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IT創世記~開拓者たちの足跡~  作者: かつを
第1部:シリコンの創世編 ~機械の誕生と魂の萌芽~
31/64

現代の銀行システムを支える巨人 第6話:デスマーチの果てに

作者のかつをです。

第四章の第6話をお届けします。

 

今回は、プロジェクトのクライマックスとも言える、エンジニアたちの壮絶な奮闘を描きました。

絶望的な状況の中から、いかにして彼らが活路を見出したのか。その人間ドラマを感じていただければ幸いです。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

プロジェクトは、もはや「デスマーチ(死の行進)」そのものだった。

 

OS/360の開発現場では、連日、徹夜が続いた。

エンジニアたちは、仮眠室のベッドで数時間を過ごし、また、ディスプレイの前に戻っていく。

カフェインと、使命感だけが、彼らを支えていた。

 

「このプロジェクトが失敗すれば、IBMは終わる」

 

その言葉が、重く、全員の肩にのしかかっていた。

 

取締役会では、何度も、プロジェクトの中止が議題に上がった。

「これ以上、損失を垂れ流すのは危険だ。今すぐ、撤退すべきだ」

 

しかし、トーマス・ワトソン・ジュニアは、決して、首を縦に振らなかった。

彼の心もまた、嵐の中にあった。

毎晩、眠れずに、自らの決断が正しかったのかを、問い続けた。

 

しかし、彼は、部下たちの前では、決して、その弱さを見せなかった。

 

「我々は、前に進むしかない。必ず、やり遂げられると信じている」

 

トップの揺るぎない覚悟が、絶望の淵にいたエンジニアたちの、最後の支えだった。

 

フレッド・ブルックスは、自らが招いた混乱の責任を取るべく、身を粉にして働いた。

彼は、天才プログラマーである前に、優れたマネージャーだった。

彼は、巨大なOSの仕様を、管理可能な小さなモジュールに分割し、それぞれのチームの責任範囲を、明確にしていった。

 

混乱を極めた現場に、少しずつ、秩序が戻り始める。

 

そして、ついに、運命の日がやってくる。

ジーン・アムダールが率いるハードウェアチームと、ブルックスのソフトウェアチームが、初めて、それぞれの完成品を結合させる、最終テストの日だ。

 

メインスイッチが、入れられた。

 

システムは、起動しなかった。

 

ハードとソフトの、わずかな解釈の違い、想定外の動作。

無数の問題が、一気に噴出したのだ。

 

誰もが、天を仰いだ。

しかし、誰も、諦めなかった。

 

そこから、三日三晩、不眠不休の戦いが続いた。

ハードの人間と、ソフトの人間が、初めて、一つのチームになった。

互いを罵り、しかし、認め合い、助け合った。

 

そして、四日目の朝。

朝日が、コンピュータ室の窓から差し込む頃。

 

OS/360は、ついに、産声を上げた。

ディスプレイに、正常な起動を告げるメッセージが、静かに表示された。

 

その場にいた全員が、言葉もなく、立ち尽くした。

やがて、誰からともなく、拍手が沸き起こる。

それは、長い、長いデスマーチの終わりを告げる、喝采だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

このような極限状況は、現代のIT業界でも「デスマーチ」と呼ばれ、決して他人事ではありません。このSystem/360の逸話は、その元祖とも言えるかもしれませんね。

 

さて、ついに完成した、夢のコンピュータ。

いよいよ、世界に向けて、そのベールを脱ぐ時が来ました。

 

次回、「青い巨人の勝利」。

IBMの、そして世界の景色が、永遠に変わった一日を描きます。

 

物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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