5-2 やまと嘘つき(前編)
名取が出て行ったロッカールームでは、僕を含む男子たちが呆然としたままとり残された。他の連中はヒソヒソと話しながら、掃除を再開した。
いつの間にか違う曲になっている。
昨日インタビューされたアイドルの所属しているグループのものだ。
ロッカールームの奥から騒ぎを見ていた古屋がやってきた。
「遼…」
声を落として静かな声で僕らに話しかけた。
「大和…、どうしたの?なんかあった?」
「そうなんだ、田中のロッカーから雨宮の体操服が入った袋が出てきてさ」
「アイツ叫び出して」
「紗奈が入ってきて大和が犯人だって…」
さっきまで名取の勢いにタジタジになっていた男子たちがベラベラと古屋に状況を説明を始めた。
「マジか、アイツ、キャパオーバーすると、爆発するからな。じゃあ、俺が先生に報告してくるよ」
古屋はあまりパッとしないくせにこういうところはなんとなく頼もしく思えた。
もっとも、友達の危機に何もできなかった僕は言えたことではないが。
「あ、あのさ…」
僕はようやくのことで、声を絞り出して古屋に話しかけた。
「あの体操服…。実は、俺と大和が見つけたんだよ」
「え…?」
古屋と男子たちの目が見開かれるのがわかった。
「じゃあ、なんで、大和のロッカーに?」
古屋が聞き返してくる。
「体操服、無くなったって噂になった日、あったじゃん。あの日に俺ら、というか大和が、名取に犯人扱いされてさ…」
「ああ、確かにそんなこと言われてたかもな。そのあともことあるごとに大和のこと犯人だって言ってたから」
男子たちも顔を見合わせてうなずく。
「それで、腹立つから、俺らで探そうぜってことになって、探しに行ったんだよ。まず、校内探して無くって…」
僕はあの日のことを思い出しながら話した。
雨上がりの蒸し暑い、植物園のような甲府盆地。傘を振りながら歩いた線路沿いの農道。
「雨も上がってたし、帰り道も探しながらさ。身延線の線路脇のところで、大和があっちの方が怪しいっていって、見てみたわけ。そしたら、側溝の中に泥だらけのアレが落ちてたんだ。デイリーの向こうにある農家の物置の横に…」
見つけた後の、大和の嬉しそうなドヤ顔。口髭のような泥のあと。記憶に残していきたいと言って写真を撮る大和。薄暮の中、通り過ぎていく電車。あの日のことが頭の中に次々と浮かんで消える。
「まじで…?」
「ああ、それでさ。見つけたはいいけど、どうしようかって話になって、こっそり雨宮に返そうよって。だけどそのタイミングがなくてさ。そしたら、大和が、アイツが預かっておくよって言って渡したんだ。そのまま…」
古屋が目をつぶって腕を組みながら聞いている。
片方の眉を上げて口を開いた。
「なるほど…。犯人探そうって言ってたら、体操服を見つけたわけだ。じゃあ、大和はなんで犯人じゃなくて、体操服を見つけようとしたし、体操服の落ちてる場所がわかったんだ?」
「それはさ…。体操服見つけたらあいつ犯人わかるって言っててさ。にお…」
そこで、はっと僕は気づいた。においでわかるなんてことあるわけないじゃないか。
それに匂いの能力は僕らだけのトップシークレットなんだから。だれも信じてくれるはずがない。
「にお?」
古屋が片方の眉を上げて僕の顔を見た。
「いや、なんでもない。とにかく、体操服見つけたら、犯人の手掛かりになるんじゃないかって言ってさ」
「でもさ、アイツ、ほんとになんでそんなとこに落ちてるって知ってたんだよ。普通ならあんなところ誰も通らないじゃん。通学路でもないし」
男子の一人が口を挟む。
「だよな、アイツが場所知ってたってことは…」
「とったのも、大和なんじゃね?」
「だよなー」
口々に好き勝手な推理をしていく。
「でも、それだけで決めつけるのも良くないよな。遼、ありがとう。俺、先生に報告してくるわ」
古屋は僕の肩にポンと手をおいてから、ロッカールームを出て行った。
その手の温度がやけにやさしく感じて、反対に胸が苦しくなった。
僕の頬に、伝い落ちるものがあることに気づいた。
知らないうちに、涙が溢れていた。




