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電波解析

※この話はフィクションです。実際の人物や団体などとは一切関係ありません。

2041年 3月

 調査隊は、1ヶ月程度、ローバーによる探査と休憩や研究を繰り返した。

 ローバーによる探査では、メンバーを適宜変えながら行ったものの、さほど大きな発見はなかった。

 ジョージ・エヴァンスが運転手の時は、毎回のようにガンセクトを捕えることに成功し、最初に捕まえたものと合わせて合計10匹になった。

 ルイス・エヴァンスが運転手の時は、小さな発見も少なかったが、トラブルなく探査を終えられた。

 ジョージは一度、尾根状になった氷の山を登ろうとして、コース取りに失敗してローバーをスタックさせた。探査員全員の協力で、再度動かすことはできたが、危うく酸素枯渇の危機だった。それから、ローバーは平地のみを走ることになった。

 3Dプリンターで作れる、薄い酸素を濃縮できる機械の設計データが、地球から送られてきたので、基地の屋根に設置した。これで酸素の心配はもうしなくていいだろう。

 パイロット兄弟は探査と並行して、ドリル付き潜水艦で氷を割る予定地を見繕った。基地から近すぎず、遠すぎない平地。ローバーを使わなくても行ける距離だが、氷を割ったことで何か基地に影響はない程度には遠い。5km程度だろうか、地球だと自転車を使いたい距離だ。


 地球から、セカンドコンタクト時の電波の解析結果が送られてきた。途中までであるという注釈付きだ。

『我々はこの星に昔から住んでいる者だ。

 こちらとしては、早くこの星から立ち去っていただきたいが、ここまで来てしまった以上、すぐに立ち去るというのは不可能であろう。

 この星に来た理由は、この星の生物の調査であろう?でなければ、わざわざ知的生命体を乗せてくるはずがない。

 我々は、この星に関して、ほとんどといっていいほどのことは知っている。ご存知の通り、電波でコミュニケーションを取っているので、知らないことがある個体がいても問題ない。即座に、知っている個体と連絡を取ることができるからだ。

 特に、この氷の下の海の中に関しては、全て知っている。我々は、この広い海の中にそれぞれが点在し、そこで起こることを観察している。生物単位を観察している者もいる。

 もしそちらの都合がよろしければ、海中探査には我々の同胞をお供につけよう。彼に聞けば、全ての生物が観察できるし、我々が知っていることは全て教えよう。

 その代わり、そちらの調査がおわれば、速やかにこの星から立ち去っていただきたい。同胞に関しては、彼の判断にお任せする。

 家まで解体しろとは言わん。あれがもう一度、あの飛んでいる物に収まるとは思えんのでな。すまない、我々の言語には、あれを表す電波信号がない故、飛んでいる物としか言えんのだ。 

 君らの母星では、侵略者が恐れられていると聞いたと代々伝えられているのだが、それは本当だろうか。

 この星には侵略者が今までいなかった故、皆半信半疑でその話を聞いていたのだが、これで我らが自分の意思ではなく捕らえられたり、殺されたりしたら、それが侵略ということなのだろう?恐ろしいな。そんなことをされたら、あの飛んでいる物に皆で〈バシュッ〉してしまうかもしれん。

 我らはこの星の外に関しては、興味を持たない。

 基本的に、この星程度に冷たい海でないと、生きることが難しいので、君らの母星にも興味はない。君らの母星は、我々には明らかに暑すぎる。』


 〈バシュッ〉が何かはわからないが、何か攻撃的な意図が含まれているのだろうと思われる。君らの母星、は地球だろうが、この星、などの言い方から察するに、あまり固有名詞をつけないのだろうか。

 それよりも、侵略者が恐れられていると代々伝えられている、など、地球の情報をあちら側は少ないなりにも持っていることが察せられるのが気になる点だ。

 我々の同胞をお供につける、つまりガニアンの一体が海中探査に同行してくれるということだろうか。何もわからない手探り状態よりは、スムーズに様々な発見がありそうだが、それにより意図的に隠される何かしらがありかねないのが気になる点だ。

 地球侵略をするつもりがないという意図の発言も、地球側では安堵のため息が大きかった。ガニメデの平均気温は-163℃。海中はもう少し暖かい可能性はあるが、あの海は150kmに及ぶ氷の大地の圧力と、木星の巨大な引力がもたらす潮汐力――氷や水が引っ張られることでできる摩擦熱のようなもの――で水となっているので、海水温もかなり低い可能性がある。

 ともかく、この連絡があった日は、会議とパーティを兼ねて、いい食事を皆でとった。1ヶ月の間に、水耕栽培のレタスも収穫できたため、それも皆で食べた。


 アルベルト・ホフマンと立花里香は、アルデとガンセクトの研究をしていた。

 アルデが生命活動を行っているかは、群体の状態だとわかりづらい。ケイ酸塩岩石、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、水をかけたアルデの密閉容器を開け、顕微鏡で観察できる程度をピンセットで取り出す。硫酸マグネシウムをかけたものと二酸化硫黄をかけたものが、黄色味が強く変わっていた。

 1番新しく取ってきたものと見比べ、生命活動がおわっていないかを観察する。硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、二酸化硫黄をかけたものは、生命活動を続けているようだった。ただ、硫酸ナトリウムと二酸化硫黄のものはそれぞれ弱っていたため、硫酸マグネシウムを栄養としていると、里香は断定した。


 -163℃の外気温室で、防寒服を着たアルベルトは、ガンセクトを観察している。ガンセクトも遂には10匹まで増え、比較実験もできる体制になった。アルベルトは、アルデを入れたケースに8匹を入れ、残りをガニメデの氷を溶かした水だけがあるケースに入れた。

「どうしてそんなことを?」

「もしかしたら、アルデっていう有機物じゃなくて、無機物を摂取しても生きられるかもしれないだろう?まあ、このままここに置いておくと凍っちゃうし、あまり期待はしていないけどね。それより、そっちは何かわかったかい?」


「えぇ。顕微鏡観察で生命活動を続けられているかを調べたわ。硫酸ナトリウムと硫酸マグネシウムと二酸化硫黄をかけた群体は生きているみたい。でも硫酸ナトリウムと二酸化硫黄のものは弱ってるわね。」

「確か、アルデの成分も検査したんだろう?その結果と照らし合わせてみるとどうだい?」

「ナイスアイデア!なんでそんなことも思いつかなかったのかしら。」

アルデの成分検査結果は以下の通り

未知のアミノ酸(アルデが生えていた部分の氷の成分検査で検出された物と同一のものと、そうでないもの)、水、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸、二酸化硫黄、三酸化硫黄、酸素

「やっぱり、硫酸マグネシウムを酸化マグネシウムと二酸化硫黄、酸素に分解、そして二酸化硫黄と酸素と水で硫酸を作っていそうに見えないかい?」

「あら……本当ね。大発見よ!」

 里香はアルベルトの手を取って、軽く飛び跳ねた。

「興奮するのもわかるけど、未知の科学の解明に必要なのは、事実に基づいた、フラットな視点なんじゃないかい?忘れかけていたんじゃない?」

「うぅ……そうね。正直に素直に物事を見る。そうしないと、偏見の裏にある真実が見えてこない。忘れていたわ。初心に返らないと。」

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