意思の疎通
※この話はフィクションです。実際の人物や団体などとは一切関係ありません。
もう氷を割って、海の下を探査することはできる。しかし、ガニアンからの通信で、お供をつけてもいいと言われているのだ。そのお供をどうするか、地球でもガニメデでも、意見が分かれていた。
「俺はいいと思うぞ。なんてったって、ここの海は地球の海より広いと予想されている。しかも、150kmの氷の下だから、当然潜水艦のサーチライト以外に光源はない。目隠しして耳もふさいで手探りで、地球より広い海を探査できると、本当に思ってるのか?」
「元々はその予定だったじゃん。レーダーだってあるし、何かにぶつかって機体が壊れたりはしないだろうし、なんとかなるよ。」
「私はガニアンが同行することに賛成です。広い海の中で、できるだけ多くのものを発見しなければいけないのですから、案内役がいたらどれだけ助かるでしょうか。」
「でも、危険じゃないかしら。まだ意思の疎通も取れないのに、何考えてるか想像もつかない生物と一緒に海の中なんて、逃げ場もないのよ?」
「俺は……正直どっちでもいいんだけど、こういうのはどうだろう、最初だけ俺たちだけで探査して、後から合流してもらうってのは。地球であのメッセージが完全に解読されて、こちらからも意思の疎通を取れるようになってから同行してもらえばいいじゃないか。」
「そりゃいいな!俺も賛成とはいえ、意思の疎通が取れないのが、どうかと思ってたんだよ。」
「それなら……まあ……まだ安全かな……?」
「早く電波を解読して、こちらが言いたいことを自由に発信できるようにしないといけないわね。地球の進捗はどうかしら……」
「確認してきますね。」
デヴィッド・アンダーソンは通信室に向かい、ほとんどすぐに出てきた。
「かなり解読が進んでいます。ほとんどといってもいいかもしれません。そして、こちらが打ち込んだ文字を、ガニアンの電波に変換するシステムも、もう半分程度はできているそうです。」
「マジかよ!はえぇな、今まではなんだったんだよ。」
「最初の通信は、どこかの別のガニアンが電波を被せるように発していて、解読できなかったそうです。邪魔が入ってなければ、知らない言語を辞書なしで読む程度の難しさだとか。地球なら、AIも使えますしね。」
「それって結構難しいんじゃ……」
「解読が済んでいる部分はこちらです。」
『なんだ、まだ電波データが不足しているか?
質問に答えるなら簡単だが、1人で発信し続けるのは難しいな。言語を教えようにも、我々は生まれる前から、ある程度の電波での意思疎通は、動くよりも簡単にできてしまう。なので、周りの大人たちと意思疎通を繰り返すことで、様々な電波信号を学んでいくのだ。
つまり、体系的に作られた、電波信号学習法……とでも言うべきようなものは、存在していないのだ。
だから、すまないが君たちも、この電波信号を解読などして、どうにか意思疎通ができるようにしてほしい。
あぁ、君たちから我々に呼びかけるための電波信号が必要になるな?いくつか教えておこう
話がしたい、教えてほしい、ここにいる、お供が欲しい、お供はいらない
話がしたい、教えてほしい、ここにいる、お供が欲しい、お供はいらない
我々に、君たちで言う耳はない。つまり、音を聞くとかいうこともできないのだ。音の波を感じることならできるのだが、それも水中でないとできないだろう。
君たちは、生身でこの星の環境に、一瞬たりとも生きることはできないのだろう?君たちの意思疎通手段をじっくり見た仲間がいたが、空気というものがないと、意思疎通ができないのではないだろうか。そういえば、そもそも、君たちは空気がないと生きられない、そう伝え聞いた記憶もあるな。
少々脱線したな。水中に音を発することができれば、我々も君たちの言語を習得することができるかもしれないが、そんなことをするよりも、君たちが、我々の電波での意思疎通に慣れる方が早いだろう。
再度言っておくが、我々は他の星に興味がない。君たちの母星に行き、何かするつもりもない。』
「これって…教えてほしいとか話がしたいって電波で発信すれば、もう意思疎通が取れるんじゃないの?」
「いや、それでコンタクトを取れたとしても、自動翻訳機なんてもんはないんだから、こっちがその電波を理解して、返事を返すことができんだろうよ。」
「それもそうね……」
「翻訳システムも制作中のようです。」
「そりゃそうか。一々地球と連絡取るんじゃ、俺たちがわざわざ来た意味がない。」
「どれぐらいでできそうか、わかる?」
「聞いてみます。」
デヴィッドはまた通信室に入り、しばらくすると出てきた。
「こちらの意向として、最初の探査は我々だけで行い、それから先は案内をつけてもらうことにすると送ると、地球もその結論に至っていたようです。電波変換システムは明日、翻訳システムは明後日できあがる予定のようです。」
「トントン拍子だね!いいことだ。じゃあ、その2つのシステムができるまで、みんなおやすみにしないかい?氷を割ったら、怒涛の探査が待っているよ。」
「ちゃんと休んでおかなくちゃ。」
「そうね。研究もわかったことはあるけれど、行き詰まり感を感じてたのよ。」
「リフレッシュしようぜ。というわけで、今日は日本食にしようかな〜」
「私の分は残しておいてよね。他のも食べられないわけじゃないけど。」