リッター・アルバートという男②
「・・・・・・・お前・・・・たち・・・・は
ここで・・・・・・・眠り・・・・・・・・・・・・・」
「いつか・・・・・迎え・・・・・・・・・・に」
「ハッ?!」
リッターは目が覚める。遠くでかすかに日が昇り始めていた。
(なんだったんだ・・・・?今の夢は・・・・・)
時は昼下がり、心地の良い風が肌をなでる頃あい・・・
「遠くに見えてきたな・・・・だが、まだ時間はかかりそうだ。休憩するか?」
「いいわ、平気よ」
二人の冒険者は、都を目指して歩いていた。遠くには街の影がぼんやり見える程度であった。
(・・・元気だな・・・昨日森で助けたときとは大違いだ)
女の冒険者は、昨日の事などなかったかのようにケロっとしており、すばやい足取りで歩いている。ゴブリンに襲われて負った怪我は、とっくに完治しているようだ
(自然治癒が早い・・・・やはり、エルフの冒険者か、珍しいな)
「あんた、エルフなんだろう?寿命は俺たちと比べられない程長いはずだ。それなのに、何故命を顧みない程に早く冒険者になろうとしたんだ・・・・いや、この質問は無粋だったりするか?」
「気遣いはしなくて結構よ。・・・理由は一つ。”時間が無い”の」
「時間が無いだと?」
女の冒険者は下を向く。足の進みが見るからに遅くなった。
「あなたも冒険者なら、”階級”については知っているわよね?」
「階級か、たしか色で区分されているんだったな。」
「そうよ。全部で7つあって、下から順に 青・赤・緑・黒・銀・金そして最上級の白・・・・。これらは数多くの依頼をこなしていくと徐々に上がっていく。
これは、単にギルドからの待遇がよくなるだけじゃない。・・・下級の冒険者には受けることのできない危険な依頼に携わる事ができるわ。」
「なるほど。つまり、その”危険な依頼”を受けるために、幼稚な冒険をしたわけだな」
彼女は振り返ってこっちに目線を向ける。一瞬だけ睨んできたが、ハッとしたかのように直ぐ悲しげな顔に変わった。
「・・・今思うと、昨日の私はバカだったわ。貴方に合わせる顔が無い」
再び彼女は、歩く先に視線を向ける。
「・・・・時に思うんだが、上級の依頼を受けることにも何か意図があるのだろう。教えてくれるか?」
「それは・・・今は言えない。ごめんなさい」「わかった、余計な詮索はやめよう。あんたにも深い事情があるようだな」
少し沈黙が流れる。
「・・・ところで、私の名前は”あんた”じゃないわ。サルビア。【サルビア・バーミリオン】・・・昨日は助けてくれて本当にありがとう。都に着いたら、何かお礼がしたい。そうでもしないと、気が済まないの」
「俺はリッター・アルバート。ギルド登録はしていない、ただの浮浪ものだ」
都に到着したのは、夕方頃であった。
”リットル人魔協王国”は、最も多くの種族が住む大陸最大級の都市である。
中心にある高台の王城を中心に、円状に街並みが広がっている。また、外界とは石造りの壁で隔たれているためめったに魔物の襲撃を受けることがない。
「ここまでデカいところは久しぶりだな、ガキの頃以来だ」
入国審査も難なく終わり、都市部分に来た頃には既に日が沈みきっていた。
「ここまで時間がかかるとは思わなかったな。ギルドに行くのは明日にしておくか」
「そうね・・・・」
隣に目を向けると、側で立っていたサルビアの足は、ふらふらとしている。一日中歩いていた為か、だいぶ疲れてしまったのだろう。
「宿代は俺が出そう」「いや、私が」
「お礼に関しては今度でいい。どうせ、そこそこの金銭しか持ってないだろう」「うっ・・・」
そっぽを向かれる。図星だったようだ。
「それじゃあ、明日また会おう」自分の部屋を開けて、中に入る。
(宿に泊まるのは久しぶりだ・・・案外、新鮮だな)
大陸最大の国故か、リッターがこれまで訪れた宿泊施設の中でも特に綺麗な風貌をしている。隅々にまで掃除が行き届いており、最安のサービスだとはそこそこ信じられなかった。
リッターは、身辺の整理をするとすぐにベッドに横たわった。
目を閉じ、眠りに着こうとする。だが、なぜかうまく寝付けない・・・
「うーん、最近は野宿続きだったから・・・むしろ落ち着かないな。
少し散歩でもしたら、眠くなるか・・・?」
ベッドから飛び起きて、部屋のドアを開けようとする。・・・・・開けようとした。
「?!」
窓の外から、いや壁越しにも聞こえるほど大きな爆発音が聞こえた。程なくして、赤黒い光が差し込んでくる。
(・・・何が起きた?!)
ドアから離れ、窓を開ける。炎と煙が立ちのぼり、群集のざわめく声がなだれ込んでくる。・・・その中に、ひとつ頭に響く声があった。
『魔王がっ、魔王軍がやってきたぞーーっ』
「魔王軍だとっ!?」窓を蹴破り、外に飛び出す。遠くに見える、おどろおどろしい気配を纏わせて進む存在が見えた。
(なぜ奴がここに・・・?)
進んでいる方向を目でなぞる。その方向には、高台。王城の建つ高台が大きくその目に映った。
(王城・・・・!国王を狙っているのか・・・?!)
