第4話 出雲働
仕事中毒の様に働いた俺、出雲働
ようやっと製鉄会社の社長として恥ずかしくないレベルに達したと思えた頃、俺は30代のオッサンになっていた。
しかし俺の仕事環境は楽にはならなかった。
俺は専務との折り合いが悪くなった。
彼は元社長の弟、要するに俺の叔父だ。
俺が就任する時は、副社長になるなんて話も有った。
こんなシロウトの俺だけじゃ社員達だって頼りないだろう。その方がいいかと俺自身も思った。
だが、役員が数名反対して頓挫した。
その時はなんでだよ、と思ったが。
数年経って成長した俺には理由が呑み込めた。
叔父は一生懸命に仕事をするタイプではなかった。製鉄の知識は最低限あるものの、ふんぞり返って部下に命令するだけ。それも当を得た命令とは思えない。
取引先に信用があると言うが、それは相手を接待付けにしているだけ。金を使って接待付けにして、ズルズルと仕事を引き出している。
その接待では自分も楽しんでいるのだ。
だからと言って役立たずと簡単には言えない。
会社としては必要悪と言える部分もある。
社長の俺は30代になったとは言え、まだ若い。夜の接待なんぞにはまったく自信が無い。叔父に任せるしか無いのだ。
しかし自然と俺の叔父に向ける視線は厳しくなる。
他の役員たちも叔父には冷たい。
汗水流して工場で働いて来た作業員上がりの人間が多いのだ。叔父の様な人間は毛嫌いされる。
そんな役員たちは俺の事も、最初は気楽なボンボンと冷たい視線を送っていたものだが。
この頃にはやっと、少しは頑張るじゃないかと評価されつつあった。
そんな状況で俺は働き続けた。
年上の部下たちに頭を下げ、モノを教わり。重労働をこなす従業員たちにも頭を下げる。
彼等が働いてるから会社が回り俺が食えているのだ。
取引先にもモチロン頭を下げる。相手の機嫌を損ねれば、自分だけでは無い、500人以上の社員まで路頭に迷うのだ。
俺はストレスと過労で体をおかしくしながら働き続けた。
少しばかり頭が痛くて発熱しようが、お腹が痛かろうが、休む事はしない。
カロリーバーを栄養ドリンクで流し込めば身体なんか動くものだ。
会社はなんとか成長していた。
急成長する隣の国に仕事を奪われたり。その奥のアジアの国に工場を建設し巻き返しを図ったり。色々ありながら、最終的に結果は毎年伸びていた。
遂に会社は一部上場まで漕ぎつけようとしていた。
俺はその頃役員たちと、専務の不正を調査していた。
単に接待でうまい汁を吸うなどと言うレベルでは無い。純粋なる横領に叔父は手を染めていた。
上場企業になる前に俺はその膿を出そうとしていたのだ。
ところが俺は叔父に逆転を喰らう事になる。
社長の経歴偽証疑惑と言うニュースが週刊誌に載ってしまったのだ。
社長と言うのは残念ながら俺の事だった。
俺はナニをバカな、と慌てて調べたが……
恐ろしい事に事実だった。
俺が大学と社長の二足のワラジを履いていた話はした。卒業可能な単位を取得したことに安心した俺は大学との連絡を疎かにしていた。卒業制作が手違いで受理されていなかったのだ。
気が付いたときにはもう遅かった。
俺の悪い噂だけが広まっていた。
取引先との怪しげな接待、それは叔父がしたものだったが、如何にも俺が指示したかのように報道に出た。
二代目社長の悪いところですね。
甘やかされて育ったんでしょう。
と俺の事も父親の事も知りもしないコメンテーターが言って、全てが終わった。
俺は社長室を見渡していた。
地上二十階建てのビルディング、その最上階にある俺だけの部屋。
今日でこの部屋ともお別れ。
社長を退任する事になったのだ。
後任は叔父がする事になったと役員たちから言われた。
今となっては分からない。
彼等はホントウに俺を見直していたのか。ホントウは専務と話が出来ていたのでは無いか。
俺を働かすだけ働かして追い出す。最初からそんなつもりだったのでは。
冷静に考えれば、そんなハズは無かったが。
俺のボケた頭はマトモに働いてくれなかった。
俺は大窓を開ける。
今日は天気がいい。
雲の無い空に太陽がまぶしく輝く。
太陽がまぶしすぎて俺は目が眩む。
ホントウにクラっとしただけなのだ。自殺なんて考えてはいない。ホントウなのだ。
だが。
俺の身体は窓から地面に向かって、投げ出されていて。
20階の高さを人間の肉体が落ちて行った。
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