サーメデの研究
※この話はフィクションです。実際の人物や団体などとは一切関係ありません。
ちょっと難しすぎる内容になっちゃいました。
難しすぎるところは、流し読みしていただいても、今後の展開には、さほど影響はありません。
諸事情により一部書き換えました。
驚きの交流と海中初探査の翌日。
立花里香とアルベルト・ホフマンは、室温0度に設定した研究室で、防寒具を着て、捕まえた魚の研究を始めた。
「海の水温が0度前後でよかったね。基地の一気圧の環境下でも、不純物が入っていたら液体のままだ。海水も何が入ってるかわからないから、それぞれの水槽に入れられる分だけは持ち込んだけど、氷の圧がかかっていたはずだから、魚たちが生き延びてくれるかはわからないねぇ。」
「貴重な資料をそう簡単に死なせるわけにはいかないわ。エサってどうすればいいんでしょう……」
「研究者としては反則だけど、シノノメにその辺も聞いちゃおうかぁ。」
[シノノメ、今から捕まえた生物の研究を始めるんだけど、貴重な資料を死なせるわけにはいかないんだ。今回捕まえた魚たちは、何をどれぐらい食べて生きているのかな?]
『サーメデは群れで生きているのでな。何日かに一度狩りをして、弱っているものが肉を、それ以外は体液を食べているようだ。細長いイールメデは、小さい魚を何日かに一度食べていたはずだ。もじゃもじゃのガニメデヘアリーも小さい魚か、プランクトンを何日かに一度食べていたはずだ。スパイメデは触覚が放射状に伸びていて、中心が透明の生物だっただろうか。おそらくプランクトンを食べているのではと言われている。』
[ありがとう!とても助かったよ。体液に酸素が多く含まれているってことかな?そして、イールメデの小さい魚というのは、サーメデでもいいのかな?]
『おそらくそうではなかろうかというのが、最近の我々の一説だ。生物の肉を食べず、体液だけ吸って生きている生物もいるのでな。イールメデはサーメデも食べるのではないだろうか。サーメデもそれなりに小さい故な。しかし、他の捕食対象よりはやや大きいであろうから、間隔は長くてもいいかもしれぬな。』
[蚊や寄生虫みたいなのもいるんだね。ありがとう。参考になったよ。]
「ということらしい。全体的に省エネだね。サーメデはいっぱい取れたから、1匹を犠牲にして血で生かすとして……プランクトンを食べているスパイメデはどうしよう?」
「カニバリズムみたいでちょっと悪いけど、地球の生物で酸素を多く蓄えているものなんていないものね。アルデが結局プランクトンだったから、地上に群生しているアルデをほぐすか、探査毎にアルデバクテリアを採取すればいいんじゃないかしら。アルデバクテリア自体の培養もできればより良いわね。」
「地球の生物で酸素を多く蓄えているもの……もしかしてだけど、俺たちの血が使えるんじゃないか?動脈流の赤血球は、まさしく酸素を結合させて貯蔵しているとも言える。」
「あぁ!その発想はなかったわ。サーメデの血を研究して、どのような仕組みで酸素を捉えているのか調べましょう。」
里香とアルベルトは、5匹捕まえることができたサーメデのうち1匹を慎重に解剖した。サーメデの外見は、サバのような形状で目はなく、銀色で体の表面は凸凹している。ヒレが生えているあたりから、何本も長い触覚のようなものが伸びている。
口は小さな牙が並んでおり、口の両側をよく見ると、黒色のひだ状になっている部分があった。おそらく鼻のようなものだろうと、2人は予想した。解剖してみると、口の奥には、細かいフィルター状のエラのようなものもある。エラの後ろには、青黒い筋肉質な小さな心臓があった。ヘモシアニンなのだろうか?胃は細長く、腸はない。エラも胃も青かった。造血器官なのか貯血器官なのか判別のつかない真っ青な器官もあった。地球の魚だと脾臓にあたる器官だろうか。骨はあったが、イワシやサンマのように細く頼りない骨だった。背骨は、中が空洞になっているようだ。脳はあったが、地球のどの魚とも似ていない形をしていた。解剖で切れてしまったが、触角から伸びてきているのであろう管が6本あった。
触角のようなものは、背鰭から2本、尾鰭から2本、胸鰭から2本伸びており、その根本は体内に少し入り込んでいた。根本の周りは青く、細かい組織が整然と並んでいるようだが、細かすぎてよくわからない。これで水流の流れを察知して、魚群を作ったり、捕食者から逃げたりしているのだろう。
体液も一滴残さず回収した。遠心分離機にかけ、成分を分ける。透き通った緑青色の血漿や組織液らしきもの、青紫色の血球や細胞破片らしきものに分かれた。血球の分量がかなり多い。別で取っておいた血液も遠心分離機にかけると、薄青色の血漿らしきものが40%、青紫色の血球らしきものが60%だった。ちなみに、人間の血液の成分割合は、血漿が55%、血球が45%である。
里香は、血球をひと匙とると、顕微鏡で観察を始めた。人間の赤血球とは違って、青紫色や灰青色で、円形で真ん中が窪んでいた。地球のヘモシアニンは血漿に溶け込み血球がない。この青血球のことを、シアノサイトと呼ぶことにした。里香はシアノサイトの内部構造を調べたくなったが、方法を忘れてしまっていたため、どうしようかと思っていた。
里香がシアノサイトを観察している間、アルベルトは血漿を観察していた。血漿も血球も体液も、不思議なことに0度の研究室でも凍らない。脂などを多く含んでいるのだろうか。血漿の中には小さな粒が混ざっていた。血漿だけを分けて観察していると、空気に近い部分から段々と固まっていっていた。アルベルトは、血漿を成分検査機にかけることにした。
「ふぅ……謎だらけね。でもこれだけはほぼ確実よ。この星の生物の血液に流れているのは、銅と酸素を結合させる、ヘモシアニンだってこと。」
「それはそうだけど、骨が折れるね。実際折れそうなほど細い骨で、解剖の手が震えたよ。」
「あと、サーメデの血球をシアノサイトと名付けたの。それでシアノサイトの内部構造を調べたいんだけれど、どうやって調べればいいんだったかしら。」
「それなら電子顕微鏡でいいんじゃないかなぁ。準備がちょっと大変だけど、内部構造はわかると思うよ。」
「あ、そうよね、そうだったわ。なんで忘れてたのかしら。そうしましょう!」
スランプになっていました。
大変だった……難産でした。