五日目
【五日目】
放課後、咲と春華は公園にいた。
春華の希望だ。今日も今日とて手を繋いで、公園のベンチに腰を下ろす。
桜は完全に散って葉桜だったが、四月という気候は公園のベンチでも十分に過ごしやすかった。
なにをするでもなく、ぼんやりと時間がすぎていくのを感じていると、春華が口を開いた。
「ねぇ、咲は神様を信じる?」
そのいつもどおりながら、やはりどこか唐突な問い掛けに咲がぱちりと瞬きをしたのと、春華の視線が凪いだのは同時だった。
静かに、真っ直ぐに。どこか遠くを見つめる春華の視線に、咲は少しだけ考え込んだ。
「信じる人は、信じればいいと思う」
「咲は?」
「俺は……いるという人には賛同するし、いないという人にも賛同する」
「どっちつかずね」
可笑しげに春華が笑う。悪い意味合いの笑みではないはずだ。
咲は無神論者ではないが、同時に神を信じてもいなかった。他人がいるといえば、否定はしない。いないといっても否定はなしない。
春華の言うとおり、どっちつかずだ。
「私は、昔は神様なんて信じてなかった」
「昔は?」
「今は違うの。嫌でも信じるしかなくなった」
その言葉には諦観が滲んでいた。
春華を見つめる咲の視線に、春華の視線が絡む。
ゆっくりと正面から咲へと視線をずらした春華は、疲れた様子で肩を竦めた。
「私の病気はね、神様の奇跡で治ったのよ」
「奇跡……」
「そう、まさしく奇跡。あれほど正しい奇跡の使い方は、きっと他にはないでしょうね」
「……」
咲は春華が罹っていたという病気の病名を知らないし、それがどれだけ治療が難しかったのかもなんとなくしか知らない。
けれど、当人である春華がそう口にするのなら、そうなのだろうと自然と思えた。
「神様は、いるのか」
「ええ、いるわ」
咲の呟きに、春華が肯定を返す。
そうか、神様はいるのか。
もう一度呟いて、それっきり咲は黙り込んだ。
春華もなにも口にしない。二人の間に静寂が降りた。