキョウカが座っているという。ただし既に龍王は絶命し、命を吸われる危険はないそうだ。


 つまり前世で初代魔王だった私は、龍王の封印維持の為に、命を捧げたのね。

 というか、魔王の子孫に勇者とかありなの?


 そして今、ラヴィンティリスは新たな龍王のせいで危機に瀕しており、それを最小の被害で止められるのは、なんとこの私なのだという。おそらくキョウカでも可能だろうが、比べ物にならない被害が出るはずだと、彼女は力なく告げた。


『ご先祖様。キキョウ様。助けてくれ。私もう無理ぃ~! もうアレを止められる方法はないのよぉっ! いや、ない事もないんだけど無理ぃ~っ!』


 ないのかよ。あるのかよ。なんか女の子っぽい地の部分が出ててかわいい。


「助けるも何も、私って不治の病で余命わずかよ。下手したら突然心臓止まって、今日か明日にも人生終了よ」

『はぁぁぁっ!? マジかっ!!』

「そもそもどうやって異世界に行くの……ああ、異世界召喚?」

『記憶はなくても、そういう知識はあるんだな。だがそんな状態じゃ召喚魔術師達を集める時間がねぇし、病体じゃ召喚に耐えられねぇはずだ……』


 キョウカが黙り込んで数分が経った。

 なんだろう、慣れてたはずの静けさが妙に寂しい。


『よし……今から俺の持つ、ご都合主義みたいなスキルで特殊召喚するぞ。お前を救うには、もうこれしかねぇ』

「ふぇ……できるの?」

『ただし、召喚するのはお前の魂だ。お前は俺の体に入れ。俺はお前の体に入る』

「なにそれ。それが本当に可能だとしても、私の体はボロボロなのよ? すぐ死んじゃうわよ?」

『多分問題ない。俺の持つスキルなら、その状態から回復できるからな』

「……嘘じゃ、ないのよね?」

『ああ、大丈夫。自己犠牲なんて俺に似合わねぇし。それより、お前に謝っておきたい』

「謝る? 私を助けてくれるのに?」


『郷魔国の魔王として俺が……私がなすべき事をあなたに丸投げする事。本当にごめんなさい』


「いいよ、そのぐらい。命の恩人の頼みだし、そこは私の国なんでしょう?」


『うん、ありがとう。キキョウに心からの感謝を』


 病の熱ではない、じんわりと暖かいものが胸からあふれ出た。


『じゃあ最後に、私の体に入ると目の前に四人の男女がいるわ。そいつらは私が最も信用している家族同然の奴らだから、国の事も、生活の事も、全て任せておけば問題ないわ。私も丸投げしてたから大丈夫よ。それと傍らにいるクロは、千年もの間、キキョウの転生をずっと待っていた健気な娘だから優しくしてあげてね。クロはあなたのモノだから、結構ヤバい奴だけど上手く手綱を握るのよ?』


 クロ……クロ……誰だっけ……なにやら懐かしい名だわ。


『千年前、逃げ出してもいいのに、あなたは命をすり減らしながら世界を守り、輪廻へ旅立った。だから今世は好き勝手に生きなさい。自分の望むまま自由に楽しく生きるのよ。なんなら世界征服でもするといいわ。じゃあね。ご先祖様っ!』


 キョウカに声を掛けようとした次の瞬間、暖かく眩い光に包まれるような感覚と同時に、私はふわりと宙に浮いていた。


 かっ軽い――溶けた鉛みたいだった体がまるで羽根のよう……

 今の私って……魂?


