表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

episode10.記憶の中

 柊は写真を見つめながら、胸の中に違和感が広がっていく。

 この写真は、どこかで見覚えがある。だが、記憶の中の断片がはっきりとは繋がらない。


「この写真……父さんが撮ったんだよな……」

 母親が笑顔でオムライスを食べている光景――それ自体が不自然だった。

 母は病気になった後、自力で起き上がることもできないほど体力を失っていたはずだ。

 だがこの写真では、病気の痕跡を感じさせないほど元気そうに見える。


「まさか……」

 柊の記憶の中で、かつての父親とのやり取りがぼんやりと浮かび上がる。



 ――お父さんの研究室には絶対に入ってはいけないよ。


 幼い頃、父親がそう厳しく言い聞かせていたのを思い出す。


 ――入ったら……死んじゃうからね。


 父親は、研究室で「何か」をしていた。

 それが危険だったから、本当に子供が入らないように警告していたのではないか?


 柊の胸にざわつくような不安が広がる。


「この写真、母さんが退院しているときに撮られたんだ……。父さんが、母さんに何かを見せるために、一時的に連れて帰ってきたのかもしれない」

「それが何か関係あるのかね」

 白石はイラつきながら言った。


「父さんは俺がガキの頃、ずっと自宅で植物の研究をしてた。母さんが病気になったときも……」

 何を伝えたいんだ? 父さん。

 俺にこの写真を見せたかったのだとしたら、いったい何を伝えたいんだ?


「母さんの病気と、なにか関係があるのか……?」


 白石は眉間に皺を寄せて、写真を見た。

 平凡な写真だ。オムライスを食べている親子。柊はもう思い出せない。それくらい、ふつうの一日だったはずだ。だが父親にとっては、特別だった……?


「この部屋の奥はなんの部屋なのかね」

 白石が聞いた。

 指差した部屋の扉は無機質で、そこだけ病室の――例えるならレントゲン室の入り口みたいな、ちょっと違和感のある扉になっている。

 柊にとっては当たり前すぎた扉だが、たしかに一般家庭には存在しない扉だろう。

「父さんの研究室だ」

「ほう……」

 白石はようやく眉を開いた。

「ここで何を研究していたんだ」

「俺は知らない。入るなと言われていた。そこに入ると死ぬ、って」

「死ぬ?」

 いつのまにか部屋にいたラシャの声。

 柊は苦笑しながら言葉を続けた。

「子供を脅すために言ったんだろうと思ってたけど……。でも、もしかして……父さんはあそこで“デスプランツ”を栽培してたのかもしれないな」


 何気なく言った一言だった。

 だが、それが真実なのかもしれなかった。


 柊が幼い頃過ごしていたアパートの一室に、こいつらの探す“デスプランツ”がある……?


「……その研究室、今も残っているのかしら」

「とっくに解約してると思うぜ、もう15年近く前だからな」

 柊は背筋が冷たくなるような感覚を覚えていた。

「解約したかどうかは、わからないのね?」

「……ああ」

 ラシャの目が光った。

「行って確かめるしかないわね」

「へ?」

「あなたがかつて住んでいた場所に案内してちょうだい!」

「ふざけんなよ、なんで俺があんたを……」

「柊くん、あなただけではお父様のメッセージを理解できないわ」

「なんだと?」

「だってあなたは、お父様のことをほとんど知らない」


 ぐうの音もでない。

 そうだ。俺は父さんのことを何も知らない。


 あの人が俺に何を伝えたいのか。

 何を考えているのか、何を思っているのか。

 “デスプランツ”を探させて、何をしたいのかも。わからない。


「だから柊くん、私を連れていって。そしてお父様のメッセージを受け取りましょう」

 ラシャの目が鋭くなった。

「私は……どうしても、イツキが残したものを見つけたいの」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