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IT創世記~開拓者たちの足跡~  作者: かつを
第1部:シリコンの創世編 ~機械の誕生と魂の萌芽~
2/10

最後のパンチカード 第2話:配線盤という名のプログラム

作者のかつをです。

第2話をお届けします。

 

説明書も何もない状況で、ENIACという巨大な機械と六人がどう向き合ったのか。

その絶望的とも思える第一歩を描きました。

 

現代では画面上で完結する「プログラミング」が、当時はどれほど物理的で過酷な作業だったか、感じていただけたら幸いです。

六人を支配したのは、期待ではなかった。

目の前の鉄の巨人が放つ熱気と、低いうなりを前に、彼女たちはただ圧倒されていた。

 

「……それで、説明書はどこに?」

 

カイ・マクナルティの問いに、案内役の士官は悪びれもせずに答えた。

 

「ない。君たちが作れ」

 

その一言が、彼女たちの置かれた状況を決定づけた。

 

まず、敵を知らねばならない。

六人は、ENIACに関するあらゆる資料を要求した。渡されたのは、数百枚に及ぶ、巨大な青焼きの設計図だけだった。

それは、電子回路の専門家ですら音を上げるほど複雑なもの。無数の線と記号が、まるで古代の碑文のように紙面を埋め尽くしていた。

 

「これが、私たちの教科書……」

 

ベティ・ジェニングスは、設計図の束を前に呟いた。

 

彼女たちは、来る日も来る日も、この難解なパズルを解き明かすことに時間を費やした。

一つ一つの真空管が何を意味するのか。どのスイッチが、どの演算装置に繋がっているのか。

 

やがて、ENIACの全体像が、ぼんやりとだが見え始めた。

この機械には、現代のコンピュータのような記憶装置メモリも、OSも存在しない。

プログラムを書き込む、という行為そのものが、物理的な「配線」なのだと、彼女たちは理解した。

 

ENIACの正面には、電話交換台を彷彿とさせる、無数の穴が開いた「配線盤」が何枚も並んでいた。

計算の順序を機械に教えるには、この穴と穴を、一本一本ケーブルで繋いでいかなければならない。

 

足し算の次は、掛け算。その結果を、次の引き算に使う。

 

そんな単純な命令すら、複雑なケーブルの配線によって機械に伝えなければならないのだ。

それは、ソフトウェアというより、もはやハードウェアの設計に近い、途方もない作業だった。

 

「これは……プログラムじゃないわ。機械の脳外科手術よ」

 

誰かが言ったその言葉が、彼女たちの仕事の本質を的確に表していた。

 

彼女たちは、鉄の巨人の脳外科医となった。

メスの代わりにケーブルを手に、前例なき手術に挑むことになったのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

ENIACのプログラミングは、現代のようにキーボードを叩くのではなく、膨大なケーブルの繋ぎ変えによって行われました。一つの計算を行うための準備(配線)に、数週間かかることもあったそうです。

 

さて、機械の構造は理解した。しかし、彼女たちの本来の任務は「弾道計算」という複雑な数式を、この機械に解かせること。

 

次回、「弾道計算と戦争の影」。

彼女たちは、数学という名の設計図を、物理的な配線に変換する、次なる挑戦に直面します。

 

ブックマークや評価、お待ちしております!

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