日本の電卓が起こした半導体革命 第2話:12個のチップという無茶な要求
作者のかつをです。
第五章の第2話をお届けします。
「12種類も専用チップを作るなんて、やってられるか!」
そんな現場の悲鳴が、歴史を動かす大きなバネになります。
今回は、インテルのエンジニアたちが直面した、絶望的な状況を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
ビジコンが提示した設計図を前に、インテルのエンジニアたちは言葉を失った。
「……冗談だろう?」
誰かが、思わず呟いた。
そこに描かれていたのは、あまりにも複雑で非効率な設計だった。
キーボードからの入力を制御するチップ、計算を行うチップ、プリンタを動かすためのチップ……
ビジコンが要求してきたのは、この一台の電卓のためだけに、それぞれ機能の違う12種類もの新しいカスタムLSIを開発しろ、というものだった。
当時のLSI開発は、莫大なコストと時間がかかる一大プロジェクトだ。
たった一つの製品のために、12種類もの専用チップをゼロから設計するなど、狂気の沙汰としか思えなかった。
「こんなやり方では採算が合わない。それに、開発に時間がかかりすぎて電卓戦争に負けてしまう」
インテルの技術者たちは、頭を抱えた。
彼らは、メモリの専門家だ。
規則正しく、同じ回路が整然と並んだメモリチップの設計には慣れている。
しかし、ビジコンが要求するロジックチップは全くの別物だった。
一つ一つの回路が、不規則で複雑に絡み合っている。
まるで、整然とした碁盤と複雑怪奇な迷路ほどの違いがあった。
「このまま、ビジコンの言う通りに作るしかないのか……」
社内には、重苦しい空気が漂っていた。
この案件を断れば、まだ若い会社の貴重な収入源を失うことになる。
かといって、この無茶な要求を飲めば、開発は泥沼にはまるに違いなかった。
インテルは、創業早々、絶体絶命のピンチに立たされていた。
誰もが諦めかけていた、その時だった。
一人のエンジニアが、静かに、しかし根本的な疑問を口にした。
「待てよ。そもそも、なぜ電卓は『電卓』でなければならないんだ?」
その一言が、空気を変えた。
すべての前提をひっくり返す、革命的なアイデアが生まれようとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
当時のLSI設計は、すべて手作業で巨大な紙の上に回路図を描いていました。12種類ものチップを設計するというのは、想像を絶する作業量だったのです。
さて、絶望的な状況の中から、一人の天才が逆転の発想を生み出します。
次回、「テッド・ホフの逆転の発想」。
コンピュータの歴史における、最も重要なブレークスルーの一つがついに姿を現します。
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