日本の電卓が起こした半導体革命 第5話:マイクロプロセッサ「4004」の誕生
作者のかつをです。
第五章の第5話です。
いよいよ、歴史的なマイクロプロセッサ「Intel 4004」が誕生しました。
国籍の違う技術者たちが、一つの目標に向かって力を合わせる。
今回は、そんな開発現場の熱いクライマックスを描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
嶋が論理設計を、ファジンが物理設計を。
二人の天才を中心に、プロジェクトは驚異的なスピードで進み始めた。
それは、時間との戦いだった。
一日でも早くビジコンにチップを納品しなければ、契約違反になる。
そして、日本の電卓戦争にも間に合わない。
インテルの小さなオフィスは、さながら不夜城のようだった。
彼らが挑んでいたのは、まさに神の領域だった。
わずか数ミリ角のシリコンチップの上に、2300個ものトランジスタを、一つのミスもなく焼き付けなければならない。
当時の技術レベルでは、それは途方もなく困難な挑戦だった。
巨大な設計図を、虫眼鏡を片手に来る日も来る日もチェックする。
たった一本の線の引き間違いが、すべてを台無しにしてしまうのだ。
嶋とファジンは、国籍も母国語も違ったが、回路図という世界共通の言語で、完璧な意思疎通を図っていた。
互いの設計を厳しく、しかし敬意を持ってレビューし合い、少しずつ完璧な形へと近づけていった。
そして、1971年初頭。
数ヶ月に及ぶ、死闘の末に。
ついに、その「砂粒」は産声を上げた。
それは、人間の爪の先ほどの大きさしかない、黒いプラスチックに覆われた小さな小さなチップだった。
4本のピンが、まるで昆虫の足のように両側から生えている。
その表面には、誇らしげにこう刻印されていた。
「Intel 4004」と。
世界で最初の、ワンチップ・マイクロプロセッサ。
テスト用の基板に4004を実装し、電源を入れる。
嶋とファジンは、固唾を飲んでオシロスコープの画面を見守っていた。
画面に、美しい矩形波が現れた。
チップが、設計図通りに完璧に動作している証だった。
「……やった」
ファジンが、かすれた声で呟いた。
嶋は、ただ黙って頷いた。
その場にいた誰もが、言葉を失っていた。
自分たちが今、何を成し遂げたのか。
その歴史的な意味の大きさに、ただ圧倒されていた。
この小さな砂粒が、やがてパーソナルコンピュータを生み、インターネット社会を築き、人類の文明を根底から変えてしまうことになる。
その、壮大な革命の、正真正銘の第一歩。
静かな、しかし確かな産声が、シリコンバレーの片隅で上がった瞬間だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
Intel 4004のトランジスタ数は、約2300個。最新のCPUには、数百億個ものトランジスタが集積されています。この50年で、いかに技術が進歩したかが分かりますね。
さて、チップは完成し、ビジコンの電卓も無事に発売されました。
しかし、インテルは、このチップの持つ本当の価値に気づき始めます。
次回、「インテル、入ってる」。
一つの契約を巡る交渉が、インテルの運命を大きく変えることになります。
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