ガニアン、ガンセクト、アルデ
※この話はフィクションです。実際の人物や団体などとは一切関係ありません。
触手の生命体の名前が決まりました。
「ガーニアン、ガニアン、ガリエン、ガリアン……うーん……」
「どうしたの?アルベルト」
「流石にそろそろ、あの触手の集合体の名前を決めた方がいいんじゃないかと思ってねぇ。いちいち触手の集合体なんて、長すぎる。ガニメデ・エイリアンを略して、色々考えてるんだ。」
「それなら、最初に見かけたあの虫みたいなやつは、ガンセクトだな。ガニメデ・インセクト、略してガンセクトだ。」
「いいんじゃない?名前っていうのは、基本的に第一発見者に命名権があるからねぇ。ジョージはどれがいいかい?」
「ガーニアンがそれっぽいけど、語感的にはガニアンが呼びやすいな。」
「私はガリアンがいいと思うわ。基地にある2人にも聞いてみた方がいいんじゃない?」
「そうだねぇ。通信を入れようか。」
『私はどれでも構いません。皆さんで決めてください。』
『僕は……ガーニアンもいいけど、ガニアンって、ちょっと可愛い感じがしていいかも。アイツはあんまり可愛いって感じじゃなかったけど。』
「……ということだ。多数決でガニアンに決まりだね。この星の生命体、触手の集合体の名前はガニアンだ。」
「いいと思うぞ。呼びやすいし。名前ってのは、結局呼びやすいのが1番だ。」
「確かにそうだねぇ。ガニアン、いい名前じゃないか。」
アルベルトは笑いながらそう言った。この星の知的生命体の名前が決まった瞬間である。
『では地球に、この星の生命体の名前がガニアンに決まったと、通信しておきます。向こうでも、少々混乱が起こっていたようですので。』
「あ〜、やっぱりか。名前っていうのは、早めに決めておいたほうがいいねぇ。ちなみに、初邂逅時の通信の解析は、どんな調子なんだい?」
『難航しているようです。わかっているのは、最初の部分は「あれは……」という意味ではないかという点だけですね。』
「やっぱりそうだよねぇ。どれぐらいでわかるだろう。」
『未知の言語ですし、電波ですので、人間には想像もつかない法則性を持つ可能性もあります。私にはどれぐらいで判別できるかは、わかりませんね。』
「まあそうだろうとは思っていたよ。次に会う時までに、ある程度解析が済むといいけれど。難航している理由などはわかるかい?」
『……途中から、何かが被せてきたかのように、電波の波が乱れているようです。それで、より難航しているようですね。』
「ガニアンがもう一体近くにいたのかな?」
『そうかもしれませんね。私達が立っていた真下にあるのも、もちろん海なので、そこにもう一体ガニアンがいたのかもしれません。』
デヴィッドの顔は通信ではわからないが、眉間に皺を寄せているであろうことは、探査員全員に伝わった。それほどまでに、どこか嫌そうな雰囲気があったのだ。
『では、また何か新たな発見があることを願っています。願うなど、私の柄ではないと思われるかもしれませんが。』
「そんなことはないよ。人間っていうのは、何かあれば神か何かに願うものだからねぇ。」
アルベルトは、そう言って通信を切った。
「デヴィッドの奴、悩みでもあるのか?」
「生きている限り、悩みなんてつきないものさ。みんなにも、何かしら悩んでいることはあるだろう?」
「そうね。私もずっと悩んでいることがあるわ。ちょっとこの場では言いたくないけれど……」
「ほらね。サンプルが1人だと信憑性ないかもしれないけど、人間そんなもんさ。悩みがなくなるのは死んだ後だけだよ。」
「そうだな。俺も悩みがないわけじゃないような気もしてきた。」
「ジョージは結構気楽に生きてそうだよねぇ。何か秘訣でもあるのかい?」
「目の前の出来事に集中することだな。過去を振り返って反省することも、未来の為に努力することも重要だが、結局目の前の問題を解決しないと、前には進めねぇ。」
「名言みたいね。」
「当たり前のことだけど、間違いなく名言だねぇ。」
ローバーは何事もなく、基地に到着した。
「おかえりなさい!トラブルなく帰ってきてくれて、僕はうれしいよ。」
「おう、ただいま。新しい発見もあったしな。」
「私はそれが一番いいことだと思います。次も期待していますよ。いつかは私も同行したいですが……」
「通信士の仕事を教えてくれれば、俺が通信を担当してもいいよ。そしたら君もいけるだろうねぇ。」
「採取した氷のかけらを、宇宙船の成分検査機にかけてくるわね。昨日採取した、氷のかけらの成分検査の結果も出てるでしょうし。」
里香はそう言うと、もうほとんど融けかけている、氷のかけらを持って宇宙船に向かった。里香以外のみんなは、基地の中に入っていった。
〈トムソン号〉に入って、宇宙服を脱ぐと、里香は研究所の成分検査機の元へ向かった。
結果は出ていた。水分が86%で、あとはケイ酸塩岩石、塩化物などだった。全てが細かく違うが、0.1%程度のブレなら、採取場所が違うための誤差と考えても、おそらく問題ないだろうと、里香は考えた。0.1%以上変化していたのは、有機化合物のアミノ酸だ。0.8%増えていた。アミノ酸は、一般的にはタンパク質を分解してできるもので、生物が生きるのに必須とされている。地球上では見られない、初発見のアミノ酸だった。
「アミノ酸……やっぱり生物ではあるのね。クロロフィル(光合成色素)やデンプンはないあたり、地球の植物や藻とは、根本から大きく違うのかしら。ガニメデの藻も、成分検査すればよかったわ。」
探査で採取した氷のかけらと、ガニメデの藻を成分検査機にかけ、タブレットに結果と考察を入力しながら、里香は考え込んでいた。
「藻類はエルジィ(Algae)だから……ガニメデ・エルジィ……ガルジィ……この星のものが、なんでもガから始まるのはわかりにくいわね。エルジィ・ガニメデ……エルデ……アルデ。アルデがいいかしら。」
そう、名前である。第一発見者はアルベルトというか、以前に観測した人工探査機かもしれないが、本格的に研究を始めたのは里香なので、自分が決めるのが妥当だろうと思った。
「みんな、ガニメデの藻の名前を考えたわ。この星のものがなんでもガから始まるのはわかりにくいかと思って、エルジィ・ガニメデを略して、エルデにしようかと思ったけど、発音を考えてアルデにしたわ。」
『いいと思うよ。エルデはドイツ語だと、大地って意味があるねぇ。でも綴りは違うだろう?ドイツ語の大地は、Erdeだよ。』
「アルデはAldeになるわ。問題なさそうね。」
『いいんじゃねぇか?ガニアンだのガンセクトだの、なんでも頭文字がGaになるのはどうかと思ってたしな。』
『僕も問題ないと思うよ。』
『ガニメデの藻の名前が決まったのですね。アルデ。そう地球にも通信を入れます。』