現代の銀行システムを支える巨人 第9話:止まることが許されない心臓部(終)
作者のかつをです。
第四章の最終話です。
60年前に行われた、巨大プロジェクトの成果が、現代社会の、目に見えないインフラとして生き続けている。
この物語全体のテーマである「過去と現代の繋がり」を、改めて感じていただけたら幸いです。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
IBMは、その後、PCの波に乗り遅れ、一時は、倒産の危機にまで瀕した。
巨象は、もはや、絶対的な王者ではなくなった。
しかし、彼らが作り出したSystem/360の血筋は、決して、途絶えることはなかった。
それは、z/Architectureと名を変え、進化を続け、今なお、世界の根幹を、静かに、力強く、支えている。
……現代。
あなたが、銀行のATMでお金をおろす、その一瞬。
あなたが、スマートフォンのアプリで、飛行機のチケットを予約する、その一瞬。
あなたが、クレジットカードで、買い物の決済をする、その一瞬。
そのトランザクション(取引)の裏側で、膨大なデータを、一瞬の遅延もなく、絶対に、間違いなく、処理している機械がある。
それが、メインフレームだ。
華やかなウェブサービスや、AIの影に隠れ、その存在を、一般の人が目にすることは、ほとんどない。
しかし、もし、この心臓部が、たった一秒でも止まれば、現代社会は、大混乱に陥るだろう。
その心臓部の設計思想の、さらに奥の奥。
その源流を辿っていくと、必ず、行き着く場所がある。
1960年代、IBMの存亡を賭けて、デスマーチを戦い抜いた、名もなきエンジニアたちの、汗と、涙の結晶。
System/360という、不滅のアーキテクチャに。
彼らは、単なるコンピュータを作ったのではない。
彼らが作ったのは、60年後の未来においても、決して止まることが許されない、社会の「信頼」そのものだったのだ。
あなたが、今日も、当たり前のように、便利なデジタル社会を生きているのなら。
その片隅で、思い出してほしい。
かつて、この道の礎を築くために、すべてを賭けた、巨人たちの戦いがあったことを。
そして、彼らが遺した「最後のメインフレーム」の鼓動が、今この瞬間も、あなたの日常を、見えない場所で、守り続けているということを。
(第四章:最後のメインフレーム ~現代の銀行システムを支える巨人~ 了)
第四章「最後のメインフレーム」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
メインフレームは「レガシー」の象徴のように語られがちですが、クラウドやAIの時代においても、その圧倒的な信頼性と処理能力で、今なお進化を続ける、現役のテクノロジーなのです。
さて、巨大な機械が、社会の礎を築きました。
次なる物語は、日本の技術者たちが、世界に挑んだ挑戦の物語です。
次回から、新章が始まります。
第五章:砂粒の上の頭脳 ~日本の電卓が起こした半導体革命~
日本の小さな電卓メーカーからの「無茶な要求」が、いかにして、インテルという巨大企業と、現代のすべてのコンピュータの心臓部「マイクロプロセッサ」を生み出すきっかけとなったのか。
日米の技術者たちの、熱いドラマが始まります。
引き続き、この壮大なIT創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
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それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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▼作者「かつを」の創作の舞台裏
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