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3-5 タルサス星人は鼻をつかう(後編)

 湿気を含んだ南風が僕らの頬を撫でた。

 雨上がりの土の匂いがした。


 僕は泥だらけの巾着袋を受け取ると、中に入っているものを確認した。巾着袋には、やはり体操服が入っていた。

 大和は現場検証中と言わんばかりに、側溝や巾着袋、それを受け取った僕の写真をスマホで撮っている。

 仲が良くなってから気づいたのだけど、大和は何かにつけてスマホで写真を撮る。


「何それ、現場検証?」


 僕は冗談めかして言った。

 大和は真面目な顔をして答えた。


「僕、写真好きなんだ。撮ったときの、匂い、光、風……。そのときのことを思い出せるじゃん」

「へえ、インスタとかにあげてんのかと思った」


 大和は、キョロキョロと周りを見回してから、声を落として僕に言った。


「実は、タルサス星の本部に、地球の情報を送る使命があるんだ」

「やっべ、地球、侵略しようとしてるじゃん」


 突然の“宇宙人ごっこ“にも、もうすっかり慣れっこになっている。


 大和は僕の手から巾着袋を受け取ると、中に入っている体操服を取り出して顔に近づけた。

 僕はそれを見て、思わずその手を掴んだ。


「え?やめろよ」

「え?なんで?雨宮のものかわかんないじゃん。あと犯人の匂いも追跡しないと」

「いや、いや、体操服の匂いを嗅ぐのはちょっと、やばくね?変態的というか」


 大和は一瞬だけ考えるような顔をして、真顔で言った。


「まあ、確かに泥の匂いが強すぎて、犯人の匂いはわからないか」

「そ、そうだよ。やめときな」

「だよね。でも、雨宮のだってことはわかったよ。汗と砂と、服の洗剤の匂い。この前の匂いと一緒」


 僕の頭の中に、少し陽が傾いているグラウンドで、日に灼けた雨宮が踏み切り板を蹴って跳ぶ姿が思い浮かんだ。


「お前、マジで。俺の前だけにしといたほうがいいぞ。。。」

「へへへ」


 大和は体操服を巾着袋に戻しながら、少し照れくさそうに笑った。

「でも、これ本人のとこに持っていったら、名取には完全に俺らが犯人だと思われるよな……」

「……あ、そっか。名取さんに僕、疑われてたし。でも、匂い辿っていったらわかったって言えば信じてもらえるかも。」

「そんなわけないだろ。だいたい、大和の宇宙人的というか、変態的な匂いの能力なんて信じてもらえるわけないじゃん。そっちのほうがドン引かれるよ」

「だよね…」


 大和は少しがっかりしたように肩を落とした。


「しょうがない。明日の朝、こっそり戻すか」

「うん、そうしよう」

 僕らは顔を見合わせた。明日の朝の計画を練りながら線路沿いの道をもどっていった。


 僕らの声は、薄暗くなり始めた水田の上を風に乗って消えていく。遠くで、踏切の音が鳴りはじめていた。

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