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IT創世記~開拓者たちの足跡~  作者: かつを
第1部:シリコンの創世編 ~機械の誕生と魂の萌芽~
29/66

現代の銀行システムを支える巨人 第4話:アーキテクチャという設計思想

作者のかつをです。

第四章の第4話をお届けします。

 

少し技術的な話になりましたが、この「アーキテクチャ」という概念の誕生が、コンピュータの歴史における、非常に大きな転換点でした。

ハードとソフトを切り離して考える。この思想が、現代のIT産業の根幹を支えています。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

System/360プロジェクトの心臓部。

それは、ジーン・アムダールが提唱した、一つの革新的な概念だった。

 

「アーキテクチャ」という、設計思想。

 

それまでのコンピュータ開発は、言わば「場当たり的」だった。

まず、物理的なハードウェアを作り、そのハードウェアを動かすためだけに、ソフトウェアを後から作る。

だから、ハードウェアが変われば、ソフトウェアもすべて作り直しになる。

 

アムダールのアプローチは、真逆だった。

 

彼は、まず、物理的な機械から離れ、紙の上で、「理想のコンピュータ」を定義した。

ソフトウェアから見て、コンピュータがどのように振る舞うべきか。

どのような命令セットを持ち、どのようにデータを処理すべきか。

 

その、厳密に定められた「ルールブック」。

それこそが、「アーキテクチャ」だった。

 

このルールブックさえ守っていれば、その内側にある物理的な部品――CPUの速さや、メモリの量――は、モデルごとに違っていても構わない。

 

高級スポーツカーと、大衆向けのコンパクトカー。

エンジンも、車体の大きさも、全く違う。

しかし、ハンドルを右に回せば右に曲がり、アクセルを踏めば加速する、という「運転の仕方」は、同じだ。

 

アーキテクチャとは、まさに、この「運転の仕方」を定義するものだった。

 

一度、この完璧なアーキテクチャを設計してしまえば、あとは、そのルールに従って、様々な価格帯のハードウェアを作ればいい。

そうすれば、すべてのモデルで、同じソフトウェアが動くはずだ。

 

この思想こそが、System/360の互換性を実現するための、唯一の鍵だった。

 

「360」という名前には、その思想が込められていた。

方位360度、全方位をカバーするように、科学技術計算からビジネス用途まで、あらゆるニーズに、ただ一つのアーキテクチャで応える、という壮大な宣言。

 

しかし、それは、諸刃の剣でもあった。

もし、最初に決めたアーキテクチャに、たった一つでも欠陥があれば、それは、System/360ファミリーの、すべてのモデルに影響を及ぼすことになる。

 

まさに、神の領域に踏み込むような、緻密さと、完璧さが求められる仕事だった。

アムダールと彼のチームは、来る日も来る日も、この「未来の聖書」とも言うべき、ルールブックの策定に、心血を注いだ。

 

会社の運命は、彼らが紙の上に描く、一本の線の重さに、かかっていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

このSystem/360のアーキテクチャは、非常に優れたものだったため、基本的な部分は、なんと現代のIBM製メインフレームにまで、受け継がれています。まさに、60年続く遺産レガシーですね。

 

さて、完璧な設計図はできた。しかし、それを形にするのは、生身の人間です。

特に、形のないソフトウェアの開発は、底なし沼のような困難に直面します。

 

次回、「ブルックスの法則」。

すべてのソフトウェア開発者が知る、ある有名な法則が、このプロジェクトの苦悩から生まれました。

 

よろしければ、応援の評価をお願いいたします!

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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