イールメデ・ガニメデヘアリー・スパイメデ
※この話はフィクションです。実際の人物や団体などとは一切関係ありません。
シノノメは全身の触手を大きく広げた。
[何をしているんだい?]
『水流を感知して、生物を探しているのだ。』
[君たちって目はないのかい?]
『目というのは、光で物を感知する器官であろう?ここは暗い故、そのようなものを持つ生物は、ほんの一握りだ。』
[そう考えてみるとそうだね。この星の生物は、そうやって水流を感知することに優れているのかな?]
『そうだ。ほとんどの生物は、体に凹凸があったり、触覚があったり、我らのように触手があり、それで水流を感知して周りを把握している。』
[興味深いね。ということは、俺たちが乗っているような潜水艦が近付くと、ほとんどの生物は逃げちゃうのかな?]
『そうなるな。逃げないのは、先ほどのサーメデのように群れを形成している生物ぐらいだろう。もう少しあちらの方に潜ってくれ。そちらから〈判別不能〉が来ているようだ。』
そう言うと、シノノメは左下の方を触手で差した。
「あっちから何か来るみたい。そして、里香は通信を読んでいたと思うけど、この星の魚は水流を感知する能力に優れているみたいだ。捕獲は苦労しそうだねぇ。」
「俺も見てたぞ。動いてねぇと暇でな。クジラ式で行くか。」
「あぁ、網の所々に泡を発する機械がついている、あれね。それならいけるかしら。」
それから、シノノメの案内に従って、3種類の魚を捕らえた。深い青色でウナギかヘビのように細長く、頭に2本の触角が生えているイールメデ、茶褐色で体中に微細な毛が生えていて、流線型をしているガニメデヘアリー、中心部に透明の体があり、暗褐色の触覚が放射状に伸びていて、地球の生物ではカッパクラゲに似ている、蜘蛛のようなスパイメデだ。
そのどれもに目はなく、口はついている。
「ガニメデの生物は目を持たない生物から進化したのかしら。まあ、光なんてないものね。」
「そうだねぇ。この海の中で、目を持つ理由はないね。」
「そういえば、ガニアンの口ってどこにあるのかしら。」
「確かにねぇ。聞いてみようか。」
「帰りのことも考えると、そろそろ電気が足りなくなりそうだぞ。結構捕まえたし、一回帰るか。」
「了解。通信にもそう入れるよ。」
[シノノメ、そろそろ帰ろうかと思うよ。結構色々獲れたし、電気が心許ないからね。]
『おぉ、そうか。次の生物に案内しようかと思ったのだが……それが泳ぐには、電気というものがいるのだな。』
[電気の説明は……難しいな。雷もこの星では落ちなさそうだし……まあ、俺たちが文明的に生活するにあたって、必須なリソースだと思ってくれればいいよ。あと、1つ質問があるんだけど、君たちの口ってどこにあるんだい?]
『口というと、生物を摂取する器官のことか?ここにあるぞ。』
シノノメはそう言うと、触手を勢いよく広げ、触手の結節点を見せた。そこには、タコの口のような、円形の穴の周りに尖った歯が丸く並んでいる口があった。
「わぁ!すごいわね!びっくりしたわ。」
[すごいね!そうなっているんだ。興味深いよ。]
『そうか?まあ、それもそうか。我々の普通は、其方たちの普通ではないということだな。』
そう通信で話している間にも、ジョージは入ってきた穴に向かって潜水艦を操縦していた。
入る時にあらかじめ氷上に設置していたロープを、潜水艦のアームで掴み、浮上用のコネクタに接続する。
「よし、上がるぞ。揺れに気をつけろ。」
潜水艦はゆっくりと、氷に開けた穴を上がっていった。




