冷蔵庫サイズの記憶装置の挑戦 第5話:5メガバイトの壁
作者のかつをです。
第七章の第5話です。
ついに完成した世界初のハードディスクドライブ「RAMAC」。
その驚くべき巨体と、現代から見ればあまりにも小さな記憶容量。
しかし、それが当時の世界に与えた衝撃の大きさを描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
1956年9月13日。
苦難の末に、ついにその機械は完成した。
IBM 305 RAMAC。
サンノゼの研究所でお披露目会が報道陣を前に行われた。
幕が上がった瞬間、会場はどよめきと沈黙に包まれた。
そこに現れたのはコンピュータというより、巨大な産業機械のようだった。
システム全体の重量は1トン以上。
その心臓部である記憶装置ユニットは、大型冷蔵庫が二台並んだほどの圧倒的な威容を誇っていた。
フォークリフトでなければ輸送することすらできず、設置するには工場の床を特別に補強する必要があった。
そして、この巨体が記憶できるデータの量。
それは、わずか5メガバイトだった。
5メガバイト。
それは現代の基準で言えば、スマートフォンで撮影した高画質の写真、たったの一枚分だ。
MP3の音楽ファイルなら一曲分にも満たない。
会場にいた何人かは失笑したかもしれない。
こんな巨大な機械が、たったそれだけのデータしか記憶できないのか、と。
しかし、その価値を理解している者たちにとっては奇跡以外の何物でもなかった。
デモンストレーションが始まった。
オペレーターがキーボードを叩くと、RAMACの内部で巨大なアームが瞬時に動き出す。
50枚重ねのプラッタの中から目的のディスクを探し出し、ヘッドがデータの記録された場所に正確に降り立つ。
画面に探していた顧客情報が一瞬で表示された。
これまで磁気テープで何十分もかかっていた作業が、一秒もかからずに終わってしまった。
会場は熱狂に包まれた。
企業はこの機械の本当の価値を理解したのだ。
リアルタイムで在庫を照会できる。
その場で顧客の与信情報を確認できる。
ビジネスのあり方が根本から変わってしまう。
RAMACの価格は法外なまでに高価だったが、注文は殺到した。
IBM 305 RAMACは商業的に大成功を収めた。
それは世界で最初のハードディスクドライブが産声を上げた記念すべき日。
そして人類が「データ」という形のない財産を、いつでも瞬時にその手にできる時代が始まった歴史的な一日でもあった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
RAMACは販売ではなく、月額3200ドルという価格で企業にリースされていました。当時の金額で言えば、家が二軒は買えるほどの高価なサービスだったそうです。
さて、歴史的な第一歩を刻んだ巨大な記憶装置。
その発明が現代の私たちの日常にどう繋がっているのでしょうか。
次回、「クラウドに続く道(終)」。
第七章、感動の最終話です。
物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!
ーーーーーーーーーーーーーー
もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。
▼作者「かつを」の創作の舞台裏
https://note.com/katsuo_story




