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パイロット兄弟の昔と未来の話

※この話はフィクションです。実際の人物や団体などとは一切関係ありません。

 立花里香とアルベルト・ホフマンが、サーメデの研究をしている間に、ジョージ・エヴァンスは潜水艦のメンテナンスを行い、ルイス・エヴァンスはその側で、ガニメデの海水が真水に濾過できるかを試していた。潜水艦での探査隊が基地に帰還した後、ジョージとルイスは燃料や濾過装置などをローバーに載せて、潜水艦の側まで戻ってきていたのだ。

 ルイスは、潜水艦が伝って上がってきたロープの根本に、濾過装置とタンクを設置した。中の水が凍らないよう、タンクごと断熱素材で覆われた大きな装置だ。ロープは水が通るように中に空洞があり、水で満たされた状態であれば、潜水艦が伝って登ってきても問題ない強度になる。水で満たされていなくても登れるが、何度もそんなことを繰り返すと、いずれ千切れてしまうだろう。

 海水の濾過は全く問題はなく、綺麗な真水に浄化することができた。飲用水として使っても問題はなさそうだ。


「ふぅ……これで水問題も解決だね。宇宙船内だと狭いから水分のリサイクル率は99%だけど、基地は広いから、せいぜい85%ぐらいだし。」

「おーう、そっちおわったか。こっちも一通りメンテ完了だ。エンジンの性能良くしねぇと、これから深海まで探査すんの無理そうだなぁ。」

「燃料タンクを大きくしてもいいんじゃない?ガソリンは水より軽いし、重量的には問題ないでしょ。」

「ガソリンの量も限りがあるからなぁ。タンクだけ改良しても、エンジン改良しなきゃガソリンが足んねぇ。」

「それもそうだねぇ……両方必要だね。基地に帰って、デヴィッドにその辺の連絡を頼もうか。」

 2人は会話しながらローバーに乗り込み、ルイスの運転でゆっくり発進した。


「3Dプリンターで作れる改良エンジンとタンクの設計図、頼むか。金属でも作れるなんて、宇宙飛行士目指すまでは知らなかったな。」

「もう、工学の時に学んだでしょ。あぁでもそっか、兄さんはタクシー運転手だったもんね。」

「いやぁ、家は貧乏だったから、高卒でタクシー始めたんだったなぁ。大学も行きたかったし、必死で9年稼いで、今となっては宇宙飛行士だもんな。遠くまで来たもんだ。」

「兄さんのタクシー、評判良かったもんね。早く着くのに運転は丁寧ってさ。」

「お得意さんがついてくれて感謝だな。じゃなきゃ27歳で大学には行けなかったわ。」


「ところで今更だけど、なんで宇宙飛行士になろうと思ったの?」

「お得意さんに宇宙の学者さんがいてな。その人の話がすっげぇ面白かったんだ。俺でもできる宇宙の仕事ってなんだろうって考えた時、やっぱパイロットかなって。」

「それで本当になっちゃうんだからすごいよ。僕は飛行機パイロット5年やってたし、宇宙船は飛行機のコックピットに似通ったところも多いから、慣れるのはそんなに大変じゃなかったけど、車から宇宙船って、全然違うでしょ?」

「まあそこは……意外と才能あったのかもな?空間認識能力が高いとか目が良いとか、宇宙飛行士になる試験の後に言われたし。それこそ、お前はなんで宇宙飛行士になろうと思ったんだよ。」

「子供の頃からの夢だったんだ。家はほら……お金なかったから、そんなこと口が裂けても言えなかったけど。子供ながらに、宇宙飛行士になるのにはお金がいることぐらい、理解はできたし。」

「飛行機パイロットもだいぶ金かかるけどな。まぁお前頭いいし、2年制大学(准学士号)でパイロットになっちまったから、まだ金かからなかった方かもな。」

「そりゃあ必死だったよ。できるだけ早く卒業していっぱい稼いで、親にもいい思いさせてあげたいし、宇宙飛行士にもなりたいし。」

「家族全員でフレンチ行った時のこと、覚えてるか?母さんずーっと泣いてたし、オヤジも最後まで泣きそうだったよな。味したんかなぁ。」

 ジョージは笑いながら、懐かしそうに語った。

「覚えてるに決まってるじゃん。2人でお父さんとお母さんにプレゼントしたんだよね。いい思い出だなぁ。正直僕も味とか覚えてないけど……お父さんとお母さんの顔が嬉しそうで嬉しそうで……」


「地球に帰ったら、オヤジ達と旅行でもするか。アメリカじゃなくて、どっか別の国に連れてってやろうぜ。」

「そうだね!お母さん、いつか日本に行ってみたいって言ってたし、アジア旅行がいいかもね。地球に帰還するのが2149年になるだろうから、あと8年後か。え、お父さん73歳になるじゃん!生きててほしいなぁ。」

「医療技術の発展は宇宙関係よりすげぇからな、それぐらいなら生きてるんじゃねぇか?」

「でも人生なんて何があるかわかんないから……僕らの給料、両親に半分ぐらい振り込んでおいてもらうように頼まない?」

「そりゃいいな。金がなくて困るようなことがあったなら、俺たちの金使ってもらった方が嬉しいわ。宇宙にいたって使い道ねぇもんな。」

「デヴィッドにそれも連絡してくれるように頼もう。いや、これに関しては個人的なことだから、僕たちが自分でやった方がいいかな?」

「デヴィッド、あんまり他人に通信機器触らせたくなさそうだったじゃねぇか。いやでも、そういやアルベルトに通信業務代わったりもしてたな……ならいけるか。」

「そうだね。病気になっても、僕たちが稼いだお金があれば治せるぐらい、振り込んでもらおう。」

「メッセージつきでな。『地球に帰ったら海外旅行連れてくから、健康に気をつけて待ってな。俺たちの金で野菜いっぱい食って、病気になったら良い病院かかってくれ。』って感じでどうだ?」

「もうちょっと丁寧な文章の方がいいと思うな。でも、概ねそんな感じでいいんじゃない?」

 2人はメッセージの内容を話し合いながら、基地に辿り着いた。

 年齢の話が出てきたので、現時点(2141年)の全員の年齢を載せておきます。


ジョージ・エヴァンス 42歳

ルイス・エヴァンス 40歳

デヴィッド・アンダーソン 41歳

立花里香 36歳

アルベルト・ホフマン 38歳

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