 目の前には見慣れた天井が迫る。自分の体を確認しようと振り返ると、私の名を叫びながら必死に心肺蘇生を行う先生達の姿があった。


 もう声は届かないけど、彼らに心の底から感謝を込めて叫んだ。

 やがて私の魂は、いつか観た映画の幽霊みたいに病院の天井も屋上もすり抜け、青々と澄み渡る冬の空へと上昇してゆく。そして青がどんどん濃くなり、星が瞬きを見せる頃、正面に燃えるような真紅の髪をなびかせる私そっくりな娘が現れた。

 キョウカだ。交差しながら私達は笑みを交わした。


 一瞬、延々とそびえる巨大な塔を見た気がした。

 その刹那、懐かしい匂いのする大地の広がる大空へと投げ出されていた。

 今の私は魂のはずなのに、心地よい風を感じながら落下してゆく。

 落ちてゆく先に、美しく放射状に広がる都市と、その中心に八芒星のように見える構造物が見えてきた……あれが城だろうか。

 この世界の記憶など無いはずなのに、不思議な懐かしさを覚え、胸が高鳴る。


 あ……吸い込まれてゆく。


 ふわりと綿毛の海に身を委ねるような……そんな心地よさを全身に感じながら、私の異世界転移は無事完了するのだった。


 鼻で大きく息を吸って、口から吐く。この匂いを私は知ってる……

 両手で肘掛けの感触を確かめながら、ゆっくりとまぶたを上げると、跪く四人の男女が驚きの表情で私を迎えてくれ――


「むぐっ?」


 姿勢を正し、彼らに挨拶をしようとした瞬間、ほのかな甘い香りと共に唇をふさがれた。


「んっんんっ(私、女の子にキスされてる?)」


 少女は混乱する私などお構いなしに何度も何度も唇を吸い、情け容赦なく舌をねじ込んできた。知らない相手、しかも同性に無理矢理キスされてるというのに(んぶっ)不思議と不快さは無い。ああ、何て柔らかな唇……最初は流石に驚いたけれど(レロレロ)次第に冷静さを取り戻した私は、少女の求めるがまま舌を受け入れた。甘くわずかに酸味のある少女特有の香り漂う中、舌を吸われながら、この少女がクロなのだと思い至る。

 まさかいきなりディープキスでお出迎えされるとは……しかもめっちゃ上手っ。


「キキョウ様、我らしばし退席しますゆえ、また後ほど。ヒッヒッヒッ」


 気を効かせ、部屋から出てゆく濃ゆそうな面々に向け、手をひらひらさせ見送った。


 クロの華奢な腰に腕を回し、膝上に跨らせ、対面座位でキスを続けた。

 ふふふ……私って高二からずっと入院生活してたけれど、実はキスの達人なのだよ。

 あの病院、眠ってる私にキスしてくる者共のなんと多き事よ。

 シロ君に先生に大親友、あと看護師のお姉さんと知らないおじさんまで。

 くっくっくっ、大半が狸寝入りだった事を誰も知るまいて。


 故にそろそろ反撃を試みようか――と、私も彼女の舌を強く吸った。


 どれだけ時間が過ぎただろうか。

 やっと満足したのか、その柔らかな唇が私を開放すると、クロは私にぎゅっとしがみ付き、小さな肩を震わせる。私は彼女の黒く艶やかな猫っ毛頭を優しく撫であげ、ぎゅっと抱きしめ返した。



 閑話


「子供の頃見た母そのままでしたから、さすがに驚きましたよ」

「じゃなぁ、ヒッヒッヒッ」

「それで、僕達……いつまで廊下で待ってるんですか?」

「そうじゃなぁ、マリー茶ぁ、あと饅頭」

「ハイベル様、どうぞ」


 ずずず~もぐもぐもぐ……


「で、どうするんです? そろそろ一時間ですよ。僕、今日まだ仕事あるんですが」

「マリー茶ぁ」

「はい」

「そもそも母とクロ様って、ああいう関係でしたか?」

「さてと………」

「いよいよ行くんですね?」

「ヒッヒッヒッ、便所!」

「あ、私も行きます」

「僕も……」


 はじめまして、烏葉星乃と申します。

 読んでくださいました皆さま、誠にありがとうございます。

 ときおり、補足などで末尾にコメントが入る事があるですよ。

 それとタグにスペースオペラとありますが、そういう物語進行はずいぶん先になります。過去作、宇宙戦艦白雪を大幅に修正したので、よろしければそちらも読んでいただければと思います。

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