お供が欲しい
※この話はフィクションです。実際の人物や団体などとは一切関係ありません。
3日後。電波変換システムと翻訳システムが出来上がり、地球から送られてきた。
早速みんな集まり、まず何とガニアン達に呼びかけるか、議論していた。
「やっぱり、話がしたいって通信を入れてみるのがいいんじゃないかなぁ。」
「そうだな、まずはそうしてみるか。」
「わかりました。電波変換システムと翻訳システムは、皆さんの端末にダウンロードされていますが、ひとまず私が通信を入れてみましょう。」
デヴィッド・アンダーソンは、端末を操作し、電波変換システムを開くと、そこに文字を打ち込んだ。
[話がしたい。]
翻訳システムを開いていたルイス・エヴァンスが声を上げた。
「あ!きてるよ!」
その画面には、このように表示されていた。
『ようやくか、しかし、思っていたよりは早かったな。』
デヴィッドはルイスの翻訳システムの画面を見ると、更に文字を打ち込んだ。
[君はどこにいる?]
『君たちが作った物の真下だ。』
[お供が欲しい。]
『おぉ、そうかそうか。こちらとしても、安心するよ。すぐにそちらに行こう。』
[君がお供なのか?名前は?]
『そうだよ。名前は〈判別不能〉。〈判別不能〉と呼ばれることの方が多いね。』
[すまない、2つ名前を言ってくれたと思うのだが、両方判別不能と検出されてしまう。]
『おそらく仕方のないことだろう。色の名前で呼ばれることの方が多いから、会ったらそちらで私の名前を決めてくれ。そら、もう着くぞ。』
「もう着くってことは……基地の外にもういるんじゃない?!」
「迎えに行かなきゃ!」
「誰が行く?」
「俺が行こう。」
「是非、私も同行させてください。」
「じゃあ、私も気になるし、行こうかな。3人いれば大丈夫よね。」
ジョージ・エヴァンスとデヴィッド・アンダーソン、立花里香は手早く宇宙服を着ると、基地の外に出た。
基地から10数m程度のところに、体長1mほどのピンクがかったオレンジ色のガニアンがいた。
『〈判別不能〉、〈判別不能〉という者です。これからよろしくお願いします。』
「絶妙な色ね……東雲色ってところかしら。」
「最初の〈判別不能〉は挨拶の言葉でしょうか。」
「俺らだけで喋っても伝わってねぇよ。通信に入れろ。」
「そうだった。」
[これからよろしくお願いします。最初発せられた〈判別不能〉は、挨拶の言葉ですか?]
『そうだ。初めて会う者への挨拶だ。』
[綺麗な体色ですね。私の国の言葉では、東雲色って言う色です。]
里香はそう電波変換システムに打ち込んだ。
『……?すまない、色の名前を発してくれたのだと思うが、意味のない電波信号の塊にしか感じ取れん。中々難しいものだな……しかし、いい響きの電波だな。』
[では、シノノメさんと呼んでもいいですか?]
『またやや違う響きだが、伝わるぞ。もちろん構わない。これからよろしく頼む。』
[私たちの基地の中に入りますか?]
『入ってみたいが、もしかすると中は暑いのではないか?』
[耐えられないようでしたら、すぐ出てもらって構いません。]
『じゃあ入ってみよう。中はどのようになっているんだ?』
3人とシノノメは、エアロックから基地に入った。エアロック内を消毒し、エアロックに空気が充填されるのを、シノノメは触手をふらふらとさせながら待っていた。3人が宇宙服を脱ぐと、シノノメは驚いたかのように触手達を持ち上げた。
『君たち、複雑な形をしているねぇ!何がどうやってこの形になるのか、不思議でしょうがないよ。』
[それはこっちのセリフでもありますね。何がどうやって頭がない知的生命体がいるのか、不思議です。]
そう送りながら、デヴィッドは頭部をぐるっと指差した。
『そりゃそうか。そのごちゃごちゃした1番上の丸い部分は、頭というんだね。』
貨物室を抜け、居住区で全員が顔を合わせることとなった。
「う、うわ、よ、よろしくお願いします。」
「ルイス、電波じゃないと伝わらんぞ。」
「そ、そうだった。」
各々、これからよろしくお願いしますという挨拶をしたのち、質問タイムが始まった。
「まずはこれを聞かなければな。」
アルベルト・ホフマンはそう言いながら、端末に文字を打ち込む。
[君たちは呼吸をしているのかい?生きるのに酸素は必要なのか?]
『呼吸……?というのがどういうものかはわからないが、酸素は必要だ。生物を食べることによって酸素を貯蓄することができる。酸素が足りなくなってくると、酸素貯蔵器が痛くなるから、そうなったらひたすら生き物を食べる。そうすれば、酸素欠乏に陥ることはない。』
[〈バシュッ〉というのは、海から氷を突き破って飛び出してくる行為のことだろうか。氷の層を破るという意味が内包されているように思えるのだが。]
『概ねその理解で問題ない。しかし、無闇矢鱈と穴を開けるのはマナー違反なのでな。飛び出したい方角に既に穴が空いていれば、その穴から〈バシュッ〉するぞ。その場合は、氷の層を破らないが、どちらも〈バシュッ〉と表現される。』
[〈ツキマリ〉のことを、我々はアルデと呼称しているのだが、〈ツキマリ〉の群生を食べると精神活性作用があるのは、何故だか判明している?]
『おそらく、酸素が大量に含まれているせいではないかというのが、最近の説だ。海水中で、一口で得られる酸素の量というのは、然程多くはない故な。』
[海中探査用のドリル付き潜水艦を設置している場所から、海中探査を始めようと思っているのだが、もっといい立地や、ここから入って欲しいという場所はあるか。]
『どこでも特に問題はない。』
[暑くない?大丈夫?]
『やや暑いが、1日程度ならここにいても問題なさそうだ。定期的に外に出れば、ずっと居ることも可能だろう。たまに海の中を泳ぎたくはなるかもしれないが。』
[私達が食べる物は、酸素が多く含まれているかとかは考えられていないけど、私達と行動を共にする時は、酸素補給はどうするの?]
『限界が来る前に海に戻って、生物を食べて補給して戻ってこよう。海中探査にも行くのであろう?それならその時に、補給できるだけ補給しておけば、かなりの時間は持つだろう。』
「緊急で聞いておきたいことって、これぐらいかな?」
「まあこんなもんだろ。6年間も同じ奴らとしか顔を合わせてねぇと、こんなうねうねでも新しい奴が来ると嬉しいな。歓迎会でもやるか。」
「そうだねぇ。歓迎会といっても、ガニアンってどんな未知の微生物や病原菌を持っているかわからないよ?医者としては、一緒に食事するのは、防疫の観点から言うとオススメできないね。」
「それもそうねぇ。ガニアンの文化的に、どうしたら歓迎の意味になるかもわからないものね。」
「それも一緒に聞いてみるか。」
[6年間同じ人としか顔を合わせていないから、初めての新しいメンバーでみんな嬉しく思ってるんだ。歓迎会でもしようかと思ったが、食事会は防疫しなきゃいけないからできないんだが、君たちには何をすると歓迎しているという意図が伝わる?]
『おぉ、そこまで思ってくださるなんて、とても嬉しい。我々の文化では、対面で会話すること、相手に質問を沢山投げかけ、その問答を楽しむことが歓迎とされている。』
[ということは、俺たちはもう既に君を歓迎しているということかな?]
『その通りだ。ここまで暖かく迎え入れて頂けて、大変嬉しく思うぞ。』
ついにガニアンと深く接することができました。
質問攻めが歓迎とは、他文化はわからないものですね。