日本の電卓が起こした半導体革命 第7話:ポケットの中の頭脳(終)
作者のかつをです。
第五章の最終話です。
一つの小さなチップの誕生が、いかにして現代の私たちの生活にまで繋がっているのか。
壮大な技術の進化の系譜を感じていただけたら、嬉しいです。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
Intel 4004の誕生は、静かな、しかし止めようのない革命の始まりだった。
4004は、やがて8008へ、そして8080へと進化を遂げていく。
集積されるトランジスタの数は、ムーアの法則に従って爆発的に増えていった。
そして、この進化したマイクロプロセッサが、ガレージに集う若き天才たちの目に留まる。
彼らは、この「考える砂粒」を使って、人類の歴史を永遠に変える魔法の箱を創り上げた。
パーソナルコンピュータ(PC)である。
IBM PCが、インテルのプロセッサを採用したことで、その地位は決定的なものとなった。
さらに、その進化は止まらない。
より小さく、より高性能に、より省電力に。
やがて、その「頭脳」は机の上から、私たちのポケットの中へと収まることになる。
スマートフォンである。
……現代。
カフェで、一人の学生がスマートフォンの画面をスワイプしている。
友人とメッセージを交わし、講義の資料を検索し、高精細な動画を当たり前のように楽しんでいる。
彼は、知らない。
その、薄いガラスの板の中に収められた、数センチ角のチップ。
その遥かなる祖先が、半世紀以上も前に、日本の電卓メーカーからの、一つの無茶な要求から生まれたということを。
そして、その誕生のために、日米の技術者たちが文化の壁を越え、昼も夜もなく情熱を燃やしたという事実を。
歴史の歯車は、時に奇妙な偶然で大きく動き出す。
もし、あの時、ビジコンがインテルに挑戦状を叩きつけていなければ。
もし、あの時、テッド・ホフが逆転の発想をひらめかなければ。
もし、あの時、嶋正利が太平洋を渡っていなければ。
今、あなたの手の中にある、その「ポケットの中の頭脳」は、存在しなかったのかもしれない。
すべての革命は、名もなき開拓者たちの、ささやかな、しかし偉大な一歩から始まっているのだ。
(第五章:砂粒の上の頭脳 ~日本の電卓が起こした半導体革命~ 了)
第五章「日本の電卓が起こした半導体革命」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
この物語は、まさに、この小説のテーマである「名もなき開拓者たちの足跡」を象徴するようなエピソードだったのではないかと思います。
さて、コンピュータの「頭脳」がついに誕生しました。
次なる物語は、その頭脳の性能を極限まで引き上げるための、終わりなき競争の物語です。
次回から、新章が始まります。
第六章:ムーアの法則の予言者 ~IT革命のペースを決めた経験則~
「半導体の性能は18ヶ月で2倍になる」
たった一つの経験則が、いかにしてIT業界全体のロードマップとなり、現代の驚異的な技術革新を生み出したのか。その秘密に迫ります。
引き続き、この壮大なIT創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第六章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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