虹色の暗殺者#2
深夜、都内某所。月も隠れ、闇が街を支配する。
人気のない高層ビル内を、軽やかな足取りで一人の女が歩く。
虹色のレオタードに、同じく虹色のリボンを指先に巻きつけたその姿は、まるで舞台から抜け出た妖精のように幻想的だった。だが、その美しさの裏には、幾多の命を奪ってきた冷酷な暗殺者の顔があった。
黒崎玲奈。
「――ふふ、ターゲットは最上階ね。簡単すぎて退屈しちゃうかも」
微笑む唇とは裏腹に、目には鋭い光が宿る。
彼女のリボンが、暗闇にカラカラと擦れる音を響かせる。
その時――。
「止まりなさい。ここは関係者以外立ち入り禁止よ」
静寂を破る凛とした声。
現れたのは、警備員制服に身を包んだ若い女性。警棒を構えたその姿は、隙のない構えと鋭い眼光を放っていた。
中山彩花。かつて陸上自衛隊に所属し、今は民間警備会社に勤める女性。
その佇まいには、只者ではない風格が滲んでいた。
玲奈は興味深そうに彩花を見つめる。
「へぇ、あなたがこのビルの警備員? ……ふふっ、いい目をしてるわね。私のリボンに耐えられるかしら?」
「あなた、侵入者ね。拘束させてもらうわ」
言葉が終わるより早く、彩花が前に踏み込む。玲奈の喉元に警棒が迫る。
だが、その一撃は空を斬った。
「遅いわよ、警備員さん♪」
玲奈がしなやかに身を翻し、リボンを繰り出す。
彩花は咄嗟にスタンガンを抜き、空中を舞うリボンを避けながら距離を取った。
「なるほど……手練れね。だけど――」
次の瞬間、彩花の足元にリボンが絡む。
「うっ……!」
身体のバランスが崩れ、背後の壁に叩きつけられそうになるが、彩花は身をひねって着地。冷や汗が頬を伝う。
「この摩擦音……気持ちいいでしょう? あなたの首にも、優しく巻いてあげる……♡」
「変態かあなたは……!」
玲奈のリボンが宙を舞い、彩花の首筋に迫る――!
バチン!
スタンガンの火花が、リボンの布地に直撃。リボンが焼け焦げ、玲奈の動きが一瞬止まる。
「へぇ……やるじゃない。なかなか痛かったわよ、今の」
「これ以上は踏み込ませない……!」
ふたりの間に再び緊張が走る。
静かな夜の空間に、警棒とリボンが閃光のように交差する。
そして――
リボンが彩花の首に届く寸前、スタンガンの反撃が玲奈の脇をかすめた。
「ちょっと、予想以上に楽しいわね……でも今日はこの辺にしてあげる」
玲奈が軽くウインクし、バルコニーの窓を蹴って夜の闇へと姿を消した。
残された彩花は、わずかに肩で息をしながらリボンの残骸を見つめた。
「……次は、逃さない」
その夜、二人の因縁が始まった――。