1−2 教室の宇宙人
県大会で優勝した翌日、いつも通り登校すると、クラスメイトたちが、僕の周りを取り囲んだ。
「三笠!すげーな!」
「遼が新聞に載ってたぞ!」
口々に僕を褒めそやした。
僕はいつもの調子で
「いやーやっちゃったわ」
「このまま、いけるところまで行っちゃうかも」
とか調子のいいことを言って、その場を切り抜けたりしていた。
すると、誰かが言った。
「やっぱり、三笠は宇宙人なんだろ?」
出たよ、そのネタ。
「んーーー、実は、そうなんだよねー」
なんて適当に合わせて、笑いを取っておいた。
授業が始まると、それはそれで、いつも通りの日常に戻った。
午後の眠くなる授業をなんとかやり過ごし、いつものように陸上部の練習。
昨日の疲れが少し残っていたけれど、それでも練習は無事に終わった。
部活が終わった後、ふと気づく。英語の宿題のプリントを教室の机の中に忘れていたのだった。
傾きかけた日が差し込んで、少し影が伸びた教室。僕は自分の机を探し、目的のプリントを手に取った。
——そのときだった。
窓際に立っている一人の生徒が視界に入った。
もうすでに夕方に差しかかろうとしているのに頭の後ろに寝ぐせを残している。チビではあるのに誰かのお下がりなのか丈が合っていないくたびれた制服。高三の割にはあどけなさを残した表情。
あまり、クラスでもかかわったこともなく、印象もないヤツ、田中大和だった。
僕の姿を認めると、まるで待っていたかのように表情を緩めて、話しかけてきた。
「遼、お疲れー。」
僕は一瞬、面食らったが、何気ない顔をして答えた。
「お、おう。お疲れ」
大和は小学校、中学校と同じ学校で、何回か同じクラスになったことはあったけど、特段関わることもなく、話といっても数回しかしたことがなかったからだ。
傾きかけた陽の光は、大和の平べったい顔を照らし出した。中央の団子鼻の周りにだけにしか陰影をとどめていない。
「遼ってさ、やっぱり———宇宙人なんだよね?」
「あ、ああ、そうだよ。」
突然の大和問いかけに、僕は面食らった。
だけど、いつもの癖で肯定してしまったのだ。
大和の顔は、ぱあっと明るくなった。
「そうだよね。そうだと思ってたんだ。」
——なんてな!
いつもなら、そう言って宇宙人ネタは終わっていたんだ。なぜかそのときはただ愛想笑いを浮かべてしまった。
「僕も、宇宙人だからさ。ずっとそうじゃないかと思ってたんだ。」
——何を言ってるんだコイツ。
夕陽に照らされたせいか、一瞬大和の顔が輝いたように見えた。
「遼の星を当ててみるね。——うーんと」
本当に嬉しそうに考え込む大和を見て、僕はドン引きしながらも何も言えなかった。
「わかった、イプコム星だ!ね、そうでしょ?」
「そ、そうだよ……」
——これはますますやばい。大和もやばいことには変わりないが、つられて答えてしまう自分もやばい。
「ほらー、やっぱり。あの能力。やっぱりな。あと、匂いもそうだと思ってたんだ。あ、ちなみに僕は隣の星雲のタルサス星人なんだ。」
にこにこしながら大和がドヤ顔で答える。
「隣の星雲どうし、よろしくね。」
——これ以上、付き合ったらやばい。
「ああ、よろしくな。」
僕は、机から取り出した英語のプリントをグシャっとリュックに詰め込んで、その場から立ち去ろうとした。大和が僕の背中に声をかけた。
「今日のスタート…。ちょっと、バランス悪かったね。」
心臓がどくんと波打った。
今日の練習で感じた違和感、誰にも言っていない。外から見てわかるはずもない、自分だけが気づいた感覚。実際、誰にも指摘されなかったし、僕だって昨日の大会の疲れぐらいにしか思っていなかった。
振り返って、大和の顔を見ると少し心配そうな顔になっていた。
「右、膝でしょ。ちょっと熱を持っている匂いがするから。」
——まじか。
心の中でつぶやいた僕は、少しひきつった笑顔になって大和に答えた。なんでそんなこと言ってしまったんだろう。
「お、さすが!なんとか星人。匂いには敏感だな。」
大和の顔が再び明るく輝いた。
「そうなんだよね。タルサス星人は地球人の1000倍の嗅覚あるから。イプコム星人は回復力も早いから、少し休めば、きっと遼も大丈夫だよ」
「だよな。心配してくれてありがとうな。じゃあ、また」
僕はひきつった笑顔のまま大和に手を振ったあと、逃げ出すように足早に教室の出口へ向かった。
僕の背中に大和の声が追いかけてきた。
「じゃあね。地球人時間でまた明日!」
多分、夕陽に照らされた大和の顔は、今まで見たことのないぐらい明るく輝いていたに違いない。
お読みくださってありがとうございます。
感想とブックマークをいただけると励みになります!




