第53話 焼肉
俺の前には焼け焦げた豚の死体と馬の死体が有った。
シャベルが上手いコト切り裂いてくれたのである。その前までキモイ化け物だったと思い出さない様にしていれば、フツーの馬の死骸と豚の死骸。
あのヤバい悪臭も焼き払ったコトで大分緩和された。
「まだ臭いなのよー」
妖精少女が五月蠅い。鼻を摘まんだまま、俺の周辺を遠巻きにしているのである。
仕方ない、穴掘って埋めるか。こういう時にこそ、シャベルがメッチャ役立つ。
豚の口からは悪臭がしているのだが、図体からは肉の焼けるいい香りがしてるんだよな。油の乗った食欲をソソルにおい。
…………もしかして俺、焼き肉の香り嗅ぐのメチャクチャ久しぶりなのでは。
今まで丸焼きにしたヤキトリこそ密かに食べていたが、この鉱山で肉なんて食事に出た記憶が一切無い。
すると、17年ぶりの豚肉っ?!
俺はガマンしきれなくなって、背中の肉を口に入れてみる。溶けた油の甘みが口いっぱいに広がる。
んんんまぁああああああい。
ジューシィー。
人間、たまーには肉喰わんといかんね。
ロース肉って確か肩から背中辺りのコトを言うんだよな。そこいらだけ、俺はそぎ取って食用に保管。
腹側には手を出さないでおく。バラ肉だってキライじゃないけど、下手に切って、内臓までたどり着いちゃったらば、あの悪臭がそこから発生してる筈、キケンすぎるっ!
残りの頭部と腹は土の中に厳重に埋める。
ウマの部分はどうしよう。
馬肉と言えば、馬刺しが有名だけど、もう焼けちゃってる。焼いても食えないコトは無いよな。
食べてみると、少し硬くて歯ごたえが有るものの、まぁまぁ美味しい。本当は焼き肉のタレが有ったらもっと旨いだろうな。
ロース部分とモモを少しそいで、ウマ部分も埋めておく。
「良くそんなの食べる気になるのよねー」
妖精少女が呆れた様に俺の周りを飛び回る。
まぁ、確かに昔の俺なら食べる気にならなかったと思うけど、なんせ17年ぶりの動物性お肉なのだ。食べさせてくれよ。
「吾輩のグングニルはどうしたのだ?
返してくれ、妖精界の至宝なのである」
ヘルラさんが川の向こうから叫ぶ。
探すと死体の近くに落ちていた。ううっ。あのバケモンが歯間の掃除に使ったんだよな。持ちたく無いなー。
持ってみると軽い。40センチ程度とは言え、もう少し重量がありそうに見えるんだが。
「妖精界のトネリコの樹で作られているのである。
丈夫であるが軽い優れモノなのである」
グングニルとやらは川の水で洗ってから、ヘルラさんに返した。
「ありがとうである。
吾輩、素直に感謝するのである。
……………………
うっ……グングニルがまだ臭いのである。
吾輩、涙目なのである」
ヘルラさんが兜を上にズラして鼻を摘まむ。
やっぱり、予想していた通りの若い女性。白銀の髪の毛に碧い瞳の美女。キツイ視線が軍人とか戦士を思わせる。
セルキーちゃんは丁寧にお礼をしてくれた。
「あの半豚半馬を簡単に倒すなんて!
イズモ様、さすがです。
本当にありがとうございます」
何故か、俺のカラダにピタっとくっつく。
「それで私、イズモ様のお嫁さんにならなきゃいけないでしょうか?」
なんですか?!
およめさん……てあのお嫁さん?
スク水っぽい服着たこのぽっちゃり系美少女が俺の?
ナニ言い出してるの、この黒い瞳の子。
「イズモ様は人間の男性なんですよね。
人間の男と言ったら、海豹妖精には伝わっているんです」
海豹妖精に伝わる話によると…………
妖精の帽子を脱ぐと海豹妖精は人間型の女性になる。その時に妖精の帽子を人間の男性に取り上げられた海豹妖精はその人間の奥さんになる。彼に尽くす妻となり、やがて妖精の帽子を返して貰うとまた海へと還る。
そんな話らしい。
なんか聞いた事がある昔話に似ている。
天女の羽衣のハナシ。
男が天女が水浴びしてるのを見つけ、羽衣を隠してしまう。哀れ天女は天に帰れなくなって、男の妻になる。男の隙を盗んで羽衣を見つけた天女はやっと天に帰れて、男は哀しく天女を見送るのでした。
みたいなハナシ。
あの話ひどいよな。子供心にも、この男は犯罪者じゃん、と思ったけど。現在思い返してもやっぱヒドイ。
主役ってば、女の水浴び覗いてるし、羽衣盗んでるし、羽衣を返して欲しくばと脅して自分の奥さんにしてしまう。窃視、窃盗、脅迫、監禁。おそらく強制性交も加わる。犯罪のオンパレード。サイアクと言って良い。
なんとなく男視点から悲劇の恋物語っぽく語られるけど、明らかに一方的な思い込み。ストーカーだ、ストーカー。ストーカーを超える凶悪犯罪者と言うべきか。子供に読ませていいんか。
そんな凶悪犯と一緒にされてたまるか。
俺はセルキーちゃんに告げる。
「そんな必要は無い。
キミは自由に川で過ごしてくれれば良いんだ。
俺の報酬はあの豚肉を貰っただけで十分だ」
「そうですか。
…………ちょっと残念です……」
「何か言ったんだわさ?」
「あわわわわわ。
妖精少女さん、なんでもありません。
…………そうです。
この妖精の帽子を差し上げましょう。
何もお礼しないのも失礼です」
セルキーちゃんは手に持った皮を差し出す。持っているとアザラシの頭を模した帽子みたいな革製品。
「これ……いいの?
無くすとセルキーちゃん川に戻れないんじゃ……」
「いいえ。
ちゃんと予備はいくつかありますから大丈夫です」
セルキーちゃんは黒いオメメでニッコリ笑って言う。
なんだ、予備在るのかよ。
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