地球・N○SAにて
※この話はフィクションです。実際の人物や団体などとは一切関係ありません。
地球の今の話です。
2141年3月
「地球にいるガニアンとは、まだ連絡ができていないのですか?」
「調査はクソほど難航している。主な海溝上で船から電波を送っているが、返ってくる電波パターンが木星のものとまあまあ違う。それにさ、まだ居ると確定したわけでもないよな?」
「何を言っているのです。あの電波解析結果は見ましたよね?『君らの母星では、侵略者が恐れられていると聞いたと伝えられている』ですよ!ガニメデにいるガニアンは地球にいるガニアンとも、交流を持っていたと断言してもいい。今も交流があるかどうかは定かではないですが。」
「今まで海からそんなよくわかんねぇ電波が出てたなんてことあったか?」
「そんなことはどうだっていいんです。我々が電波を扱いはじめたのは1895年。250年近く前からです。それ以前は交流があったと考えるのが妥当でしょう。」
「まあその辺は俺もそう思う。海溝上で海中に向かって電波を発すると、別の電波が返ってくるからな。この電波をまた解読せにゃならんだろうが。」
「暗号解読班とAIを存分に使ってください。早くしなければ……もう手遅れかもしれませんが……探査員たちは楽観的すぎる……人類全ての電波が傍受されているのだとしたら……」
ガニメデ有人探査計画の責任者はいつも冷静だが、ガニアンと本格的な接触をしてからはソワソワと落ち着きがない様子だ。異星人と交流をもつことの危険性を、正しく理解しているのだろう。そう思いながら、副責任者は暗号解読班の部屋に向かった。責任者の部屋で掃除をしていた、少女のように小さな女のことなど、気にも留めなかった。
暗号解読班も難航していたが、ガニメデのガニアンの電波を解読していた時ほどではなかった。
「進捗どうだ?」
「ガニアンの地球方言とでもいいましょうかねぇ、多少は違いますが、我々全員でつきっきりになれば読めなくはないっすね。法則性を見つけたら、一気にほぼ解決まで行くかと。ちゅーわけで、今AIに法則性を探らせてるところっす。」
「そろそろできるってことか?」
「いやぁ、このAIってのが曲者でしてねぇ。いつ終わるか読めんのですわ。すぐ終わる時もありゃ、3時間かかったなんてことも……でも3時間で済むあたり、AI様々っすね〜!こいつがないころにゃ、人間様が手作業でやってたんだろ?気が遠くなるわな!」
暗号解読班のトップが、缶コーヒーを片手にガハハと笑う。
そう一言二言話していると、巨大なサーバーに繋がったパソコンから、ピーと音が鳴った。
「お、おわったぜぃ。なになに……なるほど、これをプログラミングに組み込めば、ガニアン地球方言電波変換システムも翻訳システムもできるな。プログラミング班んとこ行ってくるわ。」
そういうと暗号解読班トップはパソコンを持ち、颯爽と部屋を飛び出した。副責任者は反応に遅れ、部屋を出た頃にはもう背中も見えなかった。
副責任者がプログラミング班の元に着いた時には、もう地球ガニアンの電波解析が進められていた。
「早いな、もう電波変換システムができたのか?」
「私の推定によりますと、すぐに電波の法則性が解明すると思われましたので、法則性を入力すれば解析が進むように動くプログラミングを事前に組みました。テストも済ませていたので、問題点も挙がらないでしょう。」
「仕事早いな。ナイス!」
ピーという電子音がして、地球ガニアンからの返答電波が解析終了した。
『変なイントネーションだな。それが今の母星の我らの電波ということになるのか。』
『交流を持ってもいい気持ちはあるよ。危害を加えられなければだけどね。』
『君たちの潜水艦の技術では、我らが住んでいるところまでは泳いで来られないんじゃないか?』
『侵略?なぜそのようなことをする必要がある?我らは海でしか生きられないのだぞ。陸のことなど興味はない。』
『なぜここにいるのか?遠い遠い祖先が、母星から〈バシュッ〉した際に勢い余って、母星やその周辺の星の力も振り切ってしまってな。運良く水のある星に不時着できたのが、我らの祖先というわけだ。それからどれほど経った時かわからないが、もう一体祖先が不時着して、ここで命を繋いでいる。我らの時間の感覚は君たちより長い。それでも、それらがどれほど前のことなのかはわからない。』
『あぁ、確かに、我らはこの星のあらゆる電波を受け取っているな。だからといって、それをどうしようとも思わないが。興味もない。何か使い道でもあるのか?あぁそうだ、音楽の電波は確かに心地が良いな。母星の年末には、我ら皆で歌うと伝えられている。1度でいいから感じてみたいな。まあ、不可能なことに希望は持たないが。』
『そうだな、君たちが電波を使い始めてから、我らは母星との連絡をやめた。我らは君たちに干渉されたくなかったのでな。』
「私の推定ですと、海の中と自分たちの生活しか興味がないように感じ取れます。」
「電波の傍受はしているが、それをしたところで密通する相手もいねーんだろうな。責任者にこれ持っていくぞ?」
「お願いします。」
解析終了の喜びを噛み締めながら、副責任者はパソコンを持って責任者の元に向かった。
「推定地球ガニアンの電波解析が終わった。これだ。」
「早いですね。えー……やはり電波の傍受はされていますよね。このことを中や露が知ったら、必ず利用しようとしてくるでしょう。対策を取らなければ。」
「いや、これはプログラミング責任者も言っていたことなんだが、地球ガニアンは海の中と自分たちの生活しか興味がないようだ。利用しようとしても、対価が用意できないんじゃねぇか?」
「対価など考えない者もいます。利用できるものはトコトン利用するような。それに、地球ガニアンが何を対価に欲するのかを理解するのは、これからの交流次第でしょう。」
「ひとまず、地球にガニアンがいて、交流が持てるってことは、最高機密だな。」
「当然です。」