周囲からも、悲鳴や爆裂音が響いてくる。すでにリットルの各地に勢力を拡大してしまっているようだ。
「魔王・・・!”あの時と同じように”また街を破壊しつくす気か・・・ッ!!」
進んだ後をつけていく。突っ込むことはせず、ただゆっくりと背後を追跡していく・・・
やがて、リッター含め彼らは王城へと侵入していった
「侵入者だっ!兵を前門に集中させろ、王を何としてでも守れっ!!」
絶大な威力の魔法の前に、兵は一切の抵抗もできず、だが使命を全うするため突撃していく
しかし空しくも、王の間にたどり着くころに兵士達の姿はすでになかった。
「・・・・」
王の目の前に、魔王が飛んでいく。そして、少し離れた位置で着地する・・・・。
「・・・愛しい兵たちを皆殺しにしたのは貴様か、魔王」
《ほう 逃げずに玉座にとどまっていたか その様子だと恐怖で動けなくなったわけではないようだ ・・・あまりに愚かな決意だな》
「一人だけ敵に尻を向ける国の長がどこにいるか!」
言葉とは裏腹に、王の顔は汗が大量に伝っている。歯はギシギシと音を立て、握り締めた左のこぶしは血が滴っている。
《では この地面に貴様の顔を向けてやろう 永遠にな》
国王に魔王の手が襲い掛かる。
「やめろーーーーーーッッ!!」
魔王の手が止まる・・・いや、”止められた”。魔王の指先が切断された事により、動きが止まってしまったようだ
《・・・・・?》
石造りの壁にダガーナイフの刃先が突き刺さっている。その下には、3本の指が転がっていたが・・・なぜか一瞬で掻き消えた。
いつの間にか、魔王の指は元通りに治っていたようだ
《不意打ちとは言え この俺の指を削いだのは誰だ・・・ 出て来い》
「・・・」
近くに、人が丁度隠れられるほどの瓦礫があった。魔王は、そこに目線を向ける・・・そして、何度か呼びかける
《王を殺すのを 止めようとしたようだな》
瓦礫に目を向けつつ、国王の首をつかみ持ち上げる。
《この男の命が惜しいのか》その手は、国王が死なないように、じわじわと首を締め付けていく。
《さぁ 死んでしまうぞ・・・?》
《ほう そう来たか》その瞬間、魔王の背中には何本ものナイフが刺さっていた。遠くから飛ばされてきたナイフが、更に突き刺さる。
「お前の敵は俺だ、魔王ーーーッ!!!」
《そうか ならば先に貴様から殺してやろう》
王を壁に投げ、外に飛ばす。そして、遠くに立つリッターと向き合った。
「覚えているか・・・・5年前、お前が焼いた村を・・・・ッ!」
《ああ あの村か・・・・ とすると あの時俺に立ち向かってきた男は貴様か これも運命だな》
「ここでてめぇを殺す・・・それも運命だッ!!」
両腰の小さめなポーチから、サイズの合わないナイフを数本出す。
リッターは、ナイフを投げつけながら魔王の周りを旋回し始めた・・・すばやい動きに、壁を駆け巡る動きで惑わそうとする。
《素早いな ここまで素早いと・・・・ 一撃では仕留められないかもしれないな》 「ぐご・・・ッ」
魔王の拳はリッターのみぞおちに直撃した。
「こ・・・・この速さは・・・・な・・なんなんだ」
みぞおちから離れた拳が、今度は眉間に激突した・・・・その瞬間にリッターは城内から吹き飛ばされ、高台の草地に叩きつけられた
(くそっ・・・・ここで攻撃に出るのは早とちりだったか)
《もう終わりか つまらないな これで最後の一撃としよう》
リッターの元に魔王が迫る・・・・拳が心臓の位置を狙う・・・・!
だが、攻撃は当たらなかった
周囲に白い魔方陣が展開される。
《これは・・・・・テレポート この国にも扱える魔導師がいたとは
まあよかろう・・・・近いうちにまた会う機会があるだろう リッターとやら》
次の瞬間、リッターの前から魔王は消え去っていた。その光景に、唖然とするしかなかった
『・・・・・・大・・・丈夫・・で・・・・・・・』
女性のような声がかすかに聞こえたが、その後すぐにリッターの意識はすぐに消え去ってしまった・・・・・・
『眠られてしまったようです。・・・お父様も、ご無事でしょうか・・・早く介抱しに行かなくては』
赤髪の少女は、リッターの元を離れ、遠くへ駆けていった・・・・
「な 何が起こっているっていうの・・・・!」
その頃・・・・リッターに遅れて外に出たサルビアは、周囲の光景に恐怖していた。崩壊した都市に、闊歩する魔物の集団。
彼女はその光景に目を取られ、背後の足音が聞こえていなかった。大型のオークが、棍棒を振り下ろしてくる・・・!
《グルアアアアッ!!》 「・・・・ッ!?」
『あぶねぇッお嬢さん!!』
目の前に立ちふさがった巨漢の男が、オークの棍棒を右手で受け止める。
『ここは俺に任せろ、避難用の兵団がすぐ近くにいるからそこに・・・ッ!!』
話している途中、他の個体が男の左脇に棍棒をぶち当てる。・・・・鎧が割れるが、しかし男にはまるで効いていないようだった
『ハハハ・・・・2対1は卑怯だぜ?』
小説家になろう、2度目の投稿です
前回の投稿から丸々1ヶ月以上経ちました時間の流れが速すぎて怖いです
誤字脱字があっても怒らないでね
次回の投稿はもっと早くするつもりだよ 次回もよろしくね