現代の銀行システムを支える巨人 第3話:System/360プロジェクト
作者のかつをです。
第四章の第3話、お楽しみいただけましたでしょうか。
いよいよ、伝説のプロジェクトが始動しました。
会社の命運を背負わされたエンジニアたちの、熱気とプレッシャー。その雰囲気を感じていただければ幸いです。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
社内の抵抗を、トップダウンの強力なリーダーシップでねじ伏せ、トーマス・ワトソン・ジュニアはついにプロジェクトの正式なゴーサインを出した。
「System/360プロジェクト」の、始まりである。
その規模は、あらゆる点で規格外だった。
全米各地に、新たな工場が建設された。
数万人のエンジニアとプログラマーが、このプロジェクトのためだけに新たに雇用された。
投じられる予算は、当時の国家予算にも匹敵する50億ドル。
第二次世界大戦後、民間企業が行ったプロジェクトとしては史上最大規模。
人々は、これを「マンハッタン計画」になぞらえてそう呼んだ。
この巨大プロジェクトを率いるために、IBMが誇る最高の頭脳が集められた。
ハードウェア開発の責任者には、ジーン・アムダール。
後に「コンピュータアーキテクチャの父」と呼ばれることになる、気難しく、しかし誰よりもbrilliantな天才設計者。
そして、ソフトウェア開発の責任者には、フレデリック・ブルックス。
冷静沈着で、卓越した管理能力を持つ若きリーダー。
彼らに課せられたミッションは、途方もなく困難だった。
単に、一台の新しいコンピュータを作るのではない。
価格も性能も全く異なる5つのモデルを、同時に開発する。
そして、その5つのモデルすべての上で、全く同じOSとソフトウェアが完璧に動作するようにする。
それは、誰も、一度も、やったことがない挑戦だった。
プロジェクトルームの壁は、巨大な設計図と複雑な工程表で、びっしりと埋め尽くされた。
エンジニアたちは、昼も夜もなく議論を重ね、試行錯誤を繰り返した。
部屋には、興奮と熱気と、そして失敗は許されないという、重圧に満ちた空気が渦巻いていた。
彼らは、単なる機械を作っているのではなかった。
彼らは、未来のコンピュータの「標準」を、その手で生み出そうとしていたのだ。
IBMという巨象の未来は、完全に、この一室に集った男たちの双肩にかかっていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ジーン・アムダールも、フレッド・ブルックスも、コンピュータの歴史にその名を刻む、偉大な人物です。特にブルックスがこのプロジェクトで得た教訓は、後のソフトウェア開発に非常に大きな影響を与えることになります。
さて、この前代未聞のプロジェクトの成功の鍵を握っていたのは、ある一つの重要な「設計思想」でした。
次回、「アーキテクチャという設計思想」。
現代のITの世界にも繋がる、革命的な概念が生まれます。
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