IT革命のペースを決めた経験則 第1話:フェアチャイルドの「8人の反逆者」
作者のかつをです。
本日より、第六章「ムーアの法則の予言者 ~IT革命のペースを決めた経験則~」の連載を開始します。
「半導体の性能は18ヶ月で2倍になる」という、あまりにも有名なこの法則。
それが、いかにして生まれたのか。物語は、その提唱者であるゴードン・ムーアの若き日から始まります。シリコンバレー誕生の瞬間とも言える、熱いドラマです。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
すべての始まりは、一つの「裏切り」だった。
1957年、カリフォルニア州マウンテンビュー。
そこには、ノーベル物理学賞を受賞した天才科学者、ウィリアム・ショックレーが設立した半導体研究所があった。
彼は、現代社会の礎である「トランジスタ」の発明者の一人。その名声に惹かれ、全米から最高の頭脳を持つ若き研究者たちが彼の元に集まっていた。
その中の一人に、物静かで誠実な化学者、ゴードン・ムーアがいた。
しかし、ショックレーは偉大な科学者であると同時に、偏執的で管理不能な暴君でもあった。
彼は部下を一切信用せず、些細なミスを執拗に詰問し、研究室を恐怖で支配した。
天才たちの創造性は、日に日に蝕まれていった。
「ここには、未来はない」
ムーアをはじめとする8人の若き研究者たちは、ついに決断する。
ノーベル賞受賞者という絶対的な権威に反旗を翻し、ショックレーの元を去ることを。
ショックレーは、激怒した。
彼は、去っていく8人を、「8人の反逆者(Traitorous Eight)」と罵った。
しかし、この「裏切り」こそが、シリコンバレーの真の創世記だった。
8人は、自分たちの未来を自分たちの手で切り拓くことを選んだ。
彼らは、東海岸の投資家から資金を調達し、自分たちで新しい半導体会社を設立する。
その名は、フェアチャイルドセミコンダクター。
この会社は、単なる一企業ではなかった。
それは、新しい「文化」の始まりだった。
階級や権威ではなく、才能とアイデアがすべてを決定する。
リスクを恐れず、挑戦する者がすべてを手に入れる。
フェアチャイルドから、やがてインテルが生まれ、AMDが生まれ、数多のベンチャー企業が巣立っていく。
現代に続く、シリコンバレーの爆発的なイノベーションの生態系は、この「8人の反逆者」の勇気ある一歩から始まったのだ。
そして、ゴードン・ムーアは、この新しい世界の中心で、やがて未来そのものを予言する、一つの法則を発見することになる。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第六章、第一話いかがでしたでしょうか。
この「8人の反逆者」の物語は、シリコンバレーの伝説として、今なお語り継がれています。彼らがいなければ、現代のIT業界は全く違う姿になっていたでしょう。
さて、自らの会社を立ち上げたムーア。
彼は、フェアチャイルドで集積回路(IC)の開発を率いることになります。
次回、「ゴードン・ムーアの洞察」。
日々のデータの中に、彼だけが見つけ出した驚くべきパターンとは。
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