第42話 門番
そんな訳で俺達は町を歩いている。昼前の時間帯だからだろうか、人通りはまずまず多い。
町の中央が大きな通りになっていて、荷車が行き来して左右には商店が並ぶ。
あれは酒屋さんかな。ワインの樽が並ぶ。服屋らしいのもあるが、出来上がった服を売るより、布地を中心に売っているようだ。
「テイラーに服を作らせるなんて、貴族かよほどの金持ちくらいだよ」
「普通の人は布を買って、自分たちで着るものを作るんでーす」
「アイフェは器用だからね。
彼女の服のコレクションはほとんど彼女自身で作った物だよ」
「おっ こっちは食料品か」
とゆー訳で服は売っていなかったが、食べ物は売っていた。果物、穀物に肉。
よく考えるとこれも料理の材料。買って帰って、各自の家庭で調理する。出来合いの軽食なんかは売っていない。
果物はちょっと齧ってみたくもあったのだが、現在は目的がある。
フェーリン兄弟の家に連れて行かれたセタントくんの無事を確かめる。寄り道、買い食いはそれが終わってからだな。
「大通りの中心に大きい商店があるはずですよー。
その後ろに高い建物があって、その上に住んでるんですって」
フェーリン商会の場所はミューギンちゃんが訊き込んでくれた。
離れた場所からでも、見ればすぐに分かった。ほとんどの建物は石か木で出来ていて、単調な色合い。そこにカラフルな幕や旗を飾って賑やかにしている。中に建物ごと塗っている店があった。お店の正面は赤、裏は黄色、奥に立っている高い塔は青。
赤、青、黄色、信号カラーだな。
結構大きい商店。中には布地に食料、武器や工具も若干扱っている様子。
「魔道具ですねー。
庶民に買える値段じゃ無いですけど…………
飾っておけば、店に箔が着きます。
ウチは貴族御用達の店だぜ、ってなカンジでしょうか。
フェーリン商会と家の名前も思いっきり出してますし。
ここは貴族様がやってる店だぜ、庶民ども、買うならここで買いやがれい、みたいな空気が溢れてますねー」
要するに周りの商店は近所のスーパーや個人営業の八百屋さん、この店は歴史ある百貨店であるぞ、みたいな感じだろうか。それにしては下品な見た目だけどな。
人が多い入口から、裏手へと入って行く。
おそらく裏手にある青い塔の高い位置がフェーリン兄の住処。自分の事を偉いと思っている人って……何故か高い場所に住みたがる。
裏側には門が在って、警備の人間まで存在していた。
「こちらがフェーリン殿のお宅なら、用事がある。
取り次いでもらえませんか」
「あ、なんだお前?」
「約束してる人間としか、フェーリン様は逢わねぇよ」
「約束はしていないが…………こちらに知人、自分の義理の弟がお邪魔している筈なんです」
俺は丁寧に警備の人間に挨拶したのだが、向こうは丁寧に返さなかった。
警備員と言っても令和日本のように揃いでキレイにクリーニングした制服を着た男たちでは無い。汚れた革鎧に剣や槍を持った強面の連中である。
「表の商店から用件を伝えて、取り次いでもらってくれや」
「こっちは知らんヤツを通さねぇのが仕事なんだよ…………
って、ああああああああああ?!」
「なんだ、どうした?」
「あれあれ、後ろの女、昨日のヤツだ」
「なっ……ホントだ…………」
「チクショウ、殴り込みか。
なんで俺たちが当番の時に…………別のヤツが門番してる時に来てくれよ」
アカラサマに俺に対しては脅して帰らせようとしていた連中だったのだが。後ろに金髪の少女の顔を見た途端、顔を引きつらせていた。
「……失礼だな、そんなに怯えなくても良いだろう。
わたしはイズモと違って、常識も礼儀も弁えているぞ」
「まぁまぁ、クー。
覚えていてくれているならちょうどいい。
彼女の弟がこの家に来ている。
その顔を見に来ただけなんだ。
これで通してくれるか?」
「はい、どうぞ、お通り下さい」
「うぉいっ!
通しちゃダメだろ」
「いや、だってよ。
昨日のあの女の動きと殺気覚えてないのかよ。
絶対、敵にまわしたくねぇぜ」
「そりゃ、俺だってそうだけどよ。
だからって黙って通したら、フェーリン様のことだ。
俺らなんて即クビだぞ」
門番の二人は言い争いを始めてしまった。
「まどろっこしい。
強引に押しとおるか?」
「クー、やめておいてあげよう」
めんどくさいから、強引に行ってしまいたい気持ちもあるのだが……この二人の警備の人もタイヘンなんだろーなー、と思ってしまった。サラリーマンの悲哀が感じられる。
「アンタたち、下にクー・クラインが訪ねてきている、と主人に告げたらどうですかー?
通して良い、って話になれば円満解決でーす」
その提案をしたのはミューギンちゃん。そうだね。平和的解決が望ましい。
「そっか、ありがとう」
「よし、俺訊いてくる」
門番は駆けだそうとしていたのだが、ちょうどそのタイミングで奥の建物から人が出てきた。
「あれ……セタントじゃないかっ?
無事だったのか」
「ん、クー姉さんとイズモも……どうしたの」
それはセタント・クラインであった。
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