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3-5 灰色の夢(前編)

 翌朝には雨宮の体操服が入った巾着袋は、乾いて灰色になっていた。こっそり雨宮の机に戻しておこうと思って、大和には「任せとけ」とか言ってはみた。けれど、朝練が終わって教室にもどった時には、人が多くなっていて、無理だと悟った。


 大和に「どうだった」と聞かれて「無理だったわ」と答えた。


「そうだよね」と大和もうなずく。

「ロッカーで預かっておくよ。隙を見て返しておくから」

「匂い嗅ぐなよ」

「へへ、嗅がないよ」


 はにかみながら言う大和に、灰色の巾着袋を渡した。

 正直、この時点で巾着袋はただの厄介なものでしかった。

 僕は、自分の中ですでに興味がなくなってしまっていることに気づいた。

 —-たぶん見つけた時点で“事件“は終わっていたのだ。


 碧陽祭も数日後に迫り、準備も本格的になってきた。放課後はみんなでお化け屋敷の内装やオブジェを作る段階に入っていた。


「遼のイラストのやつ、採用な。」

 クラス実行委員の古屋が僕に言った。


「え?あれ?宇宙人じゃんとか馬鹿にされたやつ?」

「そう!はじめはおかしいかと思ったけどさ。でも考えてみたら、お化け屋敷だと思って入ったら宇宙人がいたら、ビビるじゃん。やっぱ、遼って天才的だよな」


 古屋は小中高と一緒の学校の幼馴染みだ。男子バレー部で180センチもあるけど、それほどパッとしない。背が高いから女子にモテるというわけでもないけど、いいヤツで、昔から仲はよかった。先日のインハイ予選は一回戦で敗退したようだ。僕だったら、それだけ身長があれば、大活躍できるだろう。


「グレイ風のお化け役は…」


 クラスを見渡した古屋は、端っこで窓に暗幕をガムテープで貼っていた大和に目をとめた。


「おっ、大和。お前、この、グレイ風のお化けな。」

 大和は突然の大役の抜擢になんのことかわからずきょとんとしている。


「え、僕?」

「そうだよ。だってお前、昔から地底人とか未来人とか、わけわかんないことばっか言ってたじゃん。」


 古屋は大和の肩を叩きながら言った。クラスのあちこちから、くすくすと笑い声が起きた。


「まあ、そういや、そうだったね。僕ぐらいの体型は、グレイにぴったりかな。」

 大和はおどけるように、その小さな体をクネクネと動かしてみせた。

 それを見ていたクラスは、再び笑い声に包まれた。


 その輪の中で、なぜか僕だけが、笑うことができなかった。

 ——胸の奥で、ざわりと何かが波立った。


 碧陽祭が始まった。幸いなことに梅雨の晴れ間で、二日間晴天に恵まれた。たくさんの地域の人たちがやってきて校内には活気があふれていた。夏の訪れを告げるような太陽に焼かれてみんなの笑顔も弾けるようだった。


 僕たちのお化け屋敷といえば、思った以上に人気だった。真っ暗な教室内の迷路の中で、さまざまな仕掛けやお化けによって、来場者は悲鳴や笑い声をあげていた。中でも大和の血まみれグレイが光の中から現れて、お客さんを拉致しようとする演出は、好評だった。僕はグレイを乗せた台車を押してお客さんを出口へと追いやる役だ。


「なんで、最後宇宙人やねん。」

「血だらけの宇宙人ってお化けじゃないじゃん」

「宇宙人、リアルすぎ」

「グレイの血も赤いんだな」


 お客さんには散々怖がらせた後に、オチをつけたのがウケたようだ。口々に宇宙人に対するツッコミをいれつつも、恐怖というより最後に笑顔で帰っていただくことができている。


 グレイのお面をつけた大和の表情はわからない。あんなに宇宙人への偏見だなんだといってたくせに、まんざらでもないようで、結構ノリノリで楽しんでいる。163センチで、筋肉もほとんどない大和が、通学用ヘルメットをかぶり、その上からラメの入った銀色の全身タイツを着ている。クネクネと動かす体が本当に気持ちが悪い。その姿は、頭がデカくてちんちくりんのグレイ型の宇宙人にしか見えない。

 ——ほんとうは、タルサス星人なんだけど。


「マジで田中大和、キモいんだけど。ねえ春風、ちょっと、先いかないで」

「う、うん。キモいー」

 雨宮春風と名取紗奈がグレイ大和に、追い立てられて笑いながら逃げていく。僕らと同じクラスの紗奈は内容を知っているくせに、雨宮が来たら、受付は他の子に頼んで一緒にお化け屋敷にはいっていたのだ。

 ちらりと振り返った雨宮と台車を押す僕の目があったような気がした。二人は手を繋ぎながら、光が溢れる教室の外へ出ていった。雨宮のショートボブが肩のあたりでふわりと揺れた。その一瞬はきらきらとスローモーションのように僕の目に映った。笑い声も、光も、少し遠くに離れていくように感じられた。


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