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2138年 自覚した恋

※この話はフィクションです。実際の人物や団体などとは一切関係ありません。

 宇宙船内の回想回です。

2138年 3月

――3年前

 里香は、まだ悶々とする気持ちを抱えたまま、研究活動や趣味を行っていた、研究自体は長い目で見なきゃいけないものだから、進捗がないのはいいとして、趣味はどうだろう。居住区のそれぞれに与えられた個室で、頭を抱えていた。描くものが何も思いつかない。手癖で何か描こうとすると、流線型の謎の物体しかできあがらない。別のものを描こうとしたはずなのに、ハッとして見たら流線型がまた描かれているのだ。

「流れる……流れたい……ってこと……?」

 自分でも意味がわからないので、意味がわからないまま口に出してみた。

「流れる……流れ……川……変われ……変わりたい……?」

 私って変わりたいのかしら。でも、どんな風に?

 その時に頭に浮かんできたのは、何故かアルベルト・ホフマンだった。

「いやなんでよ。アルベルトとどうなりたいって言うのよ。」


 その時、里香はハッとした。脳天に雷が落ちたかのような感覚だった。

 青天の霹靂。

 そっか、私、アルベルトのことが好きなんだ。

 アルベルトに謎の仄めかしをされてから2年、ようやくわかった。


 でも、大きな問題がある。宇宙飛行士は恋愛禁止なのだ。研究活動や探査の任務に支障が出るからである。


 里香は悩んだ。1ヶ月ほど悩み、1人で悩んだところで、解決策が出てくるはずもないと、やっと気付いた。

 誰に相談するかで、また深く悩んだ。ジョージ・エヴァンスはそういうのに無頓着そう。というかパイロット兄弟は基本的に忙しいから、こういうくだらない相談には向いていない。デヴィッド・アンダーソン……?あの人に繊細な心の質問をぶつけるのは、カラスに道を聞くレベルのことだと思う。となるとやっぱり……



 里香はアルベルト・ホフマンのところにいった。月と同程度の重力の低重力区画である、居住区のテーブルで、何か医療器具のメンテナンスをしているようだった。

「アルベルト……」

「あぁ、リカ。どうしたんだい?」


 来てみたはいいものの、何をどう言えばいいのかも思いつかない。里香は手で顔を覆い、頭をゆっくりあちこちに傾けた。

「深刻な悩みがありそうだね。とりあえず座ったらどうだい?」

 アルベルトに勧められ、里香は椅子に座ってすらいなかったことを思い出した。

「えーーっとね……とても言い難いことなんだけど……」

「わかってるよ。ゆっくりでいいし、言える範囲でいいから言ってごらん。」


 里香はギュッと目を瞑り、意を決して口に出す。

「私、アルベルトのことが好きみたい。」

「そうなんだね。ありがとう!うれしいよ。」

 そっと目を開くと、アルベルトはどういうわけか、わかっていたかのような顔をしている。

「え、知ってた?」

「流石に隠せないか。だって里香、2年前に俺に相談したじゃないか。その時から思ってたよぉ。里香は俺のことが好きなんだろうな〜って。」

「えぇーー!なんで教えてくれなかったのよ。これまですっごい悩んだのよ?」

「そりゃ仕方ないよ。あなたを見ると心臓がギュッと痛むんですって言った相手に、それは俺のことが好きってことだね、って言われて信じられるかい?これは自分で気付かなきゃ意味がないことなんだ。前も言っただろぅ?」

「そういえばそうだったわね……確かに自分で気付かないと意味がなかったかも……でも時間もエネルギーも、とっても無駄遣いしたわ。」

「無駄なんかじゃないさ。心を育てるのはいつだって大変だけど、いつだって遅いってことはない。それで……」


 アルベルトも何か言い出そうとしているが、緊張したように机の上の医療器具をグッと握った。かと思えば、おもむろに医療器具を片付け始める。片付けおわるまで2、3分の間、里香はじっと待っていた。


