どうしようもない幼馴染が可愛いお話
「雛鶴ちゃーん、一緒に帰ろー」
「はーい」
私こと雛鶴には幼馴染がいる。禅くんという男の子だ。
雛鶴なんていうキラキラネームとまでは言わないけれど珍しい方の名前の私を、臆することなくちゃん付けして呼んでくれる可愛い可愛い幼馴染。
怖がりで甘えん坊で、人懐っこい。それが当たり前に許されるレベルの美形。
とても優しいご家族から愛されて甘やかされて育った彼は、しかしながらやることはやる性格なので学業の方は成績抜群。
おまけに綺麗な顔立ちからは想像もつかないが、案外と身体も鍛えている。手先も器用で家事が得意。
「ねね、今日は手を繋いで帰ろっ」
「いいよー」
「やったー!」
禅くんはこんななので当然モテる。そりゃもうモテる。
一方で幼馴染の私は良くも悪くも平凡すぎるくらい平凡。
見た目も成績も中の中レベル。特技もない。
性格も特筆すべき点があるとは思えないくらい普通なはず。ただ、禅くんからはちょっと鈍いとは言われる。優しい禅くんにそう言われると考えるとよっぽど鈍いのかもしれない。
なので禅くんと一緒にいるとやっかみを受けることも多いけど、それでも離れたくないくらい大好きな幼馴染だ。
「あ、そうそう。今日はね、父さんも母さんも残業あんどホテルに泊まりだって」
「ふーん、大変だねぇ」
「姉ちゃんもその隙に彼氏のところに泊まり」
「へえ、ラブラブだねぇ」
「だから泊まりにおいでよ」
だから、という言葉はよくわからない。
しかし禅くんのところにお泊りするのなんていつものことなので素直に頷く。
「いいよー」
「…よかった」
「うん?」
「なんでもないよ」
にっこりと笑う禅くん。でもなんか、含みがある笑みな気がした。
まあしかし何を含んだ笑みかはわからないが、禅くんならば悪いようにはしないだろう。
そういえば、と思い出す。
先程禅くんが迎えに来るまで仲のいい友達に叱られていたのだ。幼馴染とはいえ、いい加減距離を置かないと彼氏ができないぞって。
禅くんへのこういう甘えが男の子を私から遠ざけているのかもしれないなぁとぼんやり思った。
「おかえりー」
「ただいまー」
禅くんにおかえりと言われてただいまと返す。
そのくらい禅くんの家には入り浸っているし、禅くんも同じくらい私の家に入り浸っていた。
「お部屋においでー」
「はーい」
そのまま二階に上がって禅くんの部屋に入った。
禅くんは誰もいないから気にしなくてもいいのにご丁寧に部屋に鍵をかける。
「今日は誰もいないのに鍵かけるの?」
「うん、ちょっとね。ねえ、雛鶴ちゃんさあ」
私に向かってにっこり笑っている禅くんは、どうしてだか雰囲気がピリピリしている気がした。
「なあに?」
「お友達と、彼氏がどうとか話してなかった?」
「え、あ、うん」
「いるの?彼氏。いつの間にできたの?俺聞いてないんだけど。どんな奴?どこを好きになったの?そもそもどうやって俺の目をかいくぐって近寄ってきたわけ?」
私は何を怒られているのだろう。
帰る直前の友達との会話が少し聞こえてしまって、変に誤解されて彼氏がいると思われたのはわかったけど怒ることだろうか。
もしかして、幼馴染としては彼氏がいると一番に報告を受けたかったとか?
そんなちっちゃな嫉妬でこんなに怒るなんて、禅くんはなんだかやっぱり可愛いなぁ。
「禅くんあのね、私の一番は禅くんだよ」
「は?いやでも」
「彼氏なんていないよ。彼氏が出来たらちゃんと禅くんに報告するし、彼氏が出来ても禅くんのこと蔑ろにしたりしないよ」
「…はぁ。雛鶴ちゃんは俺を喜ばせたいのかな。それともブチ切れさせたいのかな」
「んん?」
きょとんとする私に、禅くんはハグをする。
「ふふ、ハグはなんだか久しぶりな気がするね」
「流石に遠慮してたから」
「んー?」
「一応俺男だよ。遠慮するでしょ」
「禅くんならいつでもハグしていいよ?」
ぎゅうぎゅうと抱きしめる力が強くなる。
「うぐっ」
「雛鶴ちゃんほんとうにさぁ。俺頭おかしくなりそう。いや元々雛鶴ちゃんに関することだとおかしいけど。」
「ええ?」
「彼氏がいないのは嘘じゃなさそうだから、変な誤解してごめん。一番は俺っていうのも嬉しい、でも」
ぎゅーっと、苦しいほど抱きしめられてどうしたのかなと思う。
「骨折れそう…」
「あ、ご、ごめん」
やっと離してくれた。
でも、顔を見たら禅くんは泣きそうで。
「え、禅くん!?」
「俺、雛鶴ちゃんの口から彼氏が出来たなんて聞きたくない。一生」
「ええ?」
「俺が雛鶴ちゃんの彼氏になりたい」
突然の言葉にフリーズする。
「…」
「好きだよ、雛鶴ちゃん。ずっと好きだった。雛鶴ちゃんに言い寄ろうとする男は、見つけ次第脅しをかけるくらいには好き。今ではもう愛してる」
「え、待って彼氏が出来ない原因禅くんじゃん」
「そうだよ」
「そうだよってそんな自信満々に言われても」
なんということだ。
禅くんは優しいだけじゃなくて、実は危ない子だったらしい。
友達が禅くんから距離を置けと言ったのはこのことだったのだろうか。
まあ、離れる気はないけれども。
「ねえ、雛鶴ちゃんは俺じゃ嫌?」
「嫌ではないけど」
「だよね。じゃあ付き合おう?」
「そんななし崩し的な」
「お願いーっ!」
潤んだ瞳でお願い光線を受けた私は、思わず頷く。
私は禅くんのこれに弱いのだ。
「えへへ、やった!じゃあ今日から俺が彼氏ね!」
「その代わり浮気はダメだよ」
「他の女とか興味ないから大丈夫!」
「ええ…」
禅くんってば、お口が悪い。
禅くんに想いを寄せる子が多いのは、本人も自覚しているはずなのに。
「雛鶴ちゃんも浮気は諦めてね。させないから」
「いやしないけど…どうせ何をするにも禅くん優先なんだもん、ましてお付き合いするなら浮気なんかしてる暇ないでしょ」
「雛鶴ちゃん大好きー!」
またもやぎゅうぎゅうしてくれる禅くん、しかし今度は加減されているので苦しくはない。
「世界一幸せにするね!」
「ありがとう」
「俺はすでに世界一幸せっ!あ、結婚式はどうしようか。新婚旅行はどこに行く?子供は何人欲しい?」
「色々早いよ。ゆっくり考えようね」
すっかりテンションマックスな禅くんの頭をよしよしと撫でる。
なんだかんだで禅くんは大好きだし世界一大切だから、絆されるのも早いかもしれない。
そんな風に思っていた私は、まさか禅くんをもうすでに恋愛感情で好きになっていてそれを自覚させられる日が近いなんて思っても見なかった。
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