第52話 ナックラヴィー
ソレ。
妖精少女の後ろに現れたバケモノ。
全身のフォルムは馬、馬と言うか馬の体に人間の上半身がくっついたヤツ。ケンタウロス。
そんなカンジではあるのだが、くっついた上半身は人間では無い。
豚。
口から牙も見えてるので、むしろ猪に近いだろうか。
上半身ブタ、下半身ウマの魔物である。
「キモッ!
なんだアレ?」
「アレです。
アレが半豚半馬です」
思わず漏らしてしまった俺のセリフに海豹妖精ちゃんが答えてくれる。
「ぎゃふぁーーーーなのよー。
くさいくさいくさいくっさーーーーーー! だわさー」
叫び声をあげて妖精少女が逃げて来る。
その言葉通りに俺の鼻にも異臭が漂っているのである。
真夏に生肉を冷蔵庫から出しておいて、一週間くらい放置した後のような危険すぎるニオイ。既に不愉快とかそう言うレベルでは無い。物理的痛みを持って俺の鼻腔を襲う。
セルキーちゃんもヘルラさんも鼻を抑えている。
「くさいですっ。
痛い痛い痛い、臭過ぎて鼻が痛いのです」
「これは……吾輩でも我慢出来んのである
既に臭いによる攻撃兵器であるな」
半豚半馬は川の向こう岸。キモい姿で川に身を寄せ、水を飲んでいるようだ。その豚に似た頭部の口が耳元まで開き、ダラダラと涎が垂れる。おそらくその開いた口から凄まじいニオイが吐き出されている。
更には垂れた涎。川の水面に落ちて、水面に黒い汚れが広がっていく。
「セルキーちゃん、逃げていいかな。
川を隔ててるってのに、ガマン出来ないよ」
俺は思わず言ってしまう。鉱山の労働者達だって、結構ひどいニオイをさせてるヤツが混じっているのだが、その比じゃない。
こりゃ、ホントに兵器だよ。
「そんなー、イズモ様っ。
なんとかして欲しいのはアレなんです。
あの半豚半馬が吐き出すニオイ。
しかも川に顔を付けられると…………」
セルキーちゃんの言葉で見てみると……半豚半馬は川に頭を付けて水を飲んでいる。その頭部に触れた部分から水が黒ずんでいくのだ。黒く淀んだ水が下流に向かって広がっていく。そしてその水面にはプカプカと何かが浮かんでくる。
「ああああ……魚たちが……
あの半豚半馬が水に触れると川が汚染されます。
この調子で来られるとお魚さん達が全滅しちゃいます。
川だって生物の住めない毒川になっちゃいます」
「それは迷惑のカタマリだな」
しかし半豚半馬は川を隔てた向こう岸にいるし。濡れるのを気にしなければ強引に川を渡れない事も無いのだが……若干躊躇してしまう場面だな。
だって正直、あのニオイに近づきたく無い。
「おのれ半豚半馬!
前回は川の向こう側に居るため、手も足も出なかったが。
今回は妖精族の至宝、貫くものが吾輩の手にある。
喰らうが良い!」
無駄に威勢が良いのはヘルラさん。
手に自分の身長より長い槍を持ち、相手へと投げつける。…………40センチしか無い槍だけどな。
「ふははははははは。
貫くものは絶対に的を外さん!
半豚半馬覚悟せよ」
兜を被った鎧姿のヘルラさんは勝ち誇った笑いを上げるのだが…………
確かに槍はバケモノに刺さった。
ザクッ!
馬の下半身に刺さってるのだが、40センチ程度の刃物。大したダメージを与えて無い。
半豚半馬はなんだこりゃ、と槍を見ている。自分の体から引き抜いた。槍を持って巨大な口へ。
先端の尖った部分で牙の掃除を始めたーーっ!?
「あああっ?
貫くものがつまようじに使われてるっ?!
キサマ、妖精族の至宝になんたる無礼を!」
ヘルラさんは怒ってるみたいだが、半豚半馬はどこ吹く風。
こっちを見てバカにした笑いを浮かべ、槍でしーしーと歯と歯の間をこすってる。その度にトンデモない悪臭が周りに振り撒かれている。
うげぇぇぇぇっぷぅ
ぐはっ?! このバケモノ野郎、ゲップしやがった。しかも口をこっちに向けて。
くせー、クセー、臭い臭い臭いんだよーーーーっ!
いい加減にしやがれーっ!!!!
筋力強化!
速度上昇!
俺はブチ切れていた。強化された脚力で川を飛び越え、そのまま足蹴りをブタの顔に見舞う。
ぐもぉーーーーっ!
キックを喰らった半豚半馬。
下半身は馬である。走って逃げようとするが、逃がすもんかーっ!
革靴が、せっかくレプラコーンちゃんに作って貰った革靴だってのに。こいつの涎が付いて汚れちまった。
「ふっざけんなー!」
俺はシャベルを取り出す。戦闘でも試してみたかったのだ。槍の様に構えて、走り出す。
馬の速度で走る半豚半馬。俺からその背が遠ざかっていく。さすがに早いが、負けるかよ。
速度上昇!
地獄の炎!
俺は緑魔石を取り出して、スピードアップ。更に赤魔石を使ってシャベルにも魔法をかける。
近付いて来た半豚半馬の背中。くそっ、やべーニオイまで鼻に来るじゃんか。
「その悪臭ゴト燃え尽きろーっ!」
俺はシャベルを投げつける。赤く燃え上がるシャベルはヤツの上半身を貫いた。
この作品はカクヨム様にも投稿しています。
そちらの方が先行していますので、先が早く読みたい方はこちらへ。
カクヨム くろねこ教授 で検索してくださいませ。
twitterにて、くろねこ教授マークⅡ名義でこの小説のイメージイラストも投稿しています。
興味が有る方は覗いてくださいませ。【イラストAI使用】
YOUTUBEにて、くろねこ教授マークⅡ名義で昔の小説のボイスドラマ化など行っています。
心が広い方は覗いてくださいませ。
いいね、チャンネル登録も是非。
https://www.youtube.com/@user-oj1xk6cm5w
宣伝でした。




