現代の銀行システムを支える巨人 第7話:青い巨人の勝利
作者のかつをです。
第四章の第7話です。
苦難の末に辿り着いた、輝かしい勝利の瞬間。
System/360が、いかにセンセーショナルなデビューを飾ったか、その熱狂を描きました。
まさに、歴史が動いた瞬間ですね。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
1964年4月7日。
その日は、コンピュータの歴史が永遠に変わった日として、記憶されることになる。
IBMは、全米62都市を中継で結ぶ前代未聞の大規模な記者会見を開催した。
メイン会場には、報道陣が殺到していた。
誰もが、固唾を飲んで発表の瞬間を待っていた。
IBMが、社運を賭けて開発しているという謎の新型コンピュータ。
その噂は、業界に期待と憶測を渦巻かせていた。
やがて、トーマス・ワトソン・ジュニアが、晴れやかな、しかし少し緊張した面持ちで壇上に立った。
「本日、我々は単なる新製品を発表するのではありません」
彼は、ゆっくりと、しかし力強く語り始めた。
「我々は、コンピュータの概念そのものを根本から変える、新たな時代の始まりをここに宣言します」
彼の合図で、背後の幕がゆっくりと上がっていく。
そこに現れたのは、大きさも形も違う5つのモデルからなる、壮麗なコンピュータ・ファミリーだった。
「ご紹介します。IBM、System/360です」
会場が、どよめきとフラッシュの光で埋め尽くされた。
ワトソン・ジュニアは、高らかに宣言した。
System/360が、完全な互換性を持つこと。
顧客が、ビジネスの成長に合わせて自由にシステムを拡張できること。
過去のソフトウェア資産が、未来永劫守られること。
それは、当時のコンピュータ業界の常識をすべて覆す、革命的な宣言だった。
市場の反応は、熱狂的だった。
発表からわずか一ヶ月で、受注はIBMの予想を遥かに上回った。
企業は、System/360という「未来への切符」を、我先にと買い求めたのだ。
IBMの賭けは、歴史的な大勝利に終わった。
System/360は、市場を完全に制圧した。
ライバル企業は、なすすべもなく、その圧倒的な力の前にひれ伏すしかなかった。
IBMの青いロゴは「信頼」の代名詞となり、その支配は絶対的なものとなった。
巨象は、死の淵から蘇り、さらに巨大な無敵の存在へと進化したのだ。
あの日、あの瞬間、IBMは単なる一企業から、世界の情報化時代を定義する帝王となった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この発表会は、後のIT業界における派手な製品発表会の原型になったとも言われています。スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションも、この系譜の上にあるのかもしれませんね。
さて、絶対的な勝利を手にしたIBM。
しかし、その栄光には皮肉な副作用が伴っていました。
次回、「終わらないレガシー」。
成功が故に、IBMが背負うことになった、重い十字架の物語です。
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