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アルデの実験の始まり、第三回探査

※この話はフィクションです。実際の人物や団体などとは一切関係ありません。

 それから数日は、特に何も起きなかった。それぞれ、ジョージ・エヴァンスは探査ローバーの点検とドリル付き潜水艦のセッティング、ルイス・エヴァンスとアルベルト・ホフマンは畑の拡張および麦やジャガイモだけでなく、レタスやモヤシなどの水耕栽培の開始、デヴィッド・アンダーソンは地球との通信と、ガンセクトを捕えるための網の設計の注文、アルベルト・ホフマンとの通信業務の引き継ぎ、立花里香は藻の研究をしていた。


 ローバーによる探査ももう一度行われ、その時はルイス・エヴァンスが運転手、アルベルト・ホフマンと立花里香が探査員であった。前回とは逆の方向に向かい、ローバーにガンセクトを捕えるための網も設置していたが、何も収穫を得ることができなかった。ルイスの性格上、やや慎重すぎたのかもしれないと結論づけられた。


 里香は基地の研究室で、アルデが何を栄養に成長しているかの研究をはじめた。研究室は基地の外側にも面しており、外気温と同程度の気温の区画がある。外気温は平均-163℃で、何もかもが凍ってしまう寒さだ。部屋の外には防寒服がかけてあり、それを着て作業する。

 水だけで作った氷5個の上に、新しく採取したアルデを丁寧に置いた。

 それぞれのアルデに、ケイ酸塩岩石、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、二酸化硫黄を水に溶かしたものを、少量ずつかけた。全て、氷の成分を分析した際に検出された物質だ。水だけをかけたものもある。かけた物質がわかるよう、それぞれにラベルを貼った。

 そして、それぞれを密閉容器に入れ、酸素濃度がガニメデの外気と同程度になるように調整した。

「これでいいかしら……植える氷に、物質を溶かした方がよかったような気がしてきたわね。次はそうしましょう。根はないけれど、氷に接している部分から栄養を補給しているかもしれないわ。いや、この形式でも下まできっと染み込むし……大丈夫かもしれない……何もわからないわね。ちゃんと成長するのよ。きっと大丈夫。」

 里香は、不安を隠すようにそう言った。

 この間、成分検査機にかけたアルデの成分は、未知のアミノ酸(アルデが生えていた部分の氷の成分検査で検出された物と同一のものと、そうでないもの)、水、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸、二酸化硫黄、三酸化硫黄、酸素という構成だった。

 成分を振り返り、数日前に書いたスケッチを見て、どの構造に何が含まれているのかを考え始めたが、断定できるようなものはなかった。


 休みの日の翌日。今日のローバー探査は、運転手がジョージ・エヴァンス、探査員がデヴィッド・アンダーソンと立花里香だ。通信士の仕事を、アルベルト・ホフマンが引き継いだ形である。

「じゃあ、気をつけてね。俺が留守番だから、体調に異変があれば、すぐ通信を入れるように。健康第一だよ!」

「宇宙でそんなに簡単に何かが見つかるとは思わず、安全第一で、みんな帰ってきてね。」

「もちろんだ。だが新たな発見はしてくるぞ?なんせ俺が運転手だからな。」

「私も新たな発見に期待しています。今回は同行できるので、より楽しみですね。」

「ルイスとアルベルトの言う通り、安全・健康第一でいきましょう。」


 1回目と2回目の探査で行った方角とはまた違う方角に向けて、ローバーはゆっくりと動き出した。

「今日は若干スピード上げてくか。穴じゃなくとも、何か発見欲しいよな。」

 ジョージはそう言うと、時速15kmほどのスピードまで上げて走りだした。

「そんなにスピードを出したら、何か踏んづけた時大変じゃない?」

「大丈夫だ。踏んでバウンドするようなものは避けるから。」

「本当に大丈夫かしら……」

「運転手の言うことを信じましょう。私は問題ないと思います。より広範囲を探査するべきかと。」

「それもそうね。」


 しばらくそんな調子で走った時のこと。ジョージが目を凝らして言った。

「黒い点……ガンセクトだな!よし、捕まえるぞ。」

 ジョージは急ハンドルを切り、ローバーをガンセクトの進行方向に向けた。

「もう!びっくりした。相変わらずよく見えるわね。全然わかんないわ。」

「目がいいからな。視力は2を超えてる。」

「確かにそういうデータは見ましたが、この場合注意力の方が凄まじいのだと、私は思います。」


 何度か急ハンドルを切り、避けようとしたガンセクトを、ローバーの後ろに張られた網に捕捉した。

「よっしゃ!捕まえた。逃げないうちに採取袋に入れてくれ。」

 ジョージはそう言ってローバーを止めた。その言葉を聞き、里香とデヴィッドはローバーの外に出た。

「本当にいるわ……流石ね。」

 里香はそう言いながら、採取袋を広げ、潰さないようにガンセクトを採取袋に入れた。

「強いて言えばコガネムシに似ているでしょうか。色は黄味がかった黒ですね。」

「この星の生物は、大体黄味がかっているような気がするわね。二酸化硫黄か硫酸系の色かしら。」

「そうかもしれませんね。その辺りの物質は、探査機ガリレオの報告で存在が認知されていますから。」


 ローバーに戻ると、里香は捕まえたガンセクトをジョージにも見せた。

「近くで見るとちょっとキモいな。虫なんてそんなもんか。研究頼んだぞ。」

「もちろんよ。それは私の仕事だわ。」

「基地に通信を入れておきます。ガンセクトを捕まえました。地球の生物で言えばコガネムシに似ていて、色は黄味がかった黒です。」

『おぉ!早速新たな発見だね。地球にもそう通信を入れておくよ。』

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