「それでさ。俺も里香のこと、好きなんだけど……お付き合いをしないかい?」

「はへぇっ?!」

 思わぬ言葉に変な声を上げてしまった。

「デヴィッドに地球に聞いてもらったんだ。もし好き合ってる男女がいたら、カップルになってもいいかって。好き合っている男女をカップルにしないのは、それはそれで感情の行き場に困るだろうということで、オッケーが出てるよ。」

「えぇぇぇ?!!宇宙飛行士の原則は?!」

「そんなの、こんな長旅では臨機応変の方が上だよ。ちなみに、子供を産むとしたら、ガニメデを出発する直前か、帰りの船の中ならいいってことになってるよ。」

 話が早すぎる!!!!頭がついていかない!!

「こ、こ子供?!宇宙空間で?!?!」

「地球からこれほど離れた宇宙空間で生まれた赤ちゃんが、どんな影響を受けるのか調べたいんだってさ。国際宇宙ステーションで生まれた赤ちゃんが、どんな影響を受けるかの実験でも、生後7年間、一切ステーションから出ていない宇宙ベィビーがいるんだよぉ。基地で畑を作るから、3Dプリンターで成分合成機を作れば、イモや麦からミルクに近いものが作れそうだってよ。」

「それにしても……大変なことになるわよ?出生後のワクチンとかあるの?」

「ワクチン、あるんだなこれが。NASAの考えることは、一個人には計り知れないね。考えてみて。里香は今33歳、俺は35歳。ガニメデに到着するのが2年後、探査が3年で、地球に帰り着くのはまた更に5年後。地球に帰り着いたら、里香は43歳、俺は45歳、地球に帰ってから、子供を産むなんて、どう考えても無理だろう?」

「研究活動とかできなくなるわよ?というか……今の時点でも不妊治療とかしないと、子供なんてできないんじゃないかしら……」

「帰りの船でやることなんて、ガニメデで捕まえた生き物の保守管理ぐらいだろう?それぐらいならできるさ。最悪〈タロ〉に任せてしまってもいいぐらいの仕事だ。赤ちゃんをあやす装置だって、3Dプリンターで作れるよぉ?そして、君が今飲んでいる、生理を完全に止める薬は、排卵を止める作用もある。卵胞も卵子も衰えていないから、大丈夫なはずだよ。」

「そういえば、あの薬は妊娠可能年齢を飛躍的に引き上げたんだったわね。でも、それでも研究するのが科学者なのに……」

「君と子供の方が大切だよ。さて……どうする?」


 アルベルトは首を傾げ、優しい微笑みで里香を見ていた。

 里香は、また顔を覆い、頭をあちこちに傾けている。しばらく俯くと、パッと顔を上げた。

「よ、よろしく……お願いします……」

「やった!うれしいなぁ。里香、大好きだよ、ありがとう。」


 アルベルトは椅子から立ち上がり、ふわりと机を飛び越えて里香の元にきた。そして、椅子に座ったままの里香を、正面から抱きしめた。

「ひゅぇっ……びっくりした……」

「旅路は長い。ゆっくり、ゆっくり愛を深めていこうねぇ。」

 里香はこの胸のドキドキが伝わらないか心配になったが、ゆっくりとアルベルトの背中に腕を回した。

 実は付き合っていました。船員には隠しているつもりですが、なんだかんだバレてます。バレていそうだということにもお互い気付いていますが、隠していることにしています。


 生理を完全に止める薬、あると良いですよね。少子化が進み、妊娠可能年齢を引き上げる研究が進められたということで、低容量ピルは過去のものになりました。


 里香が手癖で描いていた、流線型の謎の物体は、〈トムソン号〉を外から見た形でした。船外活動はしないのに、何故か手癖で描いてしまっていました。心の迷いの象徴だったのかもしれません。

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