第77話 クー・クラインとは
ヒンデル老人の視線がセタント・クラインに集中する。
いや、ヒンデルの言葉が合っているならば、相手はセタント・クラインでは無い。
その姉。
クー・クライン。
金髪で少し目線を隠していた少女はそのヒンデルの視線を受け止める。
そんな緊迫感に満ちた場面なのだが…………
俺のマヌケなクシャミの音が鳴り響く。
「へーっくちん!
………………ゴメン、ゴメン」
しょうがないじゃん。
ホントに埃っぽいんだよ。こんな坑道で作業させるなら、不織布マスクくらい配って欲しーな。ティッシュペーパーすら無いんだよ。
俺は鼻水を出来るだけ目立たないよう吸い込む。
ヒンデルが仕切り直す。
「コホンッ!
とまぁワシはそんな風に思ったんじゃが……
どうかな、711番さん」
再度、ヒンデル老人の視線が金髪の子に注がれる。
俺はクシャミが出そうになるのを必死でコラえる。ガマン、ガマン。
「こんなに早く気づかれてしまうなんて…………
やっぱり、父の言った通り無理があったんですね」
彼女は地面を見ていた顔を俺達に向けた。
ハジメテ見る表情。どこか今まで不自然に強がっている印象のある美少年だったのだが。
弓なりの細い眉。長く生えそろうまつ毛。バランスの良い鼻筋と小さな赤い唇。
強がりを消した彼女は、なぜ今まで男と言われて疑問に思わなかったんだろう、と思うほどに美少女であった。
「ヒンデルさん、貴方の言った通り…………
私は……クー・クラインです」
「ふぁーーっくっしょい!」
ヒンデルと金髪の美少女が俺の方をジロっと見る。
慌てて俺は口を押える。
ゴメンーーー。
悪気じゃ無いんだって、ホントだよ。
俺はキリっと顔を整える。
「クー・クラインさん。
キミがオモシロ半分で弟を騙る人間じゃないくらいは俺だって分かる。
何故、騙していたのか教えてくれないか?」
鼻水出て無いだろうな。
俺としてはテレ隠しでカッコ付けてみたのだが、金髪の美少女は顔を歪める。
「ゴメンなさい。
騙すつもりじゃ無くて…………
でも、そうですね。
ウソを着いていたんだから……
わたし、貴方達を騙していたんですね。
ゴメンなさい」
セタントじゃなくて……クー・クラインの瞳が潤んでいる。下睫毛から今にも涙の雫が零れそう。
「いや、責めてる訳じゃ無いんだ」
「ナニが有ったんじゃ。
教えてくれんかの」
「はい。
お話します」
それからクー・クラインの話は続いた。
と言っても、坑道での作業をしながらである。誰かが近づいてくると言っては、会話を中断して、掘削作業を進める。他のグループが近すぎるようであれば場所を移動する。
そんな事を間に挟みながらなので、簡単には進まなかったが彼女の話を要約するとこうなる。
クライン家の一人息子、セタントは幼い頃から体が弱かった。国一番の対魔騎士を継げるのか、心配されてはいたが、彼がクライン家を継ぐ方向で進んでいた。
クー・クラインは弟の補佐をする事を考え、武人としての修練も行っていた。本人も言っていたが槍を使わせれば、そんじょそこらの雑兵には負けはしない。
アクマで弟の補佐としてである。
貴族の党首を女性が継ぐ事は文人なら在り得るかもしれない。武人の中では通常考えられない事らしい。
しかしある日いきなりクー・クラインの背中に対魔騎士の紋章が現れた。
この紋章とは代々クライン家の党首に伝わってきたモノらしい。
ファンタジーなハナシで俺にはピンと来ない部分もあるのだが、ヒンデルが驚いてないトコロを見ると、この世界ではそんなにおかしな話では無いらしい。
確かになんどか俺も目にしたな。
クー・クラインの白い肌に黒い紋様。
あの白すぎる肌は……美少女のモノだったのか。
道理でキレイで……ちょっぴりエロティックと思ってしまった訳だよな。
クー・クラインは都の教育機関に通っていたらしいのだが、そこで慌てて実家へと急いだ。
辿り着いてみれば、弟セタント・クラインは意識不明の重体。明日には王に招かれた席があると言う。
そこで彼女は身代わり作戦を思い付いた。
自分とセタントは幼い頃は良く似た姉弟と言われた。髪を切って、男性の服装をしてしまえば、セタントとして出席出来る。
この作戦は父親、スァルタム・クラインに阻止された。
そんなマネすれば、他の出席者まで全員を騙す事になる。事実セタントは重体で出席出来ないのだから、素直にそう言えば良い。
しかし王と王の娘は激怒した。この宴席は王の娘の社交界デビューであったらしい。そこに急遽欠席。普段から王に反抗的な態度を取っているクラインの意図的なサボタージュと取られた。
セタントを追放もしくは鉱山送りにせよ、と言う。
追放と言うのはウルダ国を追い出される。二度とクライン家の一員ウルダ国の国民とは名乗れない。
鉱山送りなら、少ない可能性ではあるが、恩赦を与えられクライン家の一員に戻れる事も在りうる。
今度はスァルタム・クラインが激怒した。
そんな命に従えるか。こうなれば王相手でも戦ってやる。
それを無理やり宥めたのがクー・クライン。
自分がセタントとして鉱山に赴きましょう。父さんは戦場で手柄を立てて、王に恩赦を願って下さい。
おそらくは王も頭が冷えれば非常識な命令を出してしまったと反省する事でしょう。恩赦も難しくは無い筈です。
父親が渋面を作るのを無視して、強引にクーは行動した。
長かった髪を切り、男の服装、言葉使いをして鉱山へ乗り込んだ。
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