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IT創世記~開拓者たちの足跡~  作者: かつを
第1部:シリコンの創世編 ~機械の誕生と魂の萌芽~
6/14

最後のパンチカード 第6話:歴史からの抹消

作者のかつをです。

第6話です。今回は、読んでいて少し悔しい気持ちになるかもしれません。

 

偉大な功績をあげながらも、時代の偏見によって、その存在を正当に評価されなかった彼女たちの現実を描きました。

しかし、これもまた、紛れもない歴史の一幕です。

1946年2月15日。

戦争は終わり、世界は新たな時代を迎えようとしていた。

 

ペンシルベニア大学には、多くの報道陣が集まっていた。

陸軍の肝いりで開発された、夢の計算機「ENIAC」が、ついに一般に公開される日だ。

 

部屋の中央には、磨き上げられたENIACが、その威容を誇示するように鎮座している。

フラッシュが、眩しく焚かれた。

 

壇上には、ENIACの開発責任者であるジョン・モークリーとプレスパー・エッカート、そして陸軍の高官たちが、誇らしげな顔で並んでいた。

 

「このENIACは、人類の知性を新たな段階へと引き上げる、偉大な発明であります!」

 

賞賛の言葉が、次々と並べられていく。

モークリーとエッカートは、時代の寵児として、記者からの質問に答えていた。

 

その華やかな光景を、部屋の片隅から、六人の女性たちが見つめていた。

カイ、ベティ、フランシス、マーリン、ルース、そしてもう一人のベティ。

 

彼女たちは、この日のために、綺麗なドレスを着るように指示されていた。

しかし、壇上に彼女たちの席はなかった。

 

デモンストレーションが始まると、彼女たちはENIACの前に立つように言われた。

報道陣の一人が、近くにいた士官に尋ねる。

 

「彼女たちは?」

 

士官は、にこやかに答えた。

 

「ああ、彼女たちは“冷蔵庫ガール”さ。機械の前に立たせると、見栄えが良くなるだろう?」

 

冷蔵庫ガール――当時の広告で、新製品の冷蔵庫の横に立たされるモデルたちのことだ。

 

その言葉は、彼女たちの胸に、冷たい刃物のように突き刺さった。

 

自分たちは、飾りじゃない。

この機械に、魂を吹き込んだのは、私たちなのに。

この巨大な鉄の塊に、思考の配線を繋ぎ、知性を与えたのは、私たちなのに。

 

しかし、その声は誰にも届かない。

新聞や雑誌には、二人の男性開発者の写真だけが、大きく掲載された。

ENIACのプログラムを組み上げた六人の女性プログラマーの存在は、まるで初めからいなかったかのように、綺麗に消し去られていた。

 

彼女たちは、歴史の脚注にすら、その名を刻まれることはなかった。

 

それは、意図的な抹消だった。

当時は、女性がこのような知的で重要な仕事を担うはずがない、という社会の偏見が、あまりにも根強かったのだ。

 

フラッシュの光の中で、六人はただ、静かに佇んでいた。

自分たちが生み出した子供が、自分たちのものではないと、世界に宣言されている。

その悔しさを、彼女たちはただ、黙って噛みしめるしかなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

彼女たちの功績が再評価され始めたのは、1990年代後半になってからでした。ENIAC開発50周年を機に、彼女たちの存在を掘り起こそうという運動が起こったのです。

 

さて、歴史からその名を消された彼女たち。

しかし、彼女たちの仕事は、ここで終わりではありませんでした。

 

次回、「ソフトウェア・エンジニアという仕事(終)」。

彼女たちの足跡が、現代の私たちにどう繋がっているのか。第一章、感動の最終話です。

 

ぜひ最後までお付き合いください。

ーーーーーーーーーーーーーー

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