第39話 魔法技術者
「これは確かに小型の魔法炉だ。
大型の高機能魔法炉に比べ、力は弱く大きな物は作れない。
鉄の武具を作る事も難しい」
ルピナス・エインステインが言う。
自身の小型魔法炉を前にして、その中に鉱石を放り込む。
「だけど。
小型魔法炉にも良い点は有る。
何だと思う?」
「え、あ。
ええええと、すまない。
僕は対魔騎士の勉強や修行はしているけど、魔法技士に関する知識はあまり無いんだ」
ルピナスが訊ねて、セタントは戸惑っている。モチロン俺だって知らない。大型も小型も、魔法炉の存在自体知らなかったのだ。
「対魔騎士か。
魔物と戦うおとぎ話の魔法戦士、時代遅れの存在だな。
これからは魔法武具の時代でそれを創る魔法技術者の時代だ。
………………
なんて偉そうな事、私に言える立場でも無いな。
こんな辺境の鉱山で犯罪者相手にツルハシを作っているだけの女だものな」
「…………対魔騎士は時代遅れなんかじゃ無い」
ルピナスとセタントの間には一瞬緊張した空気が走っていた。
セタントが魔法技士には興味無いと言う発言をしてしまった。それにピクンと反応したルピナスがナイトを時代遅れと呼んだのである。
俺としてはケンカになる前に空気を緩めるべく仲裁したいトコロなのだが、その前にルピナスは自嘲するフンイキになってしまった。セタントも下を向いて、落ち込んだフンイキ。
何かフォローしようにもしようが無いな。何を言い争っているのか、見当もついていない。対魔騎士、魔法武具、魔法技術者か。その意味が分かればある程度理解出来そうなんだが。
「それで、ルピナスちゃん。
この魔法炉に良い点があるんだよね。
ドコなんでちゅか。
教えて欲しーなー」
「あのねー、あのねー。
………………
ちっがぁうぅーーー。
キサマはその人をバカにする言動を何とかしろ」
フンと俺の胸元に届かない小柄な背丈だと言うのに、俺を見下げるような態度を取って来るルピナスである。
「それでだな。
大型の高機能魔法炉と言うヤツは小回りが効かない。
数十人、百人分の鉄製武具を一気に作るなんてのには向いている。
だが走らせるのに貴重な魔法石が必要。
生活用品を試しに一つ二つ作るのに、そんな高価な物を使ってる余裕は何処の大貴族であっても在りはしない。
ところが。
この小型魔法炉であれば、魔法石の欠片であっても起動させることが可能なのだよ」
『魔法炉起動!』
ざらざらと鉱石を魔法炉に放り込むルピナス・エインステイン。ちっちゃい何かを大事そうに手のひらに抱きしめた上で叫ぶのである。
すると魔法炉が光を放つ。
ナニカが動き出した。それは俺のような何も知らないシロウトにも分かった。
眩い光を放つ魔法炉。
これか、これが。
魔法技術。
そしてそれを操る魔法技士。
魔法技術者と呼んでいたな。鍛冶師、もしくは金属加工職人。はたまたもっと進んだ技術者だろうか。
その技術を持つ女性、ルピナス・エインステイン。
彼女は今魔法炉の動きを観察している。大型のスコープを顔に着けているので表情は分からないのだが真剣な雰囲気。
ただの子供じゃ無かったんだな。背丈は俺のお腹までしか無くて白いマントの裾を引きずっちゃってるけど。ノリやすくてすぐ子供コトバになっちゃうけど。技術者だったんだなぁ。
俺はルピナスを見直す。セタントも同じ感想であるらしい。へぇ、大したモノだ、と言う俺達二人の尊敬の視線を感じたのか。
ルピナスはエッヘンと胸を張る。胸に膨らみ無いけど。顔を天に向け、鼻が伸びてるな。
しかしルピナスが有頂天になってる時間は長く続かなかった。
煙突のあるブリキ缶のような見た目の魔法炉とやらが騒がしい駆動音を立てている。
ボコン、ポンポン、ガチャン、ギッギッ、ギギギギィィー
これって真っ当な機械の動く音なんだろうか。多分、おそらく、明らかにダメくさい音な気がするけど。
「この魔法炉大丈夫か?
スゴイ音がしているが……」
「どう聞いても危険な気がするけど……」
俺とセタントは恐る恐る訊ねる。
「んっ。
駆動音だ。
魔法炉で金属の含まれた鉱石から金属を取り出し、目的の形状へと変化せているんだ。
多少の音は付き物だ」
ルピナスは偉そうな口調でキッパリ言うけれど、視線は俺達も魔法炉も見ていない。そっぽを向いているのである。デッカイスコープを着けた顔に汗が流れているのも見える。
「なによー。
しょうがないの。
中古なの、使い古しなの。
貴族のお下がりなんだよ。
新品のしっかり整備された魔法炉なんて、貧乏貴族の手に入るワケ無いだろう。
使い込んで使い込んで、これはもう使えねーや、そろそろ捨て時だな、って持ち主に思われてるのを安い値段で購入したの。
それでも買えないくらいの値段だったの。
借金してやぁっと買ったの。
みんなみんな貧乏が悪いのー」
